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責任範囲を超える保証要求が押し付けられる課題

目次
はじめに:製造業の現実と「保証要求」の歪み
近年、製造業の調達・購買部門やサプライヤー現場では、品質や責任範囲を巡った「保証要求」の高まりが大きな課題となっています。
これは取引先(メーカーやバイヤー)からサプライヤーに対して、本来の契約や現実的な責任範囲を超えた品質・補償・対策対応を強く迫るというものです。
一見すると「安心・安全のため」「顧客第一主義」ととらえがちですが、実際にはサプライチェーン全体の停滞やコスト増、現場のモチベーション低下に直結しています。
今回は、現場視点からその構造的課題を掘り下げ、具体的な対処法や今後の業界動向も交えながら、時代に根差したヒントを共有したいと思います。
なぜ「責任範囲を超える保証要求」が起こるのか?
業界の商習慣と「昭和型」体質
製造業、特に自動車、電機、機械などの大手メーカー–サプライヤーの関係は、歴史的に極めて縦型のピラミッド構造が根強く残っています。
メーカー主導の「下請け管理」「多重請負」「部門間の分断」といった日本独自の慣習には、一種の「安心材料」を全て下流工程に押しつける空気がまだ存在します。
例えば、バイヤーがエンドユーザーから強いクレームや保証要求を受けた際、
「とりあえずサプライヤーに全量検査を指示」
「納入後数年経過した部品でも、交換や損害賠償の負担を求める」
といった“リスクの丸投げ”が日常化しやすいのです。
法規制・市場環境の変化と責任領域の曖昧化
一方で、グローバル化やコンプライアンス強化により、製品事故・リコールでは「遡及的責任」を問われる場面が増加しています。
製品安全、環境規制(RoHSやREACH)、トレーサビリティ要求などが強まる中、どこまでが「製造者責任」であり、どこからが「設計・選定責任」「使用側責任」なのか、その境界線がきわめて曖昧になっています。
結果として「誰かが最終責任を負わねば…」という過剰防衛が働きやすく、特に力関係の弱い中小サプライヤーほど過大な負担を引き受ける構造になっています。
コミュニケーション不足とドキュメンテーションの形式主義
現場で感じるのは「言った・言わない」「合意した・していない」「記録書はあるが現実の対応と乖離している」といったコミュニケーション齟齬です。
仕様変更や設計変更、追加工や納期の微調整などを曖昧な口頭対応で進めてしまい、事後的にトラブルになることも少なくありません。
また一方で、ISOやIATFなど品質マネジメントの形式的な書類だけが増え「本質的な責任範囲の議論」が置き去りにされやすい土壌もあります。
現場で直面する典型的な「保証要求」事例
全数検査・追加保証の押し付け
「納入済みロットに不適合が出たので、過去納入分も含め全ロット全数検査して報告してください」という要求は、サプライヤー現場ではよく聞かれるパターンです。
しかもそれら検査工費は無償対応を暗黙の了解で求められます。
納入後年数が経過している製品でも「保証期間を越えているが、顧客影響が大きいので“特別対応”を」と安易に要求されるケースも目立ちます。
工場監査・改善活動の度重なるやり直し
バイヤーやメーカー側の品質監査・仕組み監査に対して、指摘された事項への是正対応は当然ですが、
「指摘内容が毎回異なる」「一度直した箇所を再度別観点で指摘された」「要求レベルが段階的に吊り上がる」
という状況もままあります。
決して守るべき基準が明快でなく、現場としては終わりなき“宿題”を抱え続けることになります。
損害賠償・間接費用の負担
万一、納入品不良などで二次的なクレームやラインストップが発生した場合、直接的な部材費だけでなく、顧客先のライン停止損失や代替品手配、エンドユーザーへの補償金まで損害賠償請求される例も増えています。
「品質はサプライヤー全責任」の論理が強すぎて、必要以上に重いコスト・リスクを背負うことになりがちです。
なぜこのような保証要求が横行しやすいのか
「リスクの垂直分担」から「リスクの水平押し付け」へ
