投稿日:2025年8月18日

解析駆動の肉厚最適化で材料と加工の両面を下げるCAE活用

はじめに:材料コストと加工費を同時に削減せよ

近年、製造業、とくに金属加工業界で強く求められる「材料費と加工費の両面からのコストダウン」。その最前線に立つのが、解析(CAE・シミュレーション)を駆使した肉厚最適化です。

現場では「安全率至上主義」や「とりあえずこれだけ厚くしておけば壊れない」という昭和から変わらない設計思想が、まだまだ根強く見受けられます。

しかし、グローバルなコスト競争やサステナビリティ要請が高まる現代、従来のやり方では新興勢の外国メーカーに対抗することは困難です。

ここでは、20年以上現場で実務に携わった経験から、実際の工場内の事例も交えつつ、解析ベースの肉厚最適化がどのように材料と加工の両面のコスト最適化に寄与するか、さらに調達目線・バイヤーが意識しているポイント、そしてサプライヤーとしてバイヤーの思考を読むヒントについてまで、ラテラルシンキングで深掘りしていきます。

解析駆動の肉厚最適化とは何か?

安全率の呪縛からの脱却

設計者の多くは「壊れない設計」を優先するあまり、過剰な安全率をかけ肉厚を厚めに設定してきました。
これはほぼ業界共通の慣習ですが、最終的には材料費がかさみ、重量増により加工工数や輸送コストも増大します。

これを打開するのが、CAE(Computer Aided Engineering)による数値解析です。
ストレス解析、有限要素法(FEM)を元に、実際の使用条件下での応力分布を見える化し、必要十分な部位だけ強度・剛性を確保することで均一肉厚からの脱却が図れます。

製造プロセスを意識した最適肉厚設計

さらに、CAEは単に「薄くする」というだけでなく、加工プロセスや量産性まで含めて設計者と生産現場が一体となり最適値を検討できることが強みです。

たとえば、金型鋳造品なら肉厚を薄くしすぎると流動不良や欠陥が発生しますし、板金曲げ品なら最小曲げRやばね戻りへの配慮も不可欠です。

こうした全工程を見据えて、グローバルベースで最適肉厚を再設計する動きが業界標準となりつつあります。

材料費と加工費をダブルで下げるCAE活用戦略

1. 材料投入量の削減=コスト直結

肉厚最適化の最大のメリットは、言うまでもなく材料費の即時減少です。

たとえば部品の平均肉厚を10%下げれば、そのまま材料購入コストが10%下がる――これは管理職にとっても調達・購買としても即数字に効く指標です。

現場目線で重要なのは、「全体を一律薄くする」のではなく、「応力分布に基づき部位ごとにメリハリをつけて薄くする」設計が可能になる点です。

このメリハリ=局所的な肉厚コントロールが、品質・安全を損なわずコストカットを最大化するカギとなります。

2. 加工工数削減・工程短縮によるトータル生産性向上

部品全体の重量が低減されることで、加工設備への負荷も軽減されます。

たとえば大型プレス・大型切削機の場合、一回の加工サイクルあたりのエネルギー量・ツール摩耗・交換頻度が下がります。
ひいては生産タクトの短縮やラインスループットの上昇、場合によっては設備グレードダウンによる設備投資費の削減につながることもあります。

さらに軽量化された部品は下流工程や物流段階でもコストダウンインパクトが波及するため、「単品コスト」だけでなく「総所有コスト(TCO)」の削減貢献が非常に大きいのです。

バイヤー視点:最適化=競争優位の武器

根拠の見える化が発注決定を促す

大手メーカーのバイヤーは年々、「なぜこのコストになるのか」「なぜこの材料使用量なのか」という根拠を求める傾向が強くなっています。

従来型の「経験則」や「勘ピュータ」だけでは厳しいコスト査定を突破するのが難しく、根拠と裏付けを説明できることが重要な競争要素となりました。

CAE解析に基づいた肉厚最適設計は、数値データや検証結果、応力分布図などを活用し分かりやすい根拠提示が可能です。
この「定量的な説明力」が、そのままバイヤーの信頼を得ることに直結します。

持続的なコストダウンパートナーとしての地位獲得

さらに、解析×最適化アプローチをサプライヤー側から提案できれば、自社の競争優位性をバイヤーに印象づけるチャンスになります。

単なる価格交渉力のみならず、現物の「最適提案」による攻めのコストダウン提案は、「コストに協力的なパートナー」としての評価ポイントが飛躍的に高まります。

この視点は、いまや「サプライヤーセレクション基準」として国内外問わず重要度が増しています。

サプライヤーの視点:昭和型常識からの脱却ポイント

「とりあえず実績肉厚」ではもはや勝てない

現場経験者ほど「前任者や実績図面」を再利用しがちですが、これは競合新興メーカーとの価格競争では不利になるリスクが高いです。

バイヤーが評価するのは、「なぜこの設計なのか =CAEnalysis根拠の提示」と「工程全体でどう最適化しているか」という姿勢です。

ここに、解析シミュレーションの活用と、現場工程とのすり合わせを積極的に提案できるかがサプライヤーとしての存立基盤を左右します。

解析提案力こそが”選ばれるサプライヤー”への道

実際、大手自動車や精密機器メーカーの発注部門担当者からは「単なる安売りではなく、工程含めた設計・コスト改善の現実的提案がほしい」とよく言われています。

流動解析やFEM解析のシミュレーションデータをエビデンスとして提示できるサプライヤーは、たとえ単価が他社より若干高くとも「先進製造ソリューションパートナー」として長期取引の対象となるのです。

つまり、積極的な解析ツールの導入・社内設計者のCAEスキルアップが、今後の受注機会獲得の原動力となる時代だと言えます。

現場でありがちな落とし穴と、その打開策

1. CAE過信の罠と「現場勘」との融合

一方で、解析結果=絶対正義とせず、現場プロセス(成形性・加工性等)と整合しているか、最終の現地検証を必ず実施する重要性は今も変わりありません。

「シミュレーションではOKだったのに、実機試作では割れてしまった/ゆがみが大きかった」…といった現象は往々にして発生しがちです。

解析的視点+製造現場視点の両利き化こそが、真の意味でのコスト最適化・品質安定化につながります。

2. 社内抵抗勢力の乗り越え方

昭和型組織の現場では新たな解析手法や設計思想の導入に「やったことないから不安」「余計な手間になりそう」という抵抗も根強いです。

その際は、まず小さなテーマで「材料費◯%削減」「不良率◯%低減」といった成功事例を積み重ね、データで“見える化”することが効果的です。

部門横断で垣根を越えた連携を作ること、また現場技能者とのコミュニケーションを密に保ち、「皆が成功体験を実感できた」事例を積んでいくことが組織変革の近道です。

まとめ:解析活用は一過性で終わらせず、日常化せよ

解析駆動の肉厚最適化は、「単価競争」に追われる日本のものづくりが世界で生き残るための重要な武器です。

材料費の即時削減だけでなく、加工費・工数・全体最適(TCO低減)が一体となることで、製造現場全体に大きな波及効果を生み出します。

バイヤーを目指す方には、「解析に基づく設計根拠を読み解き、サプライヤーの本質力を見抜く」スキルが今後不可欠。

またサプライヤーの立場の方は、安全率や慣習の呪縛から脱出し、解析提案力・現場フィードバックの融合こそが生き残りのカギとなります。

昭和型常識から脱却し、解析×現場データの掛け合わせで新しい製造現場の価値を創造していきましょう。今こそ、現場目線のラテラルシンキングで業界の地平線を自ら拓く時代です。

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