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価格競争と供給安定を両立させる二社購買の配分設計

目次
はじめに ― 製造業に根付く「二社購買」のリアル
製造業の現場で最も悩ましいテーマの一つが「価格競争」と「供給安定」の両立です。
一社購買ではコストダウンが頭打ちになったり、供給リスクが顕在化します。
一方、複数社購買では過度なコスト競争がサプライヤーの体力を削ぎ、品質や納期トラブルにつながることも珍しくありません。
その中間解で根強く定着する購買手法が「二社購買」です。
昭和から現代まで、変わらず製造業のバイヤー、工場の管理者層に重宝されています。
この記事では、現場の実践知と経済合理性の両面から、二社購買配分の設計ポイント、業界トレンド、そして真に強い調達体制構築のためのラテラルシンキング(水平思考)的なアプローチを詳解します。
現場目線で成果を出す、そんなヒントになればと願っています。
なぜ「二社購買」が製造業に根付くのか
一社購買の行き詰まりとリスク
調達購買の世界では、できるだけ取引先を絞り、規模のメリットでコストを削減するという「一社購買(単一サプライヤー)」が一つの理想です。
しかし、現実はそう甘くありません。
供給先の不測のトラブル(災害、品質事故、倒産など)に直面すれば、製造ラインは即ストップします。
また、一社独占になると、「囲い込み」のもと納期対応や品質への緊張感が甘くなる傾向も無視できません。
加えて、原材料高騰時にはバイヤー側が価格交渉力を失い、一方的なコスト上昇を受け入れざるを得ない状況も起こりやすくなります。
複数社購買のジレンマ
対極にあるのが、3社以上による「多社購買」です。
自由競争による価格引き下げ効果が最大化されるものの、納入数量や受注安定が見込めなければサプライヤー側の戦力も分散しやすくなります。
結果として「最低限の設備・体制」「ベテラン技術者の撤退」など、サプライヤーの弱体化が進みます。
最悪の場合、サプライヤーが撤退や倒産となれば、いっそうの供給リスク増大に繋がります。
その中間解、「二社購買」が生む合理的バランス
こうした現実のバランス点として生まれたのが、長年製造業でスタンダードとされる「二社購買」です。
以下のような強みが挙げられます。
– 一社のトラブル時も、予備サプライヤーで供給継続が可能
– 価格交渉の「牽制効果」が働きやすい
– 各サプライヤーも受注量の一定確保により体制強化がしやすい
– バイヤー側で技術・品質の比較評価が継続可能
– サプライヤー間の健全な競争促進が期待できる
日本の製造業は長年、「安定供給」と「コストダウン」を両立し続けてきた実践知のひとつに、この二社購買があります。
二社購買の配分設計 ― シンプルな「50:50」配分だけではない
ケース1:完全均等配分(50:50)
まず思いつくのが、納入数量や金額ベースでの「均等配分」です。
– メリット:完全な公平競争、サプライヤー双方向のモチベーション維持
– デメリット:実力差・技術差があっても数量調整が難しい、相互価格牽制力が弱まりやすい
大手自動車メーカーなど、サプライチェーン管理が高度な現場では、業者間で情報を厳重に分断しつつ、このパターンが活用されています。
ケース2:主従分担型(7:3や8:2配分)
現実的に多いのが、「主サプライヤー=安定供給を背負う」「副サプライヤー=リスクヘッジを担う」という考え方です。
主たる取引先に7〜8割、副サプライヤーに残り2〜3割の発注を継続します。
– メリット:主サプライヤーは一定規模が保証され、投資や生産体制の維持強化ができる。副サプライヤーも安定取引で緊急時の即応体制を維持できる
– デメリット:副サプライヤーの撤退リスク(量が少なすぎれば割に合わなくなる)。主に偏りすぎると、次第に競争力の低下や囲い込みが生まれる
ケース3:技術差・コスト差反映型
一見すると「価格競争」のみで配分を決めがちですが、実はそれ以外にも
– 技術力(熟練度、難易度対応、工程保証力)