本来、部品や原材料のサプライヤー、組立・設計側のメーカー、バイヤーは、それぞれの役割分担に応じてリスク・責任も分担すべき存在です。
しかし日本型のサプライチェーンでは、
「上位バイヤー>サプライヤー」の力関係で、水平的に重たいリスクを末端まで押し付ける構造が根付いています。
とりわけ設計不備や使い方の問題など、メーカー自身の原因でも「サプライヤーに対し“厳しい保証”を求める」傾向が強いです。
これは買い手優位のマーケット、そして「何も言わないと全部受けるしかない」下請け文化の副産物です。
「責任回避」が組織の自己防衛習性になっている
メーカー側の担当者やバイヤーも、本音では“合理的な範囲での分担”が望ましいと考えています。
しかし顧客や上層部から追及される恐れがあるリスクは「とりあえずサプライヤーにもってもらおう」という責任回避が習慣化しています。
逆に、サプライヤーが要求をはねつけると「今後の取引上不利になる」「減点評価につながる」といった心理的圧力が働き、結局サプライヤーが飲み込む結果となりがちです。
このままでは何が起きるか~現場への深刻な影響
現場力・改善マインドの低下
責任範囲を超えた過剰な保証要求は、現場管理者やエンジニアの判断能力・モチベーションを大きく損ないます。
「どうせ全部かぶらされる」「上に従うしかない」という消極的な組織文化が強まり、自律的な改善・リスク管理マインドが弱まっていきます。
コスト高騰・品質ロスの招来
不毛な全数検査や頻回な現場対応は、本来注力すべき生産性改善や本質的な品質保証よりも、場当たり的な“お守り運用”にリソースを割く温床となります。
コストアップは長期的に価格転嫁や利益率低下を招き、それがサプライチェーン全体の国際競争力低下に結びついていきます。
新規参入・協業の妨げ
サプライヤーに過度なリスクや不公平な責任負担を強いれば、業界内への新規供給者の参入障壁が高まり、取引先確保や協業推進が困難になります。
結果、市場変化に柔軟に対応できる産業基盤の弱体化すら招きかねません。
効果的な対策と新しい発想
「責任範囲の合意」と「役割分担」の再設計
調達・購買の現場や品質保証担当は、契約開始時だけでなく、設計変更や仕様見直し時ごとに
「どこまでが誰の責任か」
という範囲設定・明文化を徹底する必要があります。
口約束や慣例に頼るのではなく、根拠あるリスク分析(FMEAなど)と論理的な役割分担、相互理解に基づいた取り決めとその記録を習慣化することが第一歩です。
水平型の相互信頼ネットワークを築く
「お客様は神様」式の垂直統制だけに依存するのではなく、技術者同士や現場責任者同士が対等な立場でリスク・ノウハウを共有し、トラブル時も協調的に問題解決にあたる“水平型コミュニケーション”のネットワークが大切です。
現場レベルからの提案、改善要望を吸い上げ、バイヤーやサプライヤーの壁を越えた価値向上こそ、今後の競争力につながります。
デジタルツール活用と「ガラス張り」の生産管理
AIやIoTによる品質データのリアルタイム共有、リスク度合いの可視化、設計~出荷までのトレーサビリティ確保といったDX施策は、「見える責任」「根拠に基づく議論」を可能にします。
デジタルを活用し責任境界・リスク分担を明確にすることで、不透明な“お守り運用”を減らし、建設的な協働体制を築くことができるでしょう。
おわりに~製造業全体で持続的な発展に向けて
「責任範囲を超える保証要求」は、個々の企業や現場だけが対応するには荷が重すぎる社会的・業界的課題でもあります。
時代遅れの歪んだ“下請け意識”“責任回避文化”を超え、サプライチェーン全体が成長するための新たなルールづくり、コミュニケーション、DX活用が決定的に重要となります。
現場で経験してきたからこそ、技術や工程の実態、現実解に根ざした意見を上流(バイヤー、メーカー)にもはっきり伝えていく姿勢も不可欠です。
「責任を押し付ける関係」から「価値を共創する関係」へ。
今こそ、製造業全体の地平線を、現場と共に切り拓いていきませんか。
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