投稿日:2025年8月21日

冷凍貨物の品質劣化を防ぐプリクーリングと積載率設計の工夫

はじめに:冷凍貨物品質を守る難しさ

冷凍貨物は、食品・医薬品・原材料など多岐にわたり、製造業や物流業において極めて重要な存在です。
しかし、「冷凍製品は温度が低ければ大丈夫」という思い込みは禁物です。
現場では「到着したら一部解凍していた」「表面がザラザラになった」「色や風味が落ちている」といったトラブルが多発しています。
これらの多くは「物流段階での温度変化」「積載率の工夫不足」「プリクーリングの不徹底」に起因しています。

昭和時代から続くアナログな運用習慣に加え、省人化・コスト低減のあおりで適切な知置や管理が省略されがちです。
この記事では、「プリクーリング」と「積載率設計」という2つのキーワードに着目し、現場で役立つ品質管理の工夫を徹底解説します。

冷凍貨物の品質劣化メカニズムを現場目線で理解する

なぜ温度管理だけでは不十分なのか

冷凍貨物の品質は、温度「だけ」で守れるものではありません。
商品は「積み込み時」「庫内滞留時」「搬送時」「荷降ろし時」のすべてのバリューチェーンで、温度変化や湿度・空気流れの影響を受けています。

特に積み込み時やドア開閉時の“突発的な温度上昇”、庫内の“冷気ムラ”、荷と荷の接触による“部分的な昇温”は盲点になりがちです。
通称「コールドチェーン」と呼ばれるこの温度管理の流れは、一カ所でも穴が空くと品質劣化を招いてしまいます。

物流現場で起きているよくある失敗例

例えば現場の物流倉庫でよくあるのは、冷凍車に荷物を積む前、「外気温にさらして待機」「シャッターの開閉時間が長い」などにより、積載開始時には既に表面温度が上昇しているケースです。
また、冷凍庫のパレット間・ケース間に“隙間”がなく、空気が循環できずコールドポケット(冷え残り/温まりやすい死角)が生じているケースも多くあります。

これらは長年同じやり方が踏襲されてきた現場ほど起きやすいです。
だからこそ、今こそ「現場の当たり前」を疑い、本質的なポイントを見直す必要があるのです。

プリクーリング(予冷)とは何か?なぜ重要なのか?

プリクーリングの基本原則

プリクーリングとは、貨物やコンテナ、積載スペース内を荷物搭載前に「目的温度まで十分に冷却しておく」工程です。
冷凍食品やバイオ医薬品ではごく当たり前の認識となっていますが、実は「プリクーリングを正確に実践できている現場」は意外と少ないのが実情です。

「どうせ冷凍車なのだから積んでから冷やせばいい」と考えていると、庫内温度の立ち上がりや熱容量の違いにより、目には見えない品質劣化リスクを抱えることになります。

なぜプリクーリングが品質劣化を防げるのか

プリクーリングの最大メリットは、「最初から高温ピークを防ぐ」ことにあります。
冷却前の庫内やパレット・コンテナが温かいままだと、積載された貨物が「部分的に急速加温」されてしまいます。

冷凍品が一度でも-10℃を超えるような温度帯になれば、部分解凍→急速再凍結となり、次のような実害が発生します。

– 結露や氷結層の生成(フリーザー・バーン)
– 食品表面の変色・風味の喪失
– 医療品の有効成分の劣化
– 再凍結による原材料の粉砕・品質変化

プリクーリングを徹底することで、こうした“見えない品質事故”を大幅に減らせるのです。

プリクーリングを現場で徹底するためのポイント

作業手順の「標準化」と「可視化」

まず重要なのは、「プリクーリングを明示的な標準作業とし、その温度確認を見える化する」ことです。
単に「庫内を冷やしておく」と曖昧に伝えるのではなく、「積載30分前には庫内温度-20℃以下であることを温度記録計で記録」「リーダーが温度記録をチェックしたうえで積載開始」とルール化します。

温度の“見える化”のためには、以下が有効です。

– 記録紙式またはデジタル式の温度記録計を必ず導入
– 作業前後で写真撮影による記録(スマホOK)
– スタッフ間の引き継ぎ時に必ず温度目視確認

これだけでも「誰が」「いつ」「どの温度で」作業をしたかが履歴として残り、ヒューマンエラーや“まあ大丈夫だろう”を防ぐことができます。

輸送経路・外気温度を加味した温度設定

また、外気温やコンテナの種類によってプリクーリングに必要な時間や温度が異なります。
夏場や日中の積載では「庫内-25℃」で30分、冬場なら20分など、現場経験から“攻めた条件”を設定しましょう。

特に、アルミボディの車両は温度上昇が激しいため、資材の種類ごと、現場の状況ごとに最適な設定値を決めて管理するのがオススメです。

積載率設計と空気流通:冷気の“死角”を作らない工夫

積載率とは何か?なぜ重要なのか?

