投稿日:2025年8月19日

欧州向けEORI番号と通関前登録の実務で到着後の滞留を回避

はじめに:グローバル時代に必須となった欧州向けEORI番号と通関前登録

グローバルサプライチェーンが加速度的に進展するなか、日本の製造業にとって欧州への製品輸出は大きな成長機会です。
しかし、ビジネスチャンスには必ず新たな壁も立ちはだかります。
その一つが「EORI番号」と「通関前登録」といった、欧州特有の輸入通関制度です。

特に近年は欧州連合(EU)で、より厳格な税関管理とセキュリティ強化の動きが進み、事前手続きの煩雑化や、ちょっとしたミスが納期遅延や追加コストの発生につながる場面が増えています。
昭和時代からアナログ文化が残りがちな日本の製造業現場でも、こうした通関手続きのDX(デジタルトランスフォーメーション)や現場目線での知見が急速に求められているのが現状です。

本記事では、私の現場経験をもとに、欧州向けEORI番号取得や通関前登録の実務ノウハウ、そして、ありがちな「到着後の滞留」リスクをどう防ぐか、最新の業界動向や現場視点も交えてわかりやすく解説します。

欧州のバイヤーが重要視するEORI番号とは?

EORI番号(Economic Operators Registration and Identification number)は、EU域内に貨物を持ち込む企業や個人を一元的に識別する番号です。
輸出者・輸入者・通関業者など、輸送と関係するすべての「経済事業者」が取得対象になります。

EUでは強化されたセキュリティ管理の観点から、EORI番号の入力が必須となりました。
これがないと、どれだけ事前に段取りしても、税関で足止めされ「到着後に長期間、港・倉庫で滞留する」など重大なリスクにつながります。

なぜ“今”EORI番号が問われるのか?

背景として、2019年にEUがICS2(Import Control System 2)を段階的に導入したことが大きいです。
これにより、航空貨物や越境ECを中心に「通関前の電子データ提出の義務化」が本格化しています。

加えて、ロシア情勢等に伴う制裁貿易、グリーンディール(環境規制)も強まり、出荷するすべての商品に一層厳しい管理が求められています。
欧州の大手バイヤー(調達担当者)は社内コンプライアンスや納期責任の観点から、EORI番号や通関前登録の“正確性・迅速性”を今まで以上に重視しています。

EORI番号申請~取得のポイントと落とし穴

EORI番号は、EU域内のどの国でも申請できますが「最初に通関を行う国」の税関当局での取得が一般的です。

【ポイント1】 必要な書類の準備と、よくある不備

基本的に必要書類は以下の通りです。
日本法人の場合は、登記簿の英訳コピー、納税者番号、代表者情報など。
提出先は輸入先となる現地国税関(例:ドイツの場合はZoll局)が多いです。

よくある落とし穴は「署名形式の不一致」「和文書類のみ提出」「担当者名の誤り」「代表印の押印忘れ」などです。
国によって些細な運用差があり、問い合わせ対応も日本の常識と異なるため、必ず最新の現地情報を調べるべきです。

【ポイント2】 取得リードタイムと現場対応

EORI番号の審査期間は、2営業日~3週間と国により大きな差があります。
事前審査にて書類不備や追加質問がある場合、1カ月以上要することも珍しくありません。

現場のバイヤーやサプライヤー担当者は、EORI取得に「最低でも1カ月余裕を持ったスケジュール設計」を強く推奨します。
これを忘れると、出荷後のトラブル・追加保管費・サプライチェーンの混乱リスクが跳ね上がります。

通関前登録(プリエントリー)とは?最新の動向と実務ポイント

EORI番号取得と並び、欧州輸出で今や不可欠となった手続きが通関前登録(プリエントリー)です。

ICS2(Import Control System 2)による影響

ICS2は、EU全体で導入される「事前貨物情報提出システム」です。
出荷前に貨物情報(HSコード、輸出入者情報、EORI番号、貨物詳細等)を電子的に提出し、EUの税関リスク評価が完了後に輸送が許される仕組みです。

この手続きが不十分だと、たとえ物理的に荷物が到着しても「輸入港で保留」=動かせない状況になります。
これが“到着後の滞留”リスクの最大要因です。

通関前登録で必須の情報と現場トラブル

提出すべき情報は主に以下の項目です。
・正確なHSコード
・出荷人・受取人のEORI番号
・ロット/シリアル番号またはプロダクトID
・製品の用途・形態の詳細(曖昧な説明はNG)
・搭載貨物リスト(パレット単位等)

