投稿日:2025年8月22日

航空GHAの破損報告(PIR)を確実に取るための到着時ルーティン

はじめに:製造業の現場から学ぶ「PIR取得」の重要性

製造業における物流や調達購買は、「安全・安心・確実」を求め続けてきた歴史があります。

中でも近年は、航空貨物を利用したグローバル調達、緊急輸送、サプライチェーンの多様化が加速しています。

しかし、航空輸送には「破損」や「誤配」など、思いがけないアクシデントもつきものです。

その際、サプライヤーやバイヤー、そして現場担当者にとって最も神経を使うのが「PIR(Property Irregularity Report:破損報告)」の取得です。

PIRを確実に取るか取らないか――。

これが“泣き寝入り”になるか、賠償や代替品手配が迅速に進むかの分かれ道です。

製造業の現場視点、さらに昭和から続くアナログな現場の事情も織り交ぜて、PIRの取得と到着時ルーティンを徹底解説します。

PIR(破損報告書)とは?製造業における役割とリスク

PIRの基本:なぜこれが重要なのか

PIRとは「Property Irregularity Report」の略です。

航空貨物において、荷物の破損や紛失、誤配時に航空会社グランドハンドリングエージェント(GHA)が発行する正式な事故証明書です。

この書類がなければ、損害賠償請求や輸送保険請求など、ほぼ全ての交渉がスタートできません。

輸送現場、工場、生産管理、購買担当者なら、痛い経験をされた方も多いはずです。

PIRがもたらす3つの現場インパクト

1. 社内外の損害賠償・交渉で必須
2. 不良発生のトレーサビリティ(追跡性)の確保
3. お客様(エンドユーザー)への説明責任を果たすための証拠となる

つまり、PIRが無ければ、現場責任者からバイヤー、最悪の場合は自社の信頼まで失いかねません。

昭和アナログ現場に今も残る“PIR取得漏れ”の現実

現場アルアル:現物優先・報告後回しの危険性

多くの工場や物流現場では、「商品の受け取り・現物チェック・すぐ生産投入」が最優先です。

特に日本の現場は“納期厳守至上主義”が根強く、破損があっても「とりあえず使えるなら報告は後で」という空気がまだ多く残っています。

しかし、この判断が最終的に“大きな損”につながることを、20年以上の現場経験を通して強く実感しています。

「その場でPIRを取れなかった」時点で交渉力は激減

アナログな現場では、「担当者が不在」「フォークマンが未教育」「現場が混みあいすぎて確認できない」などで、その場でPIRが取れないケースが頻発しています。

結果として、“PIRがないので補償できません”というトラブルが現在も絶えません。

航空GHAの破損報告(PIR)を確実に取るための到着時ルーティン

ルールだけでは防げない。現場で本当に必要な4ステップ

PIR取得率を100%に引き上げるには、「ルール化」だけでなく、「現場ルーティン」と「意識付け」が必須です。

私が現場改革で実践して効果があった到着時ルーティンを紹介します。

1. 到着前に事前情報を入手する

貨物到着前に、「航空会社からの搭載完了・到着予定」「AWB情報」「過去の事故歴」などを事前に必ず入手し、受け取り担当者に共有しておきます。

これだけで“油断”や“受け取り漏れ”を防げます。

2. 受け取り前の“破損チェックリーダー”の指名

特定の担当者、または責任者を受け取り時に「破損チェックリーダー」として必ず明確に割り振ります。

現場の「誰かがやるだろう」では絶対にPIR漏れが防げません。役割分担を徹底しましょう。

3. 受け取り時には“ルーティンチェックリスト”を活用

・外装破れ、へこみ、濡れ、汚れ
・バンド、テープ等の破損・剥がれ
・ラベル、伝票の差異や損傷
・数量や外装と送り状のミスマッチ
・高額品や精密機器の場合、写真撮影

チェックリストは紙でもスマホでもOK。昭和現場ならポケットサイズのラミネートカードも超有効です。

4. 少しでも異常があれば、すぐ現場でPIR申請

ここを5分でも後回しにすると、現場責任者や運転手が現場を離れてしまい、PIR取得が困難になります。

「異常あり」なら、その場で航空会社スタッフ(GHA)に声をかけ、PIR発行と現場立ち合いを必ず求めてください。

写真を撮って証拠保全も死守しましょう。

PIR取得を阻む“現場のあるある”と対策

ケース1:忙しい現場で優先順位が下がりがち

→【対策】月1回の現場ミーティングでPIR取得の失敗事例を共有し、“現場の守護神”としてPIRがいかに重要かを教える。

ケース2:“書類待ち”のストレスで後回しにしてしまう

→【対策】スマホやタブレットでPIR申請可能な最新システムや、現場で即座に申請用紙を入手できる工夫(例:受付近くに予備の申請用紙置き場を設置)

ケース3:現場担当者がPIRの意味・価値を理解していない

→【対策】PIRがあれば200万円、なければ自腹……など具体的な損失イメージを教育。
現場リーダーの評価指標にPIR取得率を加えることも効果的です。

ケース4:深夜・休日到着時の“丸投げ対応”

→【対策】PIR翌日申請でもOKなケースもあるが、「現場証拠写真」「タイムスタンプ付きメッセージ」「相手先(GHA)への即時メール送信」など、証跡を必ず残すルーティンを徹底する。

バイヤー・サプライヤーの立場から見たPIR取得のリアル

バイヤー視点:コストダウンよりも重大な「信頼」の源泉

安価なサプライヤー選びより、“トラブル時にしっかり対応できる現場力”が、長期的には大きな差となります。
PIR取得率100%の現場は、バイヤーから選ばれるサプライヤーの条件にもなっています。

サプライヤー視点:PIR不取得=絶対的不利という現実直視を

「壊れてた!」といくら主張しても、“その場でPIRがない”=原則補償適用外という世界標準です。
これを知らずに現場を運営しているサプライヤーは、今すぐ自社ルーティンを見直して下さい。

現場マネージャーとしてのアドバイス

現場の小さな手間ひまが、会社も顧客も業界の信頼も守ります。
“PIR取得ルーティン”を形だけのマニュアルではなく、「現場の誇り」として根付かせましょう。

まとめ:PIR取得率100%の現場が製造業を変える

航空GHAの破損報告(PIR)を確実に取るための到着時ルーティン――これは単なる“型”ではありません。

それは、現場・バイヤー・サプライヤーが三位一体となって業界を一歩進める“最前線の武器”です。

昭和のアナログ現場にも、最新デジタル現場にも通じる本質です。

ぜひ自社に合ったPIR取得ルーティンを設計・運用し、現場作業者一人ひとりが「守り手」となれる企業文化を育てて下さい。

これが、長期的な利益と信頼、そして業界発展への最短ルートであると、私は確信しています。

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