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品質不良発生時に仕入先の責任認定が曖昧になるトラブル

目次
はじめに:製造業現場で頻発する品質不良と責任の曖昧化
私たち製造業の現場では、「品質不良」が起きること自体は珍しいことではありません。
しかし、問題となるのは品質不良そのものではなく、それが発生した際に「どこに責任があるのか」が曖昧になり、トラブルに発展するケースが後を絶たない点にあります。
特に近年、サプライチェーンが複雑化し、多重の下請け構造やグローバル調達が進む中で、品質不良の真因追及や責任所在の明確化がますます難しくなっています。
本記事では、昭和の時代から受け継がれる“なあなあ”な責任分担や暗黙のルール、バイヤーとサプライヤー間のコミュニケーションギャップといった現場目線での課題を踏まえつつ、品質不良発生時の責任認定トラブルについて深掘りし、実践的な解決策や業界動向を共に考えていきます。
現場で起こる品質不良のパターン
1. 素材・部品レベルでの不良
たとえば、調達した部品に目視では見抜けない微細な欠陥があった場合、組立や完成品出荷後に発覚することが多いです。
このとき「部品メーカー側の責任なのか、自社の検査体制の不備か」で曖昧な状況が生まれやすくなります。
2. 工程内でのミス混入
サプライヤーでは正常でも、輸送中や自社工場の中で取り扱いミス、保管環境の問題、現場ミス(取付け間違いなど)が起こり得ます。
こうした“工程起因”の不良は、調査の手間が非常にかかり、真因が分からないまま「うやむや」に終わることも少なくありません。
3. 仕様・要求定義の認識ズレ
図面や仕様書、発注条件が分かりにくい場合、「指示通りに作ったつもり」でも、実はお客様(自社やその上位メーカー)が想定していた内容と齟齬が生じます。
列挙すればきりがないですが、何より現場で困るのは「どこまでをサプライヤーの責任とし、どこからが自社のフォロー範囲か」について取り決めが曖昧なまま“慣習”で乗り切ろうとする文化です。
なぜ責任認定が曖昧になるのか:アナログな業界構造と習慣
1.書面だけの契約、口約束の罠
多くの日本の製造業では契約書や図面は形式的に交わすものの、「困ったときはお互い様」「何かあればうちで面倒見るよ」といった口約束・暗黙の合意が根強く残っています。
このため「証拠として何も残っていない」「本当はどっちが何をやることになっていたのかわからない」という事態になりがちです。
2.品質保証体制とノウハウが属人化している
特定のベテラン担当者が長年同じサプライヤーと仕事をしてきた場合、やりとりが個人単位の信頼に依存することが多いです。
新しい人や外部と交代した途端に、「責任分担の解釈が違う」「前任者と話が違う」と混乱が生まれるのも典型的な問題です。
3.多重下請け構造による責任のたらい回し
部品メーカーから1次、2次、3次下請け、さらには海外調達先まで複数の企業が絡むと、「どこが原因か、どこに保証請求するか?」で揉め事となります。
各社が「うちのせいではない」と主張し、結局最終製品メーカーが全責任を負わされるケースも珍しくありません。
バイヤーとサプライヤー、双方の本音と誤解
バイヤーが考えていること
・自社のお客様(最終製品ユーザー)からのクレームを最小限に抑えたい
・サプライヤーには高品質なものを確実に納入してほしい
・でもサプライヤーを過度に責めて関係が悪化するのも避けたい
・不良発生時には迅速な納期リカバリー、柔軟な補償対応を期待
サプライヤー側の考え
・仕様に沿って作って納品したのに、工程外のことで責められたくない
・技術・コスト・納期の限界でやりくりしているので、無茶な要求は困る
・たとえ自社由来の不良でも、損害賠償や多大な経費負担は苦しい
・自社に有利になるよう責任が曖昧なところでは穏便に済ませたい