現場の実例では「サプライヤーが通関業者まかせにして登録漏れ発生」「日本語–英語変換時のミスによる情報不一致」「直前に輸送モード(航空・船便)が変更され情報提出遅れ」などがしばしば起きています。
特にアナログな運用が残る現場では、情報の二次伝達、転記、紙ベースのやりとりが原因で漏洩やミスも増えやすいです。

“到着後の滞留”を回避するために製造業現場がやるべきこと

これまで見てきた通り、“到着後の滞留”の主な原因は、
・EORI番号の不備・未取得
・通関前登録情報の誤り、登録遅延
・最新規制に未対応の情報伝達フロー
に集約されます。

現場で回避するコツを、具体的に整理します。

1. 仕様書・パーツリストの作成段階から“通関用”情報に注意

製品設計や生産段階で、必ず
・正しい品名(英語、現地語併記)
・成分・用途・HSコード
・原産地証明情報
を集約しておくべきです。

「社内の生産管理資料」と「通関に必要な輸出書類」は微妙に異なるため、一担当者に任せきりではなく、購買、生産管理、品質、輸送が全社的に連携可能な情報プールを形成しましょう。

2. サプライヤー-バイヤー間の早期情報共有と可視化

発注後、なるべく早い段階で
・最終的な輸送方法
・輸入先国税関の最新情報
・EORI番号と各種登録情報の進捗
をバイヤー・サプライヤーの双方で相互チェックしましょう。

昔ながらのメールや電話での“属人的なやりとり”から一歩踏み出し、クラウド上の共通管理ツールや、サプライチェーン全体で見える化を推進するのが理想です。

3. 税関・通関業者との密なコミュニケーション

現地の通関業者は、法規制や運用変更に精通しています。
欧州現地法人や委託先がある場合は、毎月の法令アップデートやQ&Aを共有する習慣作りが重要です。

また、日本側の通関業者についても、EORIやICS2の“現地運用ノウハウが豊富かどうか”を選定条件に組み入れることで、アナログ運用リスクを減らせます。

昭和・平成時代の“紙とハンコ文化”から、DX時代の必須スキルへ

昭和から脈々と続いてきた日本のアナログ現場では、FAXや紙の注文書、手書きのパッキングリストに頼ってきた所も少なくありません。
しかし、欧州税関は電子データの正確さと一貫性が要求される時代に突入しました。
昔なら“通関業者が何とかしてくれる”で済んだ部分が、今や大きなボトルネックとなっています。

現場レベルでは「誰が・いつ・どの担当者として・どの情報(特にHSコードや原産地)が最新なのか」を常に意識し、アップデート・共有・レビューの仕組みを組織文化として取り入れる必要性が強まっています。

今こそバイヤー・サプライヤー両面から“攻めと守り”の体制を

この記事の内容は、製造業でバイヤーを志す方には「自社がどこで“詰まるか”を事前に見抜く目利き力」と「リスクを前倒しで解決する提案力」があることを示します。
一方、サプライヤーの立場なら「欧州向け出荷でバイヤーが今何に困っているのか、どんなことに安全・安心を求めているのか」を理解する絶好のヒントになるはずです。

本記事で紹介した現場視点・実践ノウハウを活用し、バイヤー・サプライヤー双方が“納期トラブルゼロ”を目指せば、業界全体の生産性と信頼性も底上げされます。

まとめ

欧州向けのEORI番号取得と通関前登録は、今や単なる“事務手続き”ではありません。
現場のリアルな混乱や遅延リスク、サプライチェーンの分断といった経営課題に直結する“経営戦略そのもの”です。

この記事のまとめを整理します。
・EORI番号・通関前登録の不備は、決定的な「到着後滞留」リスクになる
・今後、輸送・通関DX化の波は加速する
・旧態依然としたアナログ運用から一歩踏み出し、現場で“己ごと”として仕組み化することが最重要
・バイヤー視点、サプライヤー視点、両面でリスクヘッジと価値向上の両立を目指すべき

ぜひ今日から、自社の「EORI運用と通関情報管理力」の底上げに着手いただくことで、グローバルで戦える現場力を確立してください。

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