投稿日:2025年8月19日

金型メンテの予防基準を共通化し突発停止とスポット費を抑える仕組み

はじめに:製造業現場における金型メンテナンスの重要性

金型メンテナンスは、製造業の事故防止や安定生産、品質保証という観点で絶対に避けて通れない業務です。

製品の精度や納期、生産効率に直結するため、金型の突然のトラブルや故障は、現場に多大なダメージをもたらします。

しかし、現場の実態として「急な突発停止が多い」「メンテナンス基準や方法が人によってバラバラ」「金型修理にかかるスポット費(臨時コスト)が年々増える」といった悩みが多く見受けられます。

この記事では、これら昭和時代から根強く残る現場課題を解決するため、『金型メンテの予防基準を共通化し突発停止とスポット費を抑える仕組み』について、現場の目線を交えて解説します。

バイヤーを目指す方、サプライヤー側でバイヤーの期待値を読み取りたい方にも、実務的かつ本質的な学びとなる内容を目指します。

なぜ「予防型メンテナンス」の共通化が必要か

現場に根付く「事後対応型」のリスク

多くの工場現場では、いまだに「故障したから直す」「異常が出て使えないから修理する」といった、いわゆる事後対応型のメンテナンスが蔓延しています。

この方法は、一見手間が省けるように見えますが、実際には下記のような大きなリスクを内包しています。

・納期遅延やライン停止による機会損失
・修理費用や材料調達費の高騰「スポット費」
・生産品質の瞬間的悪化→不良品の流出リスク
・作業者の属人化による「暗黙知」依存

この悪循環を断ち切る唯一の解は、“予防保全型”のメンテナンス体制の導入と、それを全社共通で標準化することです。

昭和型の「伝承頼み」からの脱却

昭和から続く日本の現場文化では、「ベテランが背中で語る」「異常は手触りで分かる」といった属人的なノウハウ継承が根強く残ります。

しかし、これでは若手や外部サプライヤーとの連携が進まず、組織的な体質強化が困難です。

「誰がどの金型をどこまで、いつ、何の基準でメンテナンスしたのか」が明確に可視化・共有されて初めて、多くの人が安心して働ける現場、
持続可能なコスト削減、新人教育や働き方改革も進みます。

これこそが、予防メンテ基準の共通化が必須な理由です。

予防メンテナンス基準の作り方:現場実践のポイント

①金型ごとの「劣化モード」と「想定NGパターン」を洗い出す

まず最初に、過去の突発停止や金型トラブル事例を全て洗い出します。

「どんな時に、何が壊れて、結果としてどうなったのか」のパターン整理です。

金型の交換パーツ・摩耗部位ごとに
– 消耗パーツの寿命や交換スパン(ショット数、時間)
– 摩耗しやすい部品
– 接触や振動、金型加熱冷却などの負荷パターン
– 異常時の初期症状(隙間、振動音、打痕、バリ発生など)
などを細かく書き出し、「NGサインの兆候」と「放置すると起きるリスク」を一覧化しましょう。

この“見える化”こそが、まず現場の共通理解を作る第一歩なのです。

②メンテ周期を事実データと現場の知見で再設計する

次に、従来現場でなんとなく運用されてきたメンテナンス周期(たとえば「○○ショットごとに分解する」など)を、事実に基づき見直します。

・製品ごと/金型ごとに摩耗率の違いを把握
・どのタイミングで不良発生率が増えるか実データで検証
・現場作業者の「経験値(異音を感じたら要交換、など)」も反映

この「科学的根拠+現場感覚」の掛け合わせが重要です。

見切り発車ではなく、ロスの原因となっている現状周期から、「本来理想的な周期」へ変換する設計こそが、スポット費削減や突発停止“ゼロ”への最短ルートです。

③「共通化」のための標準業務フロー化と仕組み整備

予防保全の真価は“属人化の排除”です。

– 誰でも分かるメンテナンス基準・分解清掃の手順書化
– 予備パーツの在庫管理と調達ルールの一元化
– 全作業履歴のデジタル記録(Excelでもクラウドでも可)
– 「異常兆候が見つかった時の即時レポートと判断ガイドライン」

