- お役立ち記事
- 原本B/L紛失による貨物引渡し停止を回避するLOI発行とリスク管理
原本B/L紛失による貨物引渡し停止を回避するLOI発行とリスク管理

目次
はじめに:原本B/Lと現場で直面するリスク
原本B/L(船荷証券)の紛失は、製造業の国際物流において頭を抱えるトラブルの筆頭です。
貨物の引渡しが止まり、手配した国際貨物が港で足止めとなり、生産現場のラインストップや、サプライチェーン全体の混乱を引き起こす可能性があります。
特にアナログな業界構造が色濃く残る製造業の現場では、デジタル化が進みきらず、紙の原本B/Lに強く依存している企業が多いのも実態です。
こうした現場では、「万が一紛失した時にどうするのか」という備えが極めて重要となります。
本記事では、原本B/L紛失による貨物の引き渡し停止を回避する「LOI(Letter of Indemnity:補償状)」の発行の実務から、リスク管理の要点まで、製造業の現場で培った知見と最新動向を交えながら解説します。
B/L(船荷証券)の基礎知識
B/Lの役割
B/Lは、貨物を輸送する際に不可欠な書類です。
その主な役割は以下の三つです。
1.運送契約の証明
2.貨物の受取証
3.貨物権利の証券化
特に「貨物権利の証券化」が物流の現場で非常に重要です。
船会社は、原本B/Lを提示した人(正当な所持人)に貨物を引き渡します。
B/Lを手にしていることが貨物の受取り権利そのものであり、現場では「紙一枚で何億円もの価値が動く」とまで言われています。
B/L紛失のリスクと現場で起こる実害
B/Lの紛失は製造現場のみならず、サプライチェーン全体に以下のような混乱をもたらします。
・仕入れ材料の入荷遅延による生産停止
・納期遅延による顧客クレーム
・違約金や保管料等のコスト増
・物流業者・フォワーダーとのトラブル
・最悪の場合は債務不履行
これらは決して机上の空論ではなく、私自身も工場長時代、B/L原本の回収に思いもよらぬ手間が発生し、肝を冷やした経験があります。
B/L紛失時の解決策「LOI(補償状)」
LOIとは?
LOI(Letter of Indemnity)とは、B/Lを紛失した際に貨物の引渡しを代替的に求める際に提出する「補償文書」です。
受取側(荷受人)が「もしB/Lに関するトラブルが生じた場合は責任を負います」と約束し、船会社に貨物の引き渡しをお願いするものです。
現場では、「代紙」「保証状」とも呼ばれており、サプライヤー、バイヤー、フォワーダーも巻き込んで、慎重かつ迅速な対応が求められます。
LOI発行の実務と必要条件
LOI発行には次のステップが必要です。
- 書面作成(英語の定型文あり)
- 発行者の署名・捺印
- 場合によっては銀行の保証状(Bank Guarantee)の添付
- 船会社への事前承認と提出
船会社(キャリア)によって要件やテンプレートが異なることも珍しくありません。
特に大手の船会社では「銀行保証がなければ引渡し不可」「複数部数の原本が必要」といった追加条件があります。
したがって、フォワーダー任せにせず、現場としては以下の点を確実に押さえることが重要です。
・取引先(サプライヤー・バイヤー)とLOIの雛形を事前に共有する
・船会社の担当窓口と平時から連絡チャンネルを確保しておく
・LOI発行の社内承認フロー・責任者を明文化しておく
実体験としては、「現場の独断でLOIを船会社へ提出してしまい、経理や法務から“大問題だ”と指摘された」ケースにも遭遇しています。
国際物流における書類の発行は、法的リスクも伴うため、社内規定・手順マニュアルの整備が抜かりなく求められます。
LOI利用時のリスク管理と現場目線の注意点
LOI発行のリスク
LOIは法的な「補償状」ですが、万能な安全策ではありません。
実際、次のようなリスクを孕みます。
・万が一、B/L原本が第三者の手に渡り貨物を引き取られた際、損害賠償責任が重くのしかかる
・LOI発行者(会社および幹部個人)が係争や損害賠償の対象になる恐れ
・保険カバーが限定的(一般的な運送保険ではLOI起因の損害は賄えないケース多し)
中小企業や日本国外の現地法人の場合、ひとたびトラブルになれば会社の存続にも直結します。
したがって、「やむを得ない場合の最終手段」と位置づけるべきです。
現場としてやるべきリスク管理策
私が現場管理者として、次の三点を常に強調してきました。
- B/L取扱の社内教育徹底
新人・ベテラン問わず、B/Lがどれほど重要な書類かを定期教育すること。現場にB/Lのコピーを無造作に置き忘れるようなミスが発生しないオペレーションを徹底します。 - サプライヤー・フォワーダーとの事前すり合わせ
サプライヤーにもB/L原本の管理強化をお願いし、万一紛失した場合のLOI発行フロー・責任分担・銀行保証必要性を事前に合意しておきます。 - リスク分散(Original B/L以外の方法の検討)
条件が許す場合、Sea WaybillやTelex Releaseといった「権利証券を紙でやりとりしない」貨物引き渡し手段への切替も検討します。
特に3点目は、「昭和型アナログ商習慣」から一歩踏み出す現場改革のきっかけとなるものです。
デジタル化とB/L業務の進化
電子B/L(e-B/L)の可能性
世界の大手海運会社や港湾、貿易金融機関では、原本B/Lのデジタル化(電子B/L:e-B/L)の取り組みが急ピッチで進んでいます。
電子B/Lであれば、以下のメリットがあります。
・物理的な原本紛失リスクの解消
・貨物引渡しまでのリードタイム短縮
・サプライチェーンの可視化とトレーサビリティ向上
ただし、法的有効性や実際の運用基準は国や取引形態によって異なり、日本ではまだ限定的な導入状況です。
現場としては、「将来的なe-B/Lの導入を前提とした運用マニュアルの整備」「国内外取引先とのルール調整」を今のうちから進めておくと、競争優位性を持てます。
現場目線のデジタル移行ポイント
・フォワーダーへのB/L発行指示を完全電子化する
・e-mailやオンラインプラットフォームでのB/L受領・転送ルールを設ける
・デジタルサイン・タイムスタンプを活用し権利・責任の所在を明確化
私の経験則でも、ひとたび「B/Lの電子化事例」を現場で積み重ねると、調達担当や物流課の業務負担が劇的に減りました。
アナログ管理のまま放置すると、ミスや紛失リスクはゼロにはなりません。
一歩先を見据えたDX推進が、今後の製造業競争力のカギを握っているのです。
まとめ:バイヤー/サプライヤー/現場全員が知るべき“現実”
製造業の現場において、原本B/Lの紛失リスクは決して他人事ではありません。
輸入バイヤーはもちろん、サプライヤーや物流担当、そして現場の製造部門まで、「LOI対応やリスク管理」を自分事として理解し、組織横断で運用ルールを固めることが重要です。
アナログ商慣習や旧来の“紙”業務の呪縛を、LOI運用をきっかけに見直しましょう。
最善はB/Lの厳格管理+デジタル化推進ですが、万が一のときには、LOI発行マニュアル・銀行保証の手配ルート・業界動向も含めたリスク対策をしっかり網羅しておきましょう。
プロフェッショナルとして、一歩先のリスク管理と実践力こそが、サプライチェーン全体の強靭化につながると確信しています。
現場目線でのリアルな事例・業界課題への気付きが、製造業発展の原動力となるはずです。
今後も、現場からの知見と最新トピックを積極的に共有してまいります。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)