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契約文言の曖昧さが原因で発生した瑕疵担保責任を巡るトラブル事例

目次
はじめに
製造業の現場において、調達購買やサプライヤーとの契約業務は日常的に発生しています。
その中でも重要となるのが、契約書内の「瑕疵担保責任」に関する条項です。
多くの現場では、「とりあえず前例にならう」や、「お互い信頼があるから大丈夫」といった気の緩みから、曖昧な契約表現が放置されがちです。
しかし、この些細な曖昧さが、後々深刻なトラブルを招くことが少なくありません。
この記事では、私が20年以上の製造業実務経験で直面してきた、契約文言の曖昧さによる瑕疵担保責任トラブルの実例や、昭和的なアナログ体質の背景、現場で本当に役立つ対策まで、現場目線で具体的に解説します。
購買担当やバイヤーを目指す方はもちろん、サプライヤーとしてバイヤーの心理やリスク感覚を理解したい方にも必見の内容です。
瑕疵担保責任とは?実務における意味合い
瑕疵担保責任の基本と法律上の位置づけ
瑕疵担保責任とは、売買や請負契約において、引き渡された製品や部品に「契約上約束された品質に達していない」不具合(瑕疵)があった場合に、売主や請負人が負う法的責任のことです。
民法改正前は「隠れた瑕疵」に対する責任に重点が置かれていましたが、2020年の民法改正以降は「契約不適合責任」と呼ばれ、より広範囲の不具合が責任対象とされるようになってきました。
製造業の取引現場では、標準的な「瑕疵担保責任期間」が設けられているものの、その条文の表現が曖昧だったり、定義にばらつきがあったりして、問題の発生する余地が残されていることが少なくありません。
現場視点での瑕疵担保責任の重み
取引先との関係が長続きしているから問題は起きない、という心理的な油断が生まれやすいのも製造業界独特の風土です。
一方で、品質トラブルが生じた場合には数百万〜数億円単位の損害賠償リスクに発展します。
現場が「わかっているだろう」という暗黙知で交渉を進めた結果、契約文言が粗雑なままで調印され、後日「想定外」の大きな火種となることもあります。
実際に起きた事例:契約文言の曖昧さが引き起こす悲劇
事例1:納入品の「合否判定基準」が曖昧だったケース
ある大手自動車部品メーカーA社が、サプライヤーB社に車載電子部品を発注した際のお話です。
契約書では「仕様書に従う高品質品を納入すること」とのみ明記。
合否判定の具体的な検査手法や寸法公差、不良率基準などの定義が曖昧なまま納品開始となりました。
数カ月後、エンドユーザーから不具合品のクレームが発生。
B社は「当社が従来納入している条件で生産したうえ、バイヤーからも出荷前確認を受けて合格していた。責任は無い」と主張。
一方でA社は「検査項目や合否判定方法を指定していないのはバイヤーにも落ち度があるが、最終製品の瑕疵責任は負ってもらう」と譲りません。
結果的に、数千万単位の保証金と大幅な製造ラインの再設計を余儀なくされ、B社は経営危機に陥りました。
もし契約条文に「具体的な判定基準」「検査手法」「納品後の不良発生時の責任範囲」などが明記されていれば、双方の認識違いは避けられたはずです。
事例2:瑕疵担保期間の特約があいまいだったために…
別の同業他社でのケースです。
長年の信頼関係があったことから、瑕疵担保期間について「業界慣行に従う」とだけ契約書に記載。
数年後、ロット全体にかかわる構造的不良が判明しました。
バイヤー側は「瑕疵担保責任で修理・交換を無償で」と主張。
サプライヤー側は「納品から1年を超えているので時効」と対立。
結局、折衷案として製品価格の一部減額と限定的な保証対応になりましたが、どちらにも納得感はなく、以降の取引関係もギクシャクしたものとなりました。
このように、「慣習」や「あいまいな文言」に頼った契約は、後々大きな齟齬の種となってしまいます。
なぜ曖昧な契約文言が多いのか? 昭和的アナログ商慣行の功罪
背景:「とりあえず判子」の文化
