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EPA自己申告と第三者証明を商材と相手国で使い分ける判断基準

目次
はじめに:製造業で求められるEPA活用の最前線
製造業の現場で調達やバイヤーとして活動する中、国際貿易の自由化が進む今、EPA(経済連携協定)による関税優遇の恩恵は計り知れません。
近年、EPA活用には「自己申告」と「第三者証明」という二つの方法があります。
どちらを選ぶべきか、迷う現場担当者も多いのではないでしょうか。
とくに、長年アナログな手法が根付く日本の製造業では、新しい制度への切り替えや判断基準の整理が急務です。
本記事では、現場目線の実践ノウハウとともに、商材や相手国によるEPA申告方法のベストな選択基準について解説します。
EPAにおける「自己申告」と「第三者証明」の概要
自己申告とは何か
自己申告は、原産品であることをメーカーやサプライヤー自らが宣言書により証明する制度です。
通常はインボイスに「原産性声明」を記載し、関税当局に提出することで適用されます。
EUやRCEPなど近年のEPAでは、この自己申告方式が主流になっています。
第三者証明とは何か
第三者証明は、国内の商工会議所や政府機関など公的・半公的な第三者が原産地証明書を発行する方式です。
発行料や証明取得のための手続きは発生しますが、伝統的で信頼性の高い方法です。
中国やタイなど、一部のEPAではこの方式がなお重視されています。
なぜ判断基準が必要なのか〜現場担当者のリアルな悩み
EPAのメリットを最大限活用するためには、申告方式の選択が重要なターニングポイントとなります。
製造業の現場では、以下のような課題や悩みが日々生まれています。
- 自社のどの商品で、どちらの証明方式を採用すべきか分からない
- 相手国の関税当局の運用姿勢がわからず、不安を感じる
- コストや手間、リスクを正確に比較できず、経営層への説明に困る
デジタル化が進みにくい昭和型の現場では「前例が正義」となりがちです。
しかし、ここで思考停止に陥れば、利益の最大化どころか、余計な手間やリスクを被りかねません。
商材特性で判断が分かれるポイント
高価格・ブランド商材は「第三者証明」が有利な理由
高単価な精密機械部品やブランド品では、万が一EPAで原産性否認となった場合のリスクが非常に高まります。
例えば、1コンテナ分で数千万円単位となるような工業製品が、税関で「証明不十分」と判断され追加関税や納付遅延が発生すれば、信用問題にも発展しかねません。
こうしたハイバリュー商材では、第三者証明の「お墨付き」が、リスクヘッジとして強い説得力を持ちます。
また、相手国が日本産品の輸入を厳密に管理しているケースでも、第三者発行の証明書が効力を発揮します。
大量・低単価部品やBtoB汎用品は「自己申告」がコスト効率的
一方で、低価格帯のパーツや原材料、消耗品など、大量取引を前提とするBtoB商材では、証明書発行コストが馬鹿になりません。
月数十回単位で輸出入が発生する場合、1件ごとに第三者証明を取得する手間と費用は大きな負担となります。
自己申告方式であれば、自社で工程・材料管理がしっかりしていれば、都度の費用負担は最低限で済みます。
相手国事情による最適解の見つけ方
ハードルの高い国こそ「第三者証明」で無用なトラブル防止
近年取り沙汰されるのが、相手国関税当局による「疑義照会」や「現地調査」です。
実際、中国やベトナム、タイなどでは日本の原産性自己申告に対して現場レベルで疑念が持たれ、「追加書類を出せ」「工場の現場監査に行く」と迫られることも珍しくありません。
こうしたケースでは、第三者証明が有効な盾となります。
特に、輸出先国の関税担当者が自己申告方式のEPAに不慣れな段階では、商工会議所・JETRO発行の正式な証明書のほうがスムーズに手続きが進みやすいのです。
EPA制度が浸透している国・地域では「自己申告」の柔軟性を活用
