投稿日:2025年8月16日

フォワーダとのSLAで追加費用の発生トリガーを封じる条項設計

はじめに:製造業現場とフォワーダとのSLA

製造業を支えるサプライチェーンにおいて、輸出入業務の課題は年々複雑化しています。
その中でも、フォワーダ(貨物利用運送事業者)との契約が占める重要性は計り知れません。
多くの現場で悩ましいのは、「見積外の追加費用が後から請求される」ことです。
このイレギュラーコストは、購買・調達担当者の頭痛の種であり、現場の生産計画・原価管理にも多大な影響を及ぼします。

フォワーダとSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)を結ぶ際、「追加費用」発生のトリガーを明確にし、その芽を徹底的に潰しておくことは、コスト管理と信頼関係の両面から必須となります。
昭和世代の“何とかなるさ”や“持ちつ持たれつ”の感覚が根強い現場だからこそ、現実的かつ実効性の高い条項設計が不可欠です。

本記事では、20年以上にわたる製造業の現場経験と管理職視点を交え、バイヤー・調達担当者が押さえておくべきSLA設計の勘どころについて、実践的・現場目線で解説していきます。

なぜフォワーダ契約で「追加費用」が発生するのか

実務で頻発する「想定外のコスト」

稟議を回して予算確保したはずが、「これは追加です」と後から請求される…。
こんな現象が、フォワーダとの取引では繰り返されています。
例えば、
・船会社のスケジュール変動による保管延長費
・現地通関での追加書類・検査費
・大雨やストでの急な振替輸送
・B/L(船荷証券)やInvoice再発行費用
・港湾混雑によるコンテナ追加保管費用
など、その理由は多岐にわたります。

これらは、“現場でどうにもならない不可抗力”として説明される場合が多いですが、実はSLA契約時の規定が曖昧であるために発生するコストが多数を占めます。

昭和式合意の落とし穴

日本の製造業、とりわけ古い体質の企業や中堅・中小メーカーほど「困ったときはお互い様」というメンタリティが根強く残っています。
一見現場主義で柔軟なようですが、これがSLA設計においては想定外のトラブルと追加費用の温床になるのです。

口約束や“都度相談”に頼らず、文書契約でルール化する―この意識改革こそが、アナログ業界脱却の第一歩となります。

SLAで追加費用トリガーを封じる!実効条項の設計

1. 費用発生条件のリストアップと定義

まずやるべきは、自社の過去実績から“追加費用”の発生理由をすべて洗い出し、SLAの条項として明文化することです。
「理由と定義が明記されていない費用」は一切認めない、という基本スタンスを宣言します。
たとえば、
・「本見積もり対象に含まれる費用とその根拠」
・「やむを得ず追加となるケースの具体的パターン」
・「不可抗力(フォースマジュール)」の定義と適用範囲
などを項目ごとにリストアップし、契約書に組み込みます。

2. 追加費用請求の事前承認条項

フォワーダが後出しで追加費用を請求できないよう、追加費用発生時には事前書面承認必須の条項を設けます。
「追加費用が発生する可能性がある場合、必ず○営業日前までに書面にて事前通知し、発注者の承認を得た場合のみ請求可能」と明記します。
どうしても緊急の場合も、即時にメール・電話等で連絡+事後追認の手続き義務を付帯させることで、現場の透明性を確保します。

3. 追加費用の上限規定&ペナルティ条項

各種追加費用ごとに「1件あたり○万円/月額○万円まで」の上限を明記します。
SLA不達成時(連絡怠慢・後出し請求等)には契約金額からの減額や減点、継続取引停止といったペナルティ規定を設け、形だけでなく実効性の担保を図ります。

4. 第三者証明・データ根拠義務

「本当に必要な追加費用なのか?」の証明を怠らせないことも重要です。
現場で発生したトラブル・不可抗力については、港湾公社、船会社の公的通知や帳票など、第三者発行の証憑提出を明示的に義務付けます。
アナログ商習慣の残る港湾・通関系でも、デジタル帳票や写真・動画記録の保全を求める内容を盛り込みます。

