投稿日:2025年8月26日

保証対応に必要な調査費用を認めてもらえない問題

はじめに:製造業現場の「保証対応」について

保証対応とは、納入した製品や部品に不具合が発生した場合、サプライヤー側が責任を持って対応することを指します。

この対応には、不適合品の調査から原因分析、場合によっては現場立ち合いや再発防止策の提案まで、多くの工程が含まれます。

しかし、保証対応に関する調査費用――つまり、サプライヤーが負担するコストについては、必ずしもバイヤー(購買担当者や依頼主企業)側に理解されているとは限りません。

実際、現場では「なぜ調査のための費用まで負担しなければならないのか?」という声がサプライヤーから上がっています。

本記事では、保証対応時の調査費用問題に焦点を当て、業界全体の課題、調査費用の正当性、そして解決の糸口まで、実践的なノウハウや現場目線で解説します。

1. 保証対応に必要な調査費用とは何か

保証対応の流れと発生する主なコスト

保証対応のプロセスには、次のようなステップが含まれます。

1. 不具合通知の受領
2. 不具合品の現品回収または現地調査
3. 原因調査(自社・場合によっては協力会社との連携)
4. 報告書・再発防止案の提出
5. 調査関連の外部委託や部材購入(必要時)

この中で特にコストが発生するのは、「2.不具合品の回収や現地調査」「3.原因調査」および外部委託や分析装置への費用です。

現場に出向く人件費、交通費、専門的なラボでの分析費用、社内リソースの稼動コストなどが該当します。

調査費用が発生する典型的なパターン

・不具合がサプライヤーに帰属しない場合(設計や使用環境起因のケース)
・バイヤー側の取り違えや誤使用が疑われるケース
・双方の責任分界点が曖昧で綿密な根本原因追求が必要なケース
・高度な素材分析や第三者機関の鑑定が求められる場合

このように、サプライヤーの責任が明確でない場合や、非常に複雑な調査が必要となる場合、調査そのものがサプライヤーの「持ち出し」となりがちです。

2. 「調査費用を認めてもらえない」現場の実態

サプライヤー・バイヤー間の力学

大手メーカーを取引先にもつサプライヤーは、交渉力の面でしばしば弱い立場に立たされます。

いわゆる「下請け構造」が残る業界においては、「保証対応はサプライヤーが無償で行うもの」といった暗黙の了解が根強く残っています。

そのため、「調査費用を請求したい」と申し出ても、「うちとの付き合いはこれきりでいいの?」と圧力をかけられたり、単価交渉で不利になったりするリスクがつきまといます。

バイヤー側の本音とボトルネック

品質保証や購買部門のバイヤー側では、「サプライヤー責任による不具合」であれば無償対応が当然という感覚が強くあります。

一方、原因がグレーゾーンである場合でも「とにかく早く結論と再発防止策を出してほしい」と、スピード重視が優先される現場も多くみられます。

予算や決裁権の面でも、現状の社内稟議フローでは「調査費用の支払根拠」が整っておらず、却下されるケースがほとんどです。

結果、調査が杜撰になったり、本質的な原因究明がされないまま、再発リスクだけが残るという構造的矛盾に陥っています。

3. なぜ「調査費用」を認めてもらえないのか

昭和的アナログ業界に根付く「無償対応当たり前」文化

多くの日本の製造業では、いまだに「お客様は神様」精神や、「納品後責任はサプライヤーが背負うもの」といった価値観が根強く残っています。

高度経済成長〜バブル期に確立したこの構造は、令和の時代になった今も、現場の意思決定に強く影響しています。

サプライヤーは「長い取引があるから」「ここで逆らうと取引が切れるかもしれない」といった消極的な理由で、無償で動いてしまっているのが実情です。

グローバルとの意識ギャップ

欧米の多国籍企業や外資の購買部門では、「調査は有償が基本」「不具合起因者を第三者が合理的に特定する」という考えが浸透しています。

しかし、日本のメーカー、特に中堅クラス以下では「まずは現場が汗をかけ」「立場で譲れ」の昭和型思考が今なお根強い現場が多いです。

契約・合意文書の不在の弊害

そもそも契約書や合意書に「調査費用」について明記していないケースが大半です。

商習慣や口頭合意に頼るため、後になってトラブルの元になるパターンが多発しています。

バイヤー側の視点:コスト抑制と「ムダ嫌い」文化

また、バイヤー側では「調査なんて自社もやっているから、他社の分まで払う意味がわからない」「そもそもサプライヤー側の商品管理が悪いから発生しているのでは?」という発想も骨の髄まで浸透。

コストダウン圧力が強い業界だからこそ、「本当に必要な調査・費用なのか?」が厳しく判定されやすい傾向があります。

4. 現場で身につけるべき「ラテラルシンキング」的アプローチ

問題の本質を問い直す

表面的には「調査費の請求・支払い」だけの問題に見えますが、その裏には下記のような構造的問題が存在します。

– サプライチェーン全体の最適化に資する投資がなされていない
– 品質リスクや情報が曖昧なまま見過ごされている
– 真の原因追究より短期的な責任回避が優先されている

この “立場を超えた視点” で問題を捉えなおすことが、長期的に信頼を得る鍵となります。

先進的サプライヤーの交渉術

進んだサプライヤーは、保証対応契約段階から下記の点を合意・文書化しています。

・「保証範囲」=不具合の責任区分、想定外起因の扱いを明文化
・「調査費用発生時の説明責任フロー」
・「第三者分析が必要な場合の費用按分ルール」
・「保証対応に関わったリソースの時間記録」

また、案件ごとに「調査内容・仮説・費用見積もり」を提示し、納得度の高い説明・根拠作りを徹底しています。

最初から「ただの下請け」ではなく、「真のパートナー」として発言・行動することが信頼につながります。

5. アナログ業界を脱却するために現場が今日からできること

契約・取り決めの明文化とカルチャー醸成

契約段階で「調査にかかる費用」や「原因不明の場合は費用折半」などのルールを盛り込むことが、今後は不可欠です。

場合によっては、過去の事例や費用データもセットにして提示し、納得度を高める努力も必要です。

バイヤーとの真のパートナー関係構築

一方的に請求するのではなく、
「なぜ本調査が必要なのか」
「この調査を通じてどんなメリットがバイヤーにあるのか」
「調査をしなかった場合に起こるリスク」
まで、丁寧に合意形成していくことが、現場で評価される“攻め”の姿勢です。

ラテラルシンキングによる「提案型保証対応」

・「調査ノウハウ」をバイヤーに共有し、品質文化の共有者となる
・調査結果や分析データを製品開発フィードバックに活かす仕組み作り
・問題発生後ではなく予防的な品質改善提案をセットで提供

このような「全体最適思考」「攻めの品質保証」は、アナログ体質の製造現場を変える強力な武器となります。

6. 今後の展望とバイヤー・サプライヤー双方へのメッセージ

多様な物づくりパートナーがグローバル化する現代において、「ただの下請け・発注者」という既存の枠組みは着実に崩れつつあります。

調査費用の問題は、その象徴ともいえるでしょう。

サプライヤーは、現場力・提案力を武器に「攻めの交渉」を。

バイヤーは、自社だけが得するのではなく、パートナー全体でコスト・品質の向上を目指す「全体最適」の発想と制度設計が求められます。

未来の「つくる現場」をより良くしたい全ての方へ――。

調査を「コスト」ではなく、「未来への投資」「品質革新の出発点」として捉える新たな一歩を、あなたの現場から始めてみませんか。

You cannot copy content of this page