一方、EUやアセアン先進国、アメリカ(TPP11加盟国含む)など、自由貿易体制に慣れている国では自己申告方式への理解が進んでいます。
現地の税関当局員も対応マニュアルが整備され、必要に応じて追加説明や帳票提出で原産性がスムーズに認められるケースが増えています。
この場合、自社側でしっかりと根拠資料を準備しておけば、コストメリットの大きい自己申告方式を積極的に活用すべきです。
自己申告と第三者証明の「リスク」と「コスト」のトレードオフ
リスク=否認リスク/コスト=手続きコスト
両者の比較の要点は「リスク」と「コスト」のバランスに集約されます。
| 方式 | リスク | コスト |
|---|---|---|
| 自己申告 | 否認されると、追加関税・罰則・信用失墜リスクあり | 自社内で管理・手続きでき、コストは最低限 |
| 第三者証明 | 第三者から「お墨付き」、リスクは最小化 | 1件ごとに証明書発行コスト、手間も増加 |
現場バイヤー/調達担当者は「商材ごとの原産性証明管理リスト」を作成し、輸出相手国と商品属性を掛け合わせて最適解を探る運用が不可欠です。
現場実践ノウハウ:昭和型アナログ管理からの脱却
品番・仕入先ごとの「原産性証明管理表」の整備
製造業現場では、同じ部品でも生産ロットやサプライヤーが微妙に異なるケースが少なくありません。
昭和型の紙管理やエクセル個人ファイルのままでは、証明方式の選択ミスが生じやすくなります。
最新のEPA管理体制では「品番ごとの原産性判定・証明手段・輸出先ごとの取扱」を一元的にデータ管理する仕組みを作りましょう。
サプライヤーやバイヤー側に求められる視点変革
従来サプライヤーは「言われるがまま原産地証明書を手配」という受動的立場が中心でした。
今後は「どの方式が相手国に適切か」「バイヤーが何を重視しているか」を踏まえた提案型サプライヤーが信頼されます。
逆にバイヤーは、「サプライヤー側の管理実態や証明能力」を情報開示させたうえで、責任ある証明方式の選定が求められています。
失敗事例から学ぶ:判断ミスの代償
コスト削減だけの自己申告は落とし穴に
ある自動車部品メーカーでは、全品自己申告方式に統一したところ、中国税関で「根拠不十分」と判断され、数千万円の追加関税と納付遅延が発生しました。
担当者は「コストだけ見て第三者証明を削った」ことを深く反省しています。
過剰な第三者証明取得も経営効率を下げる
一方、電子部品メーカーでは、高頻度品目すべてに第三者証明を取り続け、年数百万円規模のコストが無駄になっていました。
現状分析なく「昔からそうしている」という昭和型体質のままでは、国際競争力は育ちません。
これからのEPA運用に必要な「ラテラルシンキング」
現場担当者は、過去の経験則や「みんながやっているから安全」という縦割り意識にとらわれがちです。
しかし、国際貿易環境は日々変化しています。
ラテラルシンキング(水平思考)で、「商材×相手国×時流」に柔軟に対応できる運用設計が不可欠です。
例えば、AIやデータベースを活用して、
- 過去のEPA運用実績とトラブル情報を分析する
- 税関側の運用動向をアンテナ高くキャッチする
- 商材ごとの「証明方式の意思決定フロー」を明文化する
これらに取り組むことで、「利益を最大化し、リスクを最小化する」バイヤー・調達担当へ成長できます。
まとめ:EPA申告方式選定のベストプラクティス
EPA自己申告と第三者証明は、「どちらが絶対的に優れている」というものではありません。
選択の基本フレームワーク
- まず商材属性・輸出先の税関実態を冷静に分析する
- 高リスク商材やハードル高国では第三者証明で安全策をとる
- 大量汎用品・コスト重視品目や先進EPA国では自己申告による効率化を目指す
- 現場管理のデジタル化、証明履歴の見える化で属人的ミスを排除する
この記事が、製造業の調達・バイヤー・サプライヤーの皆様にとって、EPA活用の新たな地平を切り拓くヒントとなれば幸いです。
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