– 品質安定度(ロット不良率、再発事故の少なさ)
– デリバリー信頼性(リードタイム、災害対応力)
など、多様な要素を指標化し、配分比率を「変動型」で設計する進んだ企業も増えつつあります。
四半期や半期ごとに配分見直しのPDCAを回すことで、常にサプライヤー間に成長インセンティブをもたせる形です。
昭和のアナログ手法から、今求められる二社購買の進化とは
仕切り価格だけでは読み切れない現代の現場力
かつて昭和の製造業では、「○円で作れ」という仕切り価格主義、年次ごとの値下げ要求、「この量を持っていけるか?」という受注力メインでサプライヤーを選べば十分でした。
しかし現在は、部品の高度化、グローバル競争、自動化投資、災害リスクの拡大など、
一筋縄ではいかない複雑な現場課題が急増しています。
目先の価格だけで配分を決めるのではなく、長期視点での
「サプライヤーの育成・共創」
「工程の改善提案力」
「BCP(事業継続計画)対応」
など、サプライヤー自身の成長ポテンシャルや危機対応力まで評価する二社購買へと進化が求められています。
デジタル時代の情報共有と連携強化
かつては「配分比率」はバイヤー側だけの情報でした。
工場長や現場にさえ意図が正確に伝わってないケースもしばしば。
しかし、IoTや生産管理システムが進化した今では、サプライヤーとも計画数量をオンラインで共有し、
設備負荷、納品スケジュール、品質トラブルの予兆など、多面的な情報連携が可能になっています。
これにより「配分を逆手に取った帳尻合わせ」や、現場の齟齬を減らし、本当の意味でのパートナリングが実現できつつあります。
競争と協調――供給網の持続的発展へ、バイヤーが意識すべき5つの視点
1. サプライヤーの財務健全性・投資体力を重視する
「価格は安いが、無理をさせすぎていないか?」
「その配分で相手の設備維持、技術者確保は続くのか?」
発注側だけの都合で配分すると、相手の体力がすり減り、長期的な供給リスクを自ら招きます。
相互Win-Winとなるラインを意識し、できればサプライヤーの財務や投資計画まで目配りしたいものです。
2. 「競わせ方」を間違えない――価格だけに依存しない配分設計
競争とは「短期的な価格競争」だけではありません。
技術力・品質力も含めて、総合力での競わせ方を設計することが、健全な競争と安定供給につながります。
3. リスク分散―サプライチェーン全体を俯瞰した配分判断
二社購買は、一見リスク分散に聞こえますが、同じ地域で同系サプライヤーに依存していては、災害時に一気に供給が途切れることもあるのです。
地理的分散、製造工程の異なるパートナー選定も忘れてはいけません。
4. サプライヤーへの「成長インセンティブ」を設計する
「努力すれば、配分比率が上がる」「改善提案が採用される」
そうしたインセンティブ設計が、サプライヤーの改善サイクルや自助努力を喚起します。
お互いの中長期成長を見据えた仕組みづくりが重要です。
5. 組織横断の情報共有と連携体制の強化
調達部門、生産管理、品質管理、設計・開発など、サプライヤー情報を多角的に連携できる体制を社内で確立しましょう。
属人的な付き合い・恣意的な配分判断から脱却し、生産システム全体で「価値ある二社購買」を支えましょう。
まとめ ― 未来を切り拓く二社購買の新たな地平線
二社購買は、日本のものづくりを支えてきた合理的かつ現場発の良き知恵です。
しかし、環境変化が激しい今こそ、「価格競争」と「安定供給」だけにとどまらない配分設計――
すなわち、長期パートナリング、リスク多層化、デジタル活用など、
今までにない発想(ラテラルシンキング)による進化が求められています。
調達購買のプロを目指す方、供給サイドでバイヤーの考え方を読み解きたい方――
ぜひ一段深く「配分設計」に目を向け、
持続的なサプライチェーン強化を一緒に実現していきましょう。
以上、現場と机上の理論をつなぐ新たな地平線への一助となれば幸いです。
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