投稿日:2025年8月22日

NVOCC破綻・倒産時の貨物保全:運送人責任と貨物引渡しの法的対応

NVOCC破綻・倒産時の貨物保全:運送人責任と貨物引渡しの法的対応

はじめに〜なぜ今NVOCCのリスク管理が問われているのか

2020年代のグローバル物流は、パンデミックや急激な需要変動、さらにはサプライチェーン遮断や海運コンテナ不足など、かつてないほど不安定になっています。

製造業の現場では「いつもの手配」の安心感がもはや通用しなくなっており、調達部門・購買部門・物流管理の責任者、さらにはサプライヤーにとっても、NVOCC(非船舶運航業者)の破綻や倒産は決して対岸の火事ではありません。

貨物や引渡し、資金回収といった現実的なリスクが、昭和の知恵だけでは立ち向かえない時代がすでに訪れています。

本稿では、法律論と現場感覚を織り交ぜ、NVOCC破綻時のリスク、運送人責任、貨物保全、そして実務的な対応策まで、製造業の目線で分かりやすく解説します。

NVOCCとは何か?現場に潜む複雑なリスク構造

基本の定義と業務範囲

NVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier)とは、自らは船舶を保有しないものの運送人としてフォワーダー(貨物利用運送事業者)と似た機能を果たす事業者です。

コンテナスペースを船会社からまとめて購入し、荷主から小口の貨物を預かり、混載(LCLコンテナ)として他の貨物と一緒に運びます。

荷主とはBL(B/L:船荷証券)を発行し、「運送人」としての契約関係を持ちます。

つまり、荷主にとってはNVOCCが実質的な運送責任者であり、NVOCCが倒産した場合、貨物やお金の流れ、法的関係に問題が発生します。

意外と多い?日本のアナログ業界ならではのリスク

製造業や商社の現場では、「付き合いが長いから大丈夫」「大手だから潰れない」という前世紀的な油断がいまだ根強く残っています。

また、紙ベースのB/L、FAXでの情報伝達など、ブラックボックス化しやすい運用が散見されます。

このアナログ体質が、万一NVOCCが破綻した際にリスクを把握しきれず、被害を拡大する要因になりがちです。

NVOCCが倒産したら何が起こるのか?貨物・支払い・債権債務の観点

貨物の所在と「売掛金」の宙吊り状態

最も重要なのは「預けた貨物がどこにあるか、誰が管理しているか」です。

NVOCCは貨物と運送責任(B/L)を持っているため、破産管財人や債権者の管理下に入る場合があります。

また、運送費の支払いが完了していない場合は船会社またはターミナル側で貨物をストップさせるリスクがあります。

さらに、運送費の前払い・後払いどちらだったかによって金銭債権・債務の処理も変わるため、非常に複雑な状況になります。

BL(船荷証券)の停滞がもたらす重大リスク

BLは貨物の所有権を移転する重要な書面です。

NVOCCがBL原本を発行していた場合、その原本がどこに保管されているか、引渡しのなされ方によって、貨物の引渡しができなくなるケースもあります。

BLが未発行でNVOCCが破綻した場合、引替交付ができないため輸入側で貨物が「足止め」され、納期遅延や得意先への納品トラブルを招きます。

複雑に絡み合う利害関係者

NVOCCの破綻時には次のようなプレイヤーが絡みます。

・NVOCC(運送人、およびその破産管財人)

・荷主(製造業バイヤー、サプライヤー)

・船会社(実際の海上運送を手配)

・ターミナル/デポ(貨物の保管・管理)

・金融機関(BLを担保にした信用状発行など)

このため、誰がどこまで責任を持ち、どう行動すれば自社貨物・資金を守れるのかが見えにくい状態になりやすいのです。

運送人(NVOCC)の法的責任と貨物保全の現実

法律上の運送人責任とは

商法や国際海上貨物運送法上、NVOCCも「運送人」として貨物の受け渡し・事故防止など責任を負います。

しかし倒産手続きに入ったNVOCCは「通常通り運送義務を履行できない」状態となるため、荷主の側から見れば契約違反=損害賠償請求の余地もあります。

ただし、現実問題として倒産した法人には「支払い能力」がありません。

つまり原則論を主張しても貨物引渡しや損害回復が現実には困難なことが多いです。

貨物引渡しの具体的な流れと現場の混乱

(1) NVOCCがBL原本を持ったまま倒産した場合、そのBL原本が誰の手にあるのか不明確です。

(2) 正規のBLを持っていても運送費未払いだと、船会社や港のデポが貨物をリリースしない場合もあります。

(3) 荷主が引渡しを主張しても、破産管財人は「破産財団」に組み入れてしまうことがあるため、直ちに回収できるとは限りません。

(4) 裁判外で「担保解除」「貨物引渡命令」を申し立てるプロセスを踏む必要が生じることもあります。

こうした“現場のすれ違い”が納期トラブル、欠品、顧客クレームの元凶となります。

現実的な損害保全策

倒産・破綻リスクを前提に、製造業バイヤーやサプライヤーが今すぐできる保全策を挙げます

・BL(船荷証券)は極力電子化への切替(e-B/Lなど)の推進

・運送費用の支払いタイミング(前払い/後払い)の見直し

・NVOCCの信用状況チェック、場合によっては複数NVOCCの分散利用

・重大貨物は大手船社系フォワーダーを活用、荷主直契約への移行

・荷主責任保険、運賠保険の適用範囲確認

・万一の際の引渡し・債権回収フローを自社社内で明文化、定期的にレビュー

フローがブラックボックス化しやすい日本の現場ほど、こうした事前準備が重要です。

製造業現場で生き抜く知恵〜未来を見据えたリスクマネジメント

バイヤー・サプライヤー双方が身につけておきたい観点

・「運送人責任=最後の砦」ではない現実

・実際に貨物をコントロールしているのは誰か

・便宜主義的な「長年の付き合い」への依存から脱却する

・調達先、物流インフラの多層化による分散管理

・そして何より、現場レベルでリアルタイムに状況を把握し、即応する意識

これは昭和から続く「同じ港、同じ便、同じルート」の安心感から一歩抜け出し、グローバルな視点で工場・事業を守る新常識です。

ラテラルシンキングで業界にイノベーションを

NVOCC倒産が現実的リスクとなった今日、日本の製造業現場に求められるのは「粘り強く守る知恵」と同時に、「枠組みを超えて発想する横断的な視点」です。

IT技術の導入に積極的な商流管理や、物流事業者とのパートナーシップ強化、多国籍間情報共有のシステム化など、デジタル化と業務横断の合流点にこそ未来があると考えます。

また、商社・フォワーダー・サプライヤーが同じ情報プラットフォームを共有し、不測の事態でも貨物・資金を透明かつ迅速に動かせる設計に変革を進める必要があります。

まとめ〜「物流危機時代」の実践的な心得

危機をチャンスに変える製造業の本質

NVOCC破綻・倒産はいまや“あり得る前提”の時代です。

製造業の調達担当者も、サプライヤー側も、「貨物の流れ」と「契約の流れ」を可視化し、いざという時の責任と行動の優先順位を明文化しておくことが生き残りの鍵となります。

最後に強調したいのは、「紙」と「口約束」だけを頼りにしたアナログな体質から、デジタルシフト・分散管理への現場改革こそが、これからのグローバル製造業の不動の基盤になるということです。

現場感、経験知、法的知識、そして“ひと工夫”を武器に、危機の時代を強く賢く乗り越えていきましょう。

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