積載率とは、荷室やパレット、コンテナの空間に対して「どれだけ貨物を詰め込んだか」を示す指標です。

物流・製造業界では「いかに無駄なく詰めて効率よく運ぶか」が重視されがちで、つい積載率=容積効率だけに注目しがちです。
しかし、冷凍貨物の場合「高すぎる積載率」は、“空気の流れ”を阻害し、貨物の一部が冷えず、逆に品質劣化を招きやすいのです。

理想的な積載レイアウトのポイント

現場目線で押さえておくべき積載設計は以下の通りです。

– 壁・床・天井と荷物の間に必ず「5〜10cm程度の空間」を確保
– ケース・パレットの「通気穴」を冷気流通方向に合わせて配置
– パレットごとに「縦流(前→後)」と「横流(左右)」の空気通路を意識
– 「満載」時もパズルのようにきっちり詰めすぎない

さらに、高さの異なる荷物は低いものを前方/高いものを後方になど、冷気の流路が曲がらないよう工夫しましょう。

積載率80%前後がベストな理由

実務経験から申し上げて、冷凍貨物車両の積載率は「平均70~85%」程度が最もバランス良くなります。

– 65%未満:スペースが空きすぎて冷気が偏り、コストが割高
– 95%以上:荷物間や壁に隙間がなくなり、冷気が届きにくく品質事故リスク大

この積載率の目安を「積載設計ガイド」として現場スタッフに明示する。
そして経験者や新人が常に“ダブルチェック”“ポジション変更”を自主的に行える仕組みをつくることが、質の高い現場をつくるカギです。

昭和的アナログ体質をどう乗り越えるか?現場管理への提言

現場にはびこる「今までこうやってきた」「うちのやり方なら大丈夫」という昭和型アナログマインドが、冷凍品質事故の温床となっています。
ここでは、長年の経験から実行力ある改善策を提案します。

1. トラブル再発防止のための「エラー可視化」

過去に冷凍製品の品質クレームが出た場合は、「結局、どこで温度逸脱が起きたか」を作業工程ごとに徹底分析し、作業手順ごとに「なぜ」「どの温度」で問題が発生したかを見える化しましょう。

そして、現場の毎日の積載作業記録に『異常発生の兆候』が無かったかフィードバックするPDCAサイクルを定着させます。

2. ベテラン経験とデジタルツールのハイブリッド運用

プリクーリングや積載レイアウトは、現場経験者の“勘とコツ”がものをいいます。
ただし、若手や人材流動化の進む今の時代、こうしたノウハウは「口伝え」だけでは残せません。

IoT温度センサやクラウド記録システムなどを活用し、「毎日の温度推移ログ」「積載写真データベース」など、再現性の高いデータベース化を進めましょう。

3. サプライヤーやバイヤーとの連携深化

冷凍貨物の品質維持は、工場や倉庫、運送業者、そしてバイヤー側(仕入れ・販売サイド)との連携が不可欠です。

バイヤーが「これぐらい冷えていればいい」ではなく、現場の実態に即した積載設計や温度保証を一括連携する。
場合によっては「輸送協定書」や「冷却パターンの共有化」など、インダストリー全体での品質基準の明文化も進めましょう。

まとめ:現場の積み重ねが冷凍品質を守る

冷凍貨物の品質事故を根絶するためには、現場ひとつひとつの小さな“気づき”が何より重要です。
プリクーリングの標準化、積載レイアウト設計、昭和マインドから脱却したデータ活用――。

どれも「積み重ね」と「見える化」の工夫によって大きく進化します。
製造現場、バイヤー、サプライヤーの皆様が互いに知恵を持ちより、高品質なコールドチェーンを共に築くことが、これからの製造業の発展につながると確信しています。

ぜひ明日から、現場でできる小さな一歩を始めてみてください。

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