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輸送費の高騰分を転嫁できず収益を圧迫する問題

目次
はじめに
日本の製造業が直面している大きな課題のひとつに、「輸送費の高騰分を取引先に転嫁できず、自社の収益を圧迫する問題」があります。
これは、単なるコスト増加の問題にとどまらず、企業経営やサプライチェーン全体のあり方を根底から問い直すきっかけともなっています。
この記事では、20年以上工場現場で培った知見をもとに、この輸送費高騰問題がなぜ深刻化しているのか、そしてアナログな業界構造の中、どうすれば現場目線で解決の糸口を見出せるのかを深掘りしていきます。
なぜ今、輸送費がこれほどまでに高騰しているのか
輸送業界の深刻な人手不足
昭和時代から親しまれてきた日本の物流システムは、ドライバーの高齢化と新規雇用の難しさという壁に直面しています。
特に2024年問題と称される労働時間規制の強化により、現場の人手不足はさらに加速しました。
この背景には、運送会社の売り手市場化と、コストアップ分を価格に転嫁できない下請け構造が色濃く残っています。
燃料費・車両コストの上昇
原油価格の高騰はもちろん、今やEV車導入や環境規制への対応で車両コストもじわり上がっています。
リース料、維持費、さらには安全性能を高めるための投資もバカになりません。
資材・副資材価格も連動して上昇
パレット、梱包材、ラベル、資材用シートなど、物流に付随する副資材も値上げが続いています。
これらは一見、細かい費用に見えますが、現場の数字を積み上げると無視できないインパクトとなり、全体の収益を大きく圧迫します。
なぜ高騰分を転嫁できないのか
価格転嫁交渉の”見えない壁”
日本の製造業―特に下請けサプライヤーの多い業種では、「親会社優先」「長年の取引慣行」「お客様は神様体質」が根強く残っています。
現場では「この分、値上げしたい」と切り出しにくい空気が漂いがちです。
また、特に大手と中小の力関係が不均衡な場合、値上げ交渉はタブー視され、言い出せば「他社に切り替えられるかもしれない」という恐怖が先立ちます。
調達・購買側の「コスト低減志向」の根深さ
調達や購買の現場では、いかにコストを抑えるかがKPI(重要業績評価指標)とされる傾向が依然強いです。
どれほど物流現場が苦しんでいようとも、「前年同月比マイナス」のプレッシャーが優先されるため、単純な”転嫁”は容易に飲み込まれないのが実情です。
「付加価値」の説明力・説得力不足
サプライヤー側の交渉力が弱い原因のひとつとして、「なぜ値上げが正当なのか」をデータや資料で分かりやすく説明する能力、つまり”エビデンスに基づく主張”のノウハウ不足があげられます。
「ドライバーが辞めて…」「燃料が上がって…」という感情ベースの訴えでは、バイヤーを納得させる材料として弱く、値上げ交渉が空転しがちです。
業界動向:アナログ慣行からの脱却は進むのか
デジタル化遅れと情報格差
大手製造業も、中小サプライヤーも、いまだにFAX・電話中心。
運賃データをリアルタイムで共有する仕組みも浸透せず、「現場感覚」頼みのコスト試算が常態化しています。
この慣行の中で、損益分岐点の予見性が徳俵のように「現場の長年の勘」に委ねられており、ロジカルな転嫁交渉はまだまだ発展途上です。
物流ベンダーの統合・複合型提案
最近では、大手物流ベンダーが複数企業の輸送案件をプールして最適化するサービスや、AI受発注・車両配車の自動化を売りにしたソリューションが登場しはじめました。
一方で、現場では「うちの会社専用にカスタマイズされた細やかな対応」を求める声が根強く、完全な標準化・共有化は思うように進んでいません。
コスト”吸収”文化との葛藤
古くからの「とりあえず自社で吸収」「努力工夫でなんとか」という日本型の現場根性文化が、悪くも美徳として残っています。
これにより、現場管理職も「上に言い出せず」「現場で何とかやりくり」の繰り返しとなり、根本解決が後回しになっています。
ラテラルシンキングによる解決アプローチ
交渉力向上と「共同物流」の視点導入
個別企業単独では荷量が小さく、運送会社とも価格交渉力が弱い状況でも、同業他社と「共同物流」や「貨物混載」を検討することで輸送効率・コストを下げる可能性があります。
ライバルだから無理…とあきらめず、同じ地域・路線での共同運行を模索すると、大胆なコスト分散が可能です。
バイヤーとの”共創”の関係構築
単なる価格交渉ではなく、バイヤー(調達担当者)と一緒に「今後の共存共栄」を議論する場を持ちましょう。
「物流コスト上昇の現状」「なぜ交渉が必要なのか」をロジック・データで可視化し、「どうやったらウィンウィンになれるか」を一緒に考える姿勢が、信頼と理解につながります。
たとえば、バイヤーに対して
・毎年1回、物流費率と燃料高騰率の説明会開催
・工程短縮や荷待ち時間の大幅削減提案
・期間限定での値上げ、条件見直し協働プロジェクト
を提案すれば、バイヤーも「自分ごと」として問題に向き合いやすくなります。
現場データの「見える化」と継続的な改善
昭和の現場感覚頼みから一歩進んで、リアルな物流データを「見える化」し、数値で語れる現場マインドを養いましょう。
・運賃推移
・副資材の単価明細
・ドライバー人数、配送リードタイム
・1回あたりの積載効率
などを定期的に抽出・分析し、すぐにバイヤーと共有できるレベルにまで整理しておくことが重要です。
供給網全体の最適化を見据えた”新しい価値”の提案
単なる「値上げ要請」から、「全体コスト最適化」「サステナビリティへの貢献」といった付加価値訴求へとステージアップさせることも有効です。
たとえば
・CO2削減も視野に入れた共同配送ルート提案
・資源循環型パレットやリターナブル材利用の提案
・納品ロット・頻度の見直しによるコストセーブ
など、バイヤーに「+α」の利益を感じてもらうことが、転嫁交渉の助けとなります。
まとめ:昭和モデルから脱却し、共創環境への第一歩
輸送費の高騰分を転嫁できない課題の背景には、
・物流業界の構造的変化
・根強いアナログ商慣行と現場文化
・バイヤー側の徹底したコスト至上主義
という三重苦があります。
ですが、「現場で溜息をつく」「我慢だけで吸収する」フェーズを脱して、今こそ
・共同化による交渉力提升
・データドリブンな現場主導の提案
・バイヤーとのオープンコミュニケーション
を実践する時です。
現場に根ざした課題解決のアイデアと、”共創”をキーワードにした最適化マインドを持てば、古い昭和型慣行を乗り越え、持続的なサプライチェーンと収益モデルが必ず実現できます。
製造業の皆さん、現場目線の声を大事にし、バイヤーの視点・サプライヤーの事情、それぞれを理解し合って、「互いに利益のある関係」を広げていきましょう。
それが、日本のモノづくりの未来を切り拓く第一歩となるはずです。
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