製造業の、とくに中高年世代の現場には、「いつもどおりだから」「先代からのルール」といった、変化を警戒する空気が強く残っています。
また、上意下達の組織文化や「担当者同士の阿吽の呼吸」といった属人的なやりとりも一因です。
昭和から続く業界では、「全部書面にせずとも信頼でやれる」という考えが根強く、リスク管理の観点が弱くなりがちです。
デジタル契約やAI契約レビューが進んでいる現代においても、「どうせ大丈夫だろう」の精神で曖昧表現をそのまま残してしまう現場が数多く存在します。
アナログ契約書のワナ
昔ながらの“紙契約書”では、「詳細は別紙」や「協議内容に従う」など、実態がブラックボックス化されているケースも多いです。
これが問題発覚時の“解釈バトル”を招き、訴訟リスクや炎上の経営負担増につながっています。
さらには現場メンバーの異動や退職時に「誰も経緯を知らない」「後追いできない」といった負の連鎖を生みだしています。
後悔しないための対策:現場で本当に役立つ契約リテラシー
曖昧さを許さない契約文言の書き方
現場の購買担当やバイヤーにとって、最も有効なリスクヘッジは「誰が見ても解釈が同じになる契約文言」を残すことです。
例えば、
・「当事者が合理的に認識可能な範囲での品質水準」といった曖昧表現の排除
・検査合格基準や寸法公差、不良許容率、試験方法など、具体的な数値や手順を明記
・瑕疵担保責任期間(例:納品日から1年)や通知期限(発見後10営業日以内)の明文化
・責任範囲(部品のみ、取り付け費用も含む、二次損害の有無など)の断言
など、「後から付け足し解釈」ができないレベルまで書類を詰めることが鉄則です。
ベストプラクティスとしては、法務部門や外部専門家のレビューを必ず経て対応することが推奨されます。
発注者とサプライヤーが“本音”で話す場を設ける
契約交渉の実態として、「自社の要望を全て通したい」「とにかく押し切りたい」というスタンスが先行してしまいがちです。
しかし現代では、Win-Winの長期的パートナーシップが求められます。
契約締結前の協議段階から、両者のリスク認識や実運用イメージ、現場の苦労などを正直にディスカッションしたうえで、「本来どこまで責任分担すべきか」という合意形成を図ることが重要です。
これこそが、“曖昧性”に起因する大事故の予防になります。
デジタルツールの活用で契約管理を効率化
現在では、AIを活用した契約文言の自動チェックや変更履歴管理ツールも普及し始めています。
こうしたテクノロジーを賢く使うことで、抜け漏れ・二重チェック・記録管理を強化し、属人性の排除やリスク抑制が実現できる時代になっています。
とくに若手や新任バイヤーには、「契約条文の大切さ」を体感的に学べるエラー事例集やレビュー支援システムを積極的に活用すると成果が出やすくなります。
バイヤーに求められる新たな資質:リスク対応型交渉力
従来の「価格一本槍」や「押し付け型」の交渉では、ここまで説明してきたようなリスクを回避することはできません。
新世代のバイヤーには、
・自社/サプライヤー双方の損失最小化を考え、論理的に契約をつくり上げること
・言葉の解釈を何度も確認し、その都度合意形成を取る力
・いざトラブルが顕在化した時は、冷静に事実確認の上で迅速に契約を精査し、適切な対応を検討するスキル
が問われています。
併せて、社内関係部門(品質保証、生産管理、法務など)と密に連携し、現場の生きた情報を共有して契約作成に落とし込む「現場密着型バイヤー」こそ、今後の製造業のキーパーソンとなりえます。
まとめ
契約文言の曖昧さが原因で発生する瑕疵担保責任トラブルは、決して珍しいものではありません。
特に昭和的なアナログ商慣行が色濃く残る現場では、小さな油断が大きなコストや信頼損失につながります。
「現場目線・事実主義・論理重視」で契約文言を丁寧に見直し、Win-Winのパートナーシップでの製造業発展を共に目指しましょう。
もしこの記事が、契約や購買業務の改善や、調達バイヤー・サプライヤーとしてのステップアップの一助となれれば幸いです。
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