投稿日:2025年8月24日

配送スケジュールの固定化で配車割増と待機料を抑える

はじめに:昭和の常識から脱却するために

近年、製造業の現場では「配送スケジュールの固定化」の重要性がますます高まっています。

物流費の高騰、ドライバー不足、長引く原材料費の上昇――これらの環境変化を受け、現場レベルでの配送業務の見直しはもはや待ったなしの状況です。

とくに「配車割増」や「待機料」といった物流コストの増大は、調達購買・生産現場の利益を確実に圧迫しています。

本記事では、昭和時代の慣習に縛られることの多いアナログな業界構造と照らし合わせながら、現場目線の課題解決策や最新の動向、サプライヤー・バイヤー双方の立場から「配送スケジュール固定化」の実践的な進め方を掘り下げます。

現場における配送スケジュールの現状と課題

現場の実態:なぜ今も「臨機応変」が当たり前なのか

多くの製造業現場では、製品の納期や工程遅れ、突発的な生産計画の変更により、配送業者に直前で依頼内容の修正をお願いするケースが後を絶ちません。

昭和の時代から続く「現場優先・現場都合」のカルチャーが今でも根強く残っているためです。

また、電話・FAXでのやり取りが主流で、システムによる配送依頼や情報共有がほとんど行われていないケースも多々見られます。

このアナログ体質が、「割増料金」や「長時間の待機発生」という物流サイドの非効率につながっています。

配車割増・待機料の発生メカニズム

「急な依頼でトラックが手配できない」「早めに現着したが、積み込み開始まで何時間も待機」といった事態が日常茶飯事です。

これらが運送会社の原価上昇となり、工場側への割増請求や追加の待機料の発生につながっています。

バイヤーからは「なぜこんなに物流費が上がるのか」との疑問が絶えず、サプライヤー側は「突発的な指示に対応するため負担増はやむを得ない」と言い訳しつつ、現場の生産性向上の機会が失われているのが現状です。

なぜ「スケジュールの固定化」が求められているのか

ドライバー不足と物流2024年問題のインパクト

日本全国で加速するドライバー不足や「2024年問題」を背景に、“いつでも”“自由に”荷物を運べる時代は終わろうとしています。

運送事業者からは「決まった曜日・決まった時刻・決まった量」でないとトラックを確保しにくい、という声が日に日に強くなっています。

その一因として、物流業界では働き方改革の進展により、長時間労働が厳しく制限されていることが挙げられます。

この状況で、サプライチェーンの調整力・現場の生産管理能力が問われているのです。

アナログ現場に残る「ムリ・ムダ・ムラ」

一方で、多くの製造現場では「工程進捗に合わせて、ギリギリで配送手配をかければよい」といった昭和的な発想が今も根強く残っています。

これが結果として、「特定日に荷物が集中」「思惑通りに工程が進まずトラックが無駄に待機」といった“ムリ・ムダ・ムラ”の温床となっています。

こうした悪循環から脱却するためには、配送スケジュールの固定化=計画的な“平準化輸送”の実現が不可欠です。

スケジュール固定化のメリット:現場と物流の効率UP

1. 物流業者にとってのメリット

定期便・共同配送などスケジュールが固定された取引であれば、運送会社は自社の車両・ドライバーの稼働を安定して見込めます。

“割増なし”の運賃設定やコスト圧縮、過剰な待機なしでの業務遂行が可能となり、ドライバーの働き方改革にも繋がります。

また計画的な配車ができるため、「ダブルブッキング」や「当日キャンセル」による運行ロスも極小化できます。

2. 製造現場・サプライヤーにとってのメリット

配送スケジュールの固定化は、“突発対応”に追われる事務工数や、現場の段取り替え・人員応援といった手間を大きく削減します。

毎回の個別調整や「割り込み仕事」が減ることで、計画的な生産・安定した品質確保が実現しやすくなります。

また、突発的な割増運賃・待機料の発生リスクも抑えられ、総合的なコスト安定化をもたらします。

3. バイヤー(購買担当者)にとってのメリット

一番のメリットは、「物流コストの見通しが立ちやすくなる」点です。

また、特定サプライヤーだけが割増を請求してくるなどの“見えにくい”コスト要因を排除し、平等・透明な物流管理が可能になります。

さらに、サプライヤーとの交渉や契約も「物流面の調達力」を背景により有利に進められます。

実践に向けて現場で取り組むべきポイント

1. 生産計画と連動したスケジューリングの再設計

配送スケジュールの固定化は、生産計画そのものの“前倒し”・“精度向上”が大前提です。

まずは現場の週間・月間計画をできるだけ早期に共有し、工程担当者・物流担当者・購買担当者が三位一体で情報をタイムリーに合わせる体制が求められます。

また“流動性部分”をどの程度まで許容するか、市場動向・受注変動といった要素も考慮し、固定枠と変動枠を設計する高度な計画力が重要です。

2. 荷主と運送会社の対等なパートナーシップ構築

「お金を払う側=発注先の言うことが絶対」という発想から脱却し、運送会社を物流パートナーとして尊重する姿勢が今後の成否を分けます。

定期的な意見交換や現場課題の共有、協働による改善活動の推進が求められます。

サプライヤー側はもちろん、バイヤー企業も「物流業者の視点」に立った調整・計画立案を心がけたいところです。

3. IT・デジタルツールを活用した情報共有

多くの製造現場では、いまだに配送依頼や実績管理が「紙・FAXベース」で行われています。

今後はクラウド型のスケジュール管理システム、EDI(電子データ交換)、グループウェアなどを活用し、デジタルでデータが“見える・伝わる”仕組み作りが不可欠です。

リアルタイムでの配送状況把握やAIを活用したルート最適化など、次世代の取り組みも徐々に裾野を広げています。

4. 現場での意識改革と教育の推進

「スケジュール固定化=現場の都合がきかない=イノベーションの敵」ではありません。

むしろ“現場の生産性・物流効率を両立させる”ための前向きな施策です。

全社的な意識改革を進め、調達・生産・物流が一体となった教育・啓発活動を強化しましょう。

アナログ業界だからこそ求められる「現場目線」の知恵

物流のデジタル化、サプライチェーン全体の最適化といったトレンドはますます加速しています。

しかし、製造現場には「それじゃ現実的には回らない」「ウチの現場には馴染まない」といった壁があるのも事実です。

ここで重要なのは、“現場の現実”を知り尽くした上で、一歩ずつ「できること・やれること」からスタートすることです。

たとえば「特定商材だけでも毎週同じ回収日を決める」「定時配送の習慣を1ラインだけでトライする」など、小さな成功体験を積み重ねる道筋が現場の共感を呼び、業界のアナログ志向からの脱却に繋がっていきます。

まとめ:社会も工場も持続可能な物流を

配送スケジュールの固定化は、バイヤー・サプライヤー双方にとって将来の企業競争力や現場の働き方を左右する重要課題です。

目先の割増や待機料だけでなく、「全体最適」「サステナブルな物流・生産現場」への本質的な転換点と言えるでしょう。

今こそ、従来の“当たり前”や昭和的常識から一歩抜け出し、新たな物流の地平を切り拓く意識改革が求められています。

製造業の未来を支えるのは、皆さん現場一人ひとりの知恵と工夫、そして一歩踏み出す“ラテラル・シンキング”の発想に他なりません。

You cannot copy content of this page