これらを平準化し、マニュアルやチェックリストとして全員が使える状態に落とし込みます。

また、設備担当だけでなく生産管理・品質管理・調達購買部門も巻き込んで、「金型の健康管理」を共同責任として共通言語化することが組織の体質改革につながります。

デジタル活用と現場力の共創:新たな地平線へ

IoTやAIといった最新技術との連携

最近では、生産管理システムやIoTセンサーを活用し、「金型の異常兆候(温度・振動・圧力・ショット数など)」をリアルタイムで記録し、予兆管理を自動化する動きが加速しています。

AIによるパターン分析で「今この金型はあと何ショットで修理が必要」といった予測が可能となり、突発停止の未然防止や要交換部品の自動通知、さらには自動発注といった次のステージも視野に入ります。

しかし、こうした最新技術の導入効果を最大化するのは、あくまで現場で捉えた「実際に何が起きてどこが限界なのか」という経験値のデータ化です。

歴戦の職人が長年培ってきた「感覚」と、IoTデータやAIの「客観的情報」、
この二つを組み合わせてはじめて、本当の意味で“止まらない現場”を実現できます。

多様な立場で見る金型保全:バイヤー・サプライヤーの視点

予防メンテ基準の共通化は、自社工場のみならず、外部サプライヤーとの連携強化にも直結します。

– バイヤー:安定納期・品質保証・トラブル発生率の低減を確実に見える化できるサプライヤーは最重要なパートナーになります。
– サプライヤー:「当社はこのように予防保全に力を入れています」と具体的データと標準プロセスを示すことで、取引先バイヤーからの信頼が飛躍的に高まります。

また逆に、サプライヤーから「うちではこういう基準で金型管理してるけど、お客さま側ではどんなことを気にしてますか?」と積極的なアプローチができれば、より上位のバリューチェーンに踏み込むチャンスが広がります。

一歩進んだ金型メンテ最適化のためのラテラルシンキング

ここまで述べてきた「予防メンテナンス共通化」に更なる深みを加えるには、現場・部門・業界の垣根を超えた“ラテラルシンキング”が不可欠です。

例えば
– 調達部門が主導して、金型パーツの標準化を進め全社共通ストックを持つ
– 生産管理・品質管理部門と合同で、NG品発生時の金型起因箇所を徹底分析し、属人的な報告を排除する
– サプライヤーと共に定期的な情報交換会を設け、互いの保全ノウハウやトラブル事例を共有しあう
など、分野横断で“金型の健康寿命を最長化する連携”を形にしましょう。

また、若手作業者や外国人スタッフでも分かるピクトグラムや動画マニュアルの活用、設備異常時の即時「しつこい」報告文化の醸成、トレーサビリティ性を高めた履歴管理の自動化など、従来の発想にとらわれない改革を組み合わせることで、突発停止やコスト増大を未然に抑える智慧が生まれます。

まとめ:現場起点で「強い製造業」を創るために

昭和型の事後対応・属人化から脱却し、金型メンテナンスの予防基準を全社・全現場に共通化すること。

それは単なるコスト削減や手順統一に留まらず、バイヤーからサプライヤーまでを繋ぐ大動脈を強靭にし、未来に向けて「止まらない工場」を創る本質的な改革です。

現場で実際に起きていること・繰り返されるトラブルの“深層”を共有化し、テクノロジーや業務部門の融合を推し進める。

それによって、製造業が世界で戦い続けるための確かな競争力を手に入れるのです。

この記事が一人でも多くの現場担当者やバイヤー、サプライヤーの気付きと行動変革のきっかけになることを願っています。

You cannot copy content of this page