ここに「相手が何を考え、どこに困っているか」という視点の共有が不足すると、小さな品質不良が大きな信頼崩壊・トラブルに発展します。
実際に起こった曖昧責任トラブルの事例
事例1:電子部品メーカーと自動車サプライヤー
エンジン制御用モジュールの基板で微細なハンダクラックが納入後1ヶ月で発覚。
電子部品サプライヤーは「検査工程では問題なし」と主張。
自動車サプライヤーは「輸送条件や保管環境に基板が耐えられなかったのではないか」と疑問を呈する。
双方が出した調査報告はどちらにも有利な結論に終始し、結局追加出荷・出張修理まで最終的に費用を折半せざるを得なかった。
このような曖昧トラブルは、契約書・品質基準・出荷後責任に関する明確な取り決め不足や、コミュニケーション不足が根底にあります。
事例2:日用品メーカーとパッケージ印刷会社のケース
色ズレのあるパッケージが市中に流通し、消費者クレームが発生。
日用品メーカーは「ブランド毀損の損害」まで印刷会社に請求したい。
しかし、双方の担当者間で色基準の認識がずれていたことが原因と判明。
どこまでが製造側の責任なのか、発注側(デザイン担当含む)のチェック不十分なのかが明確にならず、最終的に“関係維持を優先”してお互い一歩ずつ譲歩する形となった。
なぜ昭和的な曖昧さが今も残るのか
日本の製造業界では「現場の裁量」や「お互い様精神」が美徳とされてきました。
これが一概に悪いとも言い切れません。
大規模災害や有事の際など、現場で“枠を超えた協力”が素早く行えるのも事実です。
一方で、グローバル化や取引のデジタル化が進む中、国際ルールや第三者審査への対応力が問われてきます。
この“昭和の現場感覚”と“令和のグローバル標準”のギャップに、いま業界は直面しています。
責任の曖昧化を防ぐために必要なこと
1.PO(購買発注)・図面・仕様書の「責任分岐点」明記
受入検査や納入判定の基準、保証範囲、重大不良時の調査フローについて細かく文章化し、双方で同意のうえ発注契約に盛り込むことが求められます。
「これ以上はサプライヤーの責任」「ここからはこちらで管理」など、トラブル時のガイドラインを明文化することは、今後の業界標準になっていきます。
2.責任追跡を可能にするトレーサビリティ強化
製造日時・ロット・検査ログ・材料ロット番号など、トレーサビリティ管理システムを活用し、「いつ・誰が・何を・どうしたか」をデータで残すことが不可欠です。
これにより、不良解析時に感情論を排し、事実ベースでの議論・合意形成がスムーズに行えます。
3.現場同士の想定問答・異常時訓練
現場リーダー、管理者レベルで「もし不良が起きたら、責任分岐点はどこか?」「謝罪・調査報告・リカバリー対応は各社誰が行うか?」等を日頃から訓練し、ロールプレイしておくことが重要です。
また、お互いの役割認識を定期的にすり合わせ、担当者の交代時にも「認識の継承」を実務として組み込むことが肝要です。
まとめ:現場が主役の品質づくりへ
品質不良が起きたとき、その責任を巡る曖昧さが企業間の信頼を損なうばかりか、最終的には最終顧客やユーザーの信用も大きく揺らがせます。
現場での経験や暗黙知に頼るだけでなく、契約・仕様・現場対応のルールを可視化し、サプライヤーもバイヤーも“同じ目線”で品質づくりを支え合う仕組み作りが必要です。
昭和のアナログな良さを活かしつつ、デジタルやグローバルスタンダードの知見を取り入れて、次世代の製造業へ進化していくこと。
それこそが、今製造業に携わるすべての人に求められる「現場起点のラテラルシンキング」であり、日本のものづくり・調達購買の未来を切り拓く新たな地平線だと考えます。
正しい責任分担と現場力の連携で、誇りある“日本品質”をこれからも世界に届けていきましょう。
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