投稿日:2025年8月26日

原本B/L紛失による貨物引渡し停止を回避するLOI発行とリスク管理

はじめに:原本B/Lと現場で直面するリスク

原本B/L(船荷証券)の紛失は、製造業の国際物流において頭を抱えるトラブルの筆頭です。

貨物の引渡しが止まり、手配した国際貨物が港で足止めとなり、生産現場のラインストップや、サプライチェーン全体の混乱を引き起こす可能性があります。

特にアナログな業界構造が色濃く残る製造業の現場では、デジタル化が進みきらず、紙の原本B/Lに強く依存している企業が多いのも実態です。

こうした現場では、「万が一紛失した時にどうするのか」という備えが極めて重要となります。

本記事では、原本B/L紛失による貨物の引き渡し停止を回避する「LOI(Letter of Indemnity:補償状)」の発行の実務から、リスク管理の要点まで、製造業の現場で培った知見と最新動向を交えながら解説します。

B/L(船荷証券)の基礎知識

B/Lの役割

B/Lは、貨物を輸送する際に不可欠な書類です。

その主な役割は以下の三つです。

1.運送契約の証明
2.貨物の受取証
3.貨物権利の証券化

特に「貨物権利の証券化」が物流の現場で非常に重要です。

船会社は、原本B/Lを提示した人(正当な所持人)に貨物を引き渡します。

B/Lを手にしていることが貨物の受取り権利そのものであり、現場では「紙一枚で何億円もの価値が動く」とまで言われています。

B/L紛失のリスクと現場で起こる実害

B/Lの紛失は製造現場のみならず、サプライチェーン全体に以下のような混乱をもたらします。

・仕入れ材料の入荷遅延による生産停止
・納期遅延による顧客クレーム
・違約金や保管料等のコスト増
・物流業者・フォワーダーとのトラブル
・最悪の場合は債務不履行

これらは決して机上の空論ではなく、私自身も工場長時代、B/L原本の回収に思いもよらぬ手間が発生し、肝を冷やした経験があります。

B/L紛失時の解決策「LOI(補償状)」

LOIとは?

LOI(Letter of Indemnity)とは、B/Lを紛失した際に貨物の引渡しを代替的に求める際に提出する「補償文書」です。

受取側(荷受人)が「もしB/Lに関するトラブルが生じた場合は責任を負います」と約束し、船会社に貨物の引き渡しをお願いするものです。

現場では、「代紙」「保証状」とも呼ばれており、サプライヤー、バイヤー、フォワーダーも巻き込んで、慎重かつ迅速な対応が求められます。

LOI発行の実務と必要条件

LOI発行には次のステップが必要です。

  1. 書面作成(英語の定型文あり)
  2. 発行者の署名・捺印
  3. 場合によっては銀行の保証状(Bank Guarantee)の添付
  4. 船会社への事前承認と提出

船会社(キャリア)によって要件やテンプレートが異なることも珍しくありません。

特に大手の船会社では「銀行保証がなければ引渡し不可」「複数部数の原本が必要」といった追加条件があります。

したがって、フォワーダー任せにせず、現場としては以下の点を確実に押さえることが重要です。

・取引先(サプライヤー・バイヤー)とLOIの雛形を事前に共有する
・船会社の担当窓口と平時から連絡チャンネルを確保しておく
・LOI発行の社内承認フロー・責任者を明文化しておく

実体験としては、「現場の独断でLOIを船会社へ提出してしまい、経理や法務から“大問題だ”と指摘された」ケースにも遭遇しています。

国際物流における書類の発行は、法的リスクも伴うため、社内規定・手順マニュアルの整備が抜かりなく求められます。

LOI利用時のリスク管理と現場目線の注意点

LOI発行のリスク

LOIは法的な「補償状」ですが、万能な安全策ではありません。

実際、次のようなリスクを孕みます。

・万が一、B/L原本が第三者の手に渡り貨物を引き取られた際、損害賠償責任が重くのしかかる
・LOI発行者(会社および幹部個人)が係争や損害賠償の対象になる恐れ
・保険カバーが限定的(一般的な運送保険ではLOI起因の損害は賄えないケース多し)

中小企業や日本国外の現地法人の場合、ひとたびトラブルになれば会社の存続にも直結します。

したがって、「やむを得ない場合の最終手段」と位置づけるべきです。

現場としてやるべきリスク管理策

私が現場管理者として、次の三点を常に強調してきました。

  1. B/L取扱の社内教育徹底
    新人・ベテラン問わず、B/Lがどれほど重要な書類かを定期教育すること。現場にB/Lのコピーを無造作に置き忘れるようなミスが発生しないオペレーションを徹底します。
  2. サプライヤー・フォワーダーとの事前すり合わせ
    サプライヤーにもB/L原本の管理強化をお願いし、万一紛失した場合のLOI発行フロー・責任分担・銀行保証必要性を事前に合意しておきます。
  3. リスク分散(Original B/L以外の方法の検討)
    条件が許す場合、Sea WaybillやTelex Releaseといった「権利証券を紙でやりとりしない」貨物引き渡し手段への切替も検討します。

特に3点目は、「昭和型アナログ商習慣」から一歩踏み出す現場改革のきっかけとなるものです。

デジタル化とB/L業務の進化

電子B/L(e-B/L)の可能性

世界の大手海運会社や港湾、貿易金融機関では、原本B/Lのデジタル化(電子B/L:e-B/L)の取り組みが急ピッチで進んでいます。

電子B/Lであれば、以下のメリットがあります。

・物理的な原本紛失リスクの解消
・貨物引渡しまでのリードタイム短縮
・サプライチェーンの可視化とトレーサビリティ向上

ただし、法的有効性や実際の運用基準は国や取引形態によって異なり、日本ではまだ限定的な導入状況です。

現場としては、「将来的なe-B/Lの導入を前提とした運用マニュアルの整備」「国内外取引先とのルール調整」を今のうちから進めておくと、競争優位性を持てます。

現場目線のデジタル移行ポイント

・フォワーダーへのB/L発行指示を完全電子化する
・e-mailやオンラインプラットフォームでのB/L受領・転送ルールを設ける
・デジタルサイン・タイムスタンプを活用し権利・責任の所在を明確化

私の経験則でも、ひとたび「B/Lの電子化事例」を現場で積み重ねると、調達担当や物流課の業務負担が劇的に減りました。

アナログ管理のまま放置すると、ミスや紛失リスクはゼロにはなりません。

一歩先を見据えたDX推進が、今後の製造業競争力のカギを握っているのです。

まとめ:バイヤー/サプライヤー/現場全員が知るべき“現実”

製造業の現場において、原本B/Lの紛失リスクは決して他人事ではありません。

輸入バイヤーはもちろん、サプライヤーや物流担当、そして現場の製造部門まで、「LOI対応やリスク管理」を自分事として理解し、組織横断で運用ルールを固めることが重要です。

アナログ商慣習や旧来の“紙”業務の呪縛を、LOI運用をきっかけに見直しましょう。

最善はB/Lの厳格管理+デジタル化推進ですが、万が一のときには、LOI発行マニュアル・銀行保証の手配ルート・業界動向も含めたリスク対策をしっかり網羅しておきましょう。

プロフェッショナルとして、一歩先のリスク管理と実践力こそが、サプライチェーン全体の強靭化につながると確信しています。

現場目線でのリアルな事例・業界課題への気付きが、製造業発展の原動力となるはずです。

今後も、現場からの知見と最新トピックを積極的に共有してまいります。

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