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フィレットRとエンドミル径の整合で工具本数を削減する設計法

目次
はじめに:工具本数削減が実現するコストダウン
製造業において、部品加工コストの低減は永遠のテーマです。
近年はエネルギーコストや人件費も高騰し、益々厳しいコスト管理が求められる時代になっています。
そんな中、見落とされがちですが非常に有効な手法が「使用する工具本数の削減」です。
本記事では、フィレットRとエンドミル径の整合性を念頭に置き、どのように設計段階から加工効率化を図るかにフォーカスします。
40年以上変わらない“業界あるある”な設計のしきたりや、アナログな文化が根強く残る現場でも通用する、実践的な視点でまとめていきます。
設計者・調達担当者・生産技術・サプライヤーのそれぞれの立場から、今求められている「設計による工具合理化の考え方」を、工場長経験を持つ筆者の現場体験を交え、深く掘り下げてご紹介します。
フィレットRとエンドミル径、その関係性の基本
図面上の「Rコーナー」の意味と現場での困りごと
部品のコーナー部分には、よく「R(フィレット)」が指示されます。
強度を高めたり応力集中を避けたりする目的で設けられるものですが、ここで指定されるRは、現場の加工性を著しく左右します。
例えば、設計者が「フィレットR3」と指示を出すと、切削加工では通常エンドミル径φ6mm(直径6mm)がそのまま使える設計となり、加工がスムーズに進みます。
逆に「R3.2」など半端な数字や、工具の規格に合わないR指定をすると、特注の工具調達や追加工程の発生などでコストが急増し、納期遅延や品質リスクも高まります。
この“設計と工具規格のミスマッチ”は、現場の大きなストレス源であり、「設計者は現場のことを知らない」と嘆く加工現場の声が今でも多く寄せられます。
エンドミルの規格と汎用性
JIS規格やISO規格に準拠したエンドミルは、通常、直径1mm刻み、もしくは0.5mm刻みでラインナップされています。
設計段階で、この標準工具の径を意識するかどうかで、加工の難易度が大きく変わります。
例えば、フィレットを「R2.5」にするとφ5エンドミル1本でOKですが、「R2.7」や「R2.9」と細かい指定をすると、規格外の特注工具が必要になります。
現場ではしばしば「R3.2って…誰がその径のエンドミル持ってるんだよ…」といった声があがるのは、有名な話です。
昭和から引き継がれるアナログ設計慣習に潜む非効率
なぜ“なじみの寸法”が現れるのか
昔ながらの製造業では、型にはまった図面寸法が多く見られます。
経験則や過去の設計資産を流用した結果、「なんとなくR2.8」といった曖昧な指示や、部品設計ソフト(CAD)の便利機能で無意識に出てきた数字がそのまま図面に残ってしまうことが、頻繁に起こります。
また、新人設計者が先輩の図面を踏襲したり、学校で教わった“設計の美学”にこだわり過ぎたりすると、現場の加工手順や工具汎用性を度外視してしまう傾向も今なお根強く残っています。
スピード優先の設計と、現場の多工程化のジレンマ
設計段階で現場への配慮に欠けた場合、加工現場では
1. 特注エンドミルの調達
2. 複数工程での機械段取り
3. 無駄な工具交換
などの非効率な手間が増加します。
こうした潜在コストは、1部品単価当たりではわずかかも知れません。
しかし数千~数万個という量産品で考えると、結果的に大きなコスト増要因となります。
ラテラルシンキングで考える「合理的設計」のすすめ
「現場起点」のフィレットR設計とは
今こそ設計者が「加工現場で本当に使われているエンドミル径」を起点に、逆算方式でフィレットR寸法を決めていくべきです。
例えば、よく使われる標準エンドミル(φ3, φ4, φ5, φ6, φ8, φ10など)をピックアップし、
– コーナーのフィレットがどうしても必要か?
– 強度面・応力集中の観点から“最小限で良い”フィレットはφ5で問題ないか?
– 見た目の美しさ重視だけでなく、誰が加工するか・どこまで標準工具でできるか?
こういった逆転の発想が現場での工程合理化、工具本数の削減、ひいてはコストダウンに直結します。
サプライヤーとの情報共有が最重要
サプライヤー任せの図面丸投げは、コスト肥大化の温床になります。
設計段階で「このコーナーRは、φ6エンドミルの通り径に合わせてR3に変更してほしい」など、加工担当者・サプライヤーの現場声を前もってヒアリングし、図面に反映することが重要です。
また、見積段階から工具本数を明記し、「1部品加工あたり使用する工具は2本以内を原則」とルール決めすることで、サプライヤーもコスト低減にコミットしやすくなります。
実践編:工具本数削減設計の進め方
1.設計段階での“標準工具リスト”づくり
まずは自社・委託先が使っている汎用エンドミル径のリストを作成します。
標準・コスト効率重視(廉価な市販品)・よく発注する特注工具――これらの現物と価格、調達リードタイムを見える化しましょう。
そして、R指示を出す前に
「この部分はどの工具で加工されるか」
「代替工具がなくなった場合の調達リスクは?」
など、加工現場の目線で“リスクチェック”をします。
2.R寸法・コーナー形状のルール化
設計部内で「基本はφXmm相当のR値で統一する」など、ガイドラインを策定します。
過度なディテール要求や個々人の“美意識”によるばらつきを減らし、設計段階から標準化を徹底します。
3.調達・製造・品質管理が連携する
調達担当者も
「このR寸法は特注工具で対応?」
「過去にこの形状でトラブルはなかったか」
という観点で設計レビューに関与しましょう。
サプライヤー窓口からは
「この図面だと何本工具が必要?」
「追加コストが発生する部分はどこか?」
など“現場起点”で能動的にフィードバックを出すことが、調和の取れた生産体制構築につながります。
4.R値統一で“まとめ加工”のメリットが倍増
複数部品を同じエンドミル1本で加工できるようR値を統一することで、段取り替えや工具交換回数が劇的に減り、仕掛在庫の削減・生産リードタイム短縮・一括見積も効果が大きくなります。
また、仕上げ面のばらつきも最小限にとどまり、品質安定化にも寄与します。
工具管理の負荷も軽くなり、調達面でも「切れ味・在庫・価格交渉力アップ」という長期的なメリットが生まれます。
まとめ:設計と調達・製造が“現場起点”で連携、未来志向のものづくりへ
現場の効率化・コストダウンを追求するためには、設計者が「使われる工具の現状」を知ることが不可欠です。
手間やコストのかかる非標準R指定を排除し、エンドミル径とフィレットRの整合を設計初期から意識することで、工程設計も単純化・工具管理も標準化でき、大きな付加価値に直結します。
調達担当やサプライヤー、加工現場など関係者も巻き込んで、時代遅れな慣習や“なんとなく”を見直しましょう。
そして、最小限の工具本数で最大の成果を上げる――それが、これからの製造業の新たな基準です。
職種や立場を超え、自らの主観だけでなく、現場全体を俯瞰した「つながる設計・ものづくり」を実現しましょう。
この地道な取り組みが、製造業全体の競争力を高め、未来へのイノベーションの礎になると信じています。
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