5. デジタル監視×現場完結型の運用体制

自動化が進む工場や倉庫同様、輸送プロセスもデジタル化の波が拡大しています。
複数フォワーダ・拠点をまとめて一括管理できるTMS(輸送管理システム)や、IoTを使ったリアルタイム追跡、異常通知と連動した費用発生フローもSLAに組み込むことで、“人間関係依存”から“システム完結型”の運用体制へ移行可能です。

昭和的商慣行を打ち破る「発注側」主導の交渉術

なぜバイヤーから主導権を握る必要があるのか

フォワーダは輸送・通関・保管…と幅広い下請け作業を担い、一見“現場任せ”が最も楽な選択肢に思えるかもしれません。
ですが、サプライチェーンの責任企業はあくまでメーカー・バイヤー側です。
特に自動車、電子部品、精密機器など「納期遅延=生産ライン停止=莫大な損失」が現実となる業界では、リスクの芽を根絶やしにできる力を持つのは“発注者=貴方”なのです。

フォワーダ任せにしない実践的SLA交渉の進め方

・スタンダードな契約書ひな形(業界団体発行など)だけに頼らず、自社独自のチェックリスト・条項案を事前プレップ
・複数社見積もりで“トラブル時想定ケース”の対応フロー・費用細目を比較検証
・SLA交渉時はオンライン会議+リアル現場視察の両方を活用し、「曖昧な運用に逃げ道を作らない」牽制をかける
・「見積書記載なき費用は一切認めない」「事前承認なき追加費用NG」を最優先項目として初交渉時にセットし、土俵を発注主導型に
・現場担当者(物流・通関・工場間口)も交渉メンバーに必ず加え、“営業トーク”だけでのごまかしをシャットアウト
など、現実的かつ実務負担が最小となる主導権確保が必須です。

サプライヤー視点:バイヤーが本当に気にしていることを知る

サプライヤー・下請け会社の立場でも、バイヤーが狙いとしている「追加費用抑制」「リスク明示」「納期責任」の3大テーマは理解しておきたいポイントです。

バイヤーの“常にコスト圧縮を狙っている”本音を踏まえれば、
・自社側から積極的に「追加費用・リスク事項リスト」や「実績データ」を提出|
・緊急時は“決して隠さず”即時報告、透明性をアピール
・“値下げ要求”だけでなく、“納期確保、安定供給”へ話題を展開
することで、“誠実なパートナー”のポジションが築けます。

また、多くのバイヤーは「トラブル時の再発防止策」や「費用発生要因のデータ分析」を重視しています。
昭和式の“言われたからやる”スタンスを卒業し、現場改善提案型の姿勢を持つことで、長期的な信頼確保に繋げましょう。

まとめ:業界変革を先導する「新・SLA条項設計」へ

昭和の商習慣が色濃く残る製造業界、物流・調達分野でも、今やSLAの精緻な設計がグローバル標準です。
とりわけ「追加費用」発生トリガーを管理し切ることで、無駄なコストに振り回されない“強い現場”を作ることができます。

そのポイントは、
・曖昧な合意に頼らず、実務に即した発注主導の契約文書化
・全員現場視点で納得できる具体性・証憑根拠付きの条項設計
・デジタル化・自動化の新しい流れを積極活用
にあります。

競合ひしめきコスト競争が激化するいま、バイヤーもサプライヤーも「今まで通り」で済ませることは許されません。
自社だけでなく、業界全体を底上げする気持ちで、SLAの進化形をぜひ現場に落とし込んでいただきたいと思います。

現場で汗をかき、本質を知る皆さんだからこそできる、「強くて優しいコスト管理」。
その第一歩は、実効性のあるSLA条項設計にほかなりません。

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