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仕様書の不備で誤作が発生しても責任を負わされる問題

目次
はじめに:製造業現場でよくある「仕様書の不備問題」とは
製造業では多くの場合、製品開発から量産に至るまで「仕様書」が極めて重要な役割を果たします。
仕様書とは、設計部門から現場への橋渡しとなる、いわば「ものづくり」のルールブックです。
しかし、現実には仕様書の内容が曖昧だったり、不備があったりすることが珍しくありません。
そして、たとえその不備が原因で誤作や不良品が発生した場合でも、しばしば製造現場やサプライヤー側が「責任」を問われることが多いのです。
この問題には、昭和時代から続くアナログ的な業務習慣、縦割り組織の壁、そして業界特有の文化など、多層的な背景が存在します。
本記事では、20年以上の現場経験をもとに、実態や課題、そして現代的な解決策について掘り下げていきます。
仕様書の不備がもたらす現場の混乱
なぜ仕様書に不備が発生するのか
まず、仕様書の不備はなぜ発生してしまうのでしょうか。
要因は一つではありません。
・設計段階でのコミュニケーション不足
設計者が頭の中の知識や意図を十分に伝えきれず、曖昧な表現や省略が多くなることがあります。
特に機能や性能の「狙い」について、十分分解されず図面や仕様に落とし込まれていないケースがよく見受けられます。
・複雑化・多様化する製品仕様
多品種少量生産、カスタマイズ要望への対応で、仕様が複雑化していることも大きな要因です。
各部門間で「理解のズレ」が生じやすく、記述ミスや抜け漏れが起こりやすくなります。
・アナログな現場文化と引き継ぎの問題
未だに紙ベースでのやり取りや、口頭伝承に頼る現場も多く、正確な仕様伝達が難しい状況が根強くあります。
誤作の原因は「現場の勘違い」だけではない
しばしば、誤作やトラブルが発生すると「現場の確認不足だ」「もっと注意深く作業しろ」という責任追及が行われます。
確かに現場の勘違いや見落としも無視できません。
しかし、実際には仕様書自体が矛盾やあいまいな部分を含んでいる例が少なくありません。
例えば、厳しい公差要求が与えられているのに、図面注釈に矛盾する内容が書かれていたり、材質や処理方法の指示が抜けていたりすることもあるのです。
このような場合、現場や外部サプライヤーが「判断しながら作る」状況になり、不本意な誤作が発生します。
「仕様書不備」の責任はなぜ現場やサプライヤー側に転嫁されがちか?
製造業界に根付く「現場が最後の砦」という古い構造
日本の製造業に根強く残るのは「現場第一主義」と「不問責文化」です。
「お客様に迷惑をかけるな。現場が何とかしろ」という圧力が暗黙の了解として存在しています。
この伝統的な文化のもと、「仕様書は絶対ではない。おかしいと思ったら現場が確認するべきだ」という常識が蔓延しています。
その結果、設計や上流でのミスがあるにも関わらず、最終的に手を動かした現場が責任を取らされる構図ができてしまっています。
また、サプライヤーについても「パートナー」という建前がある一方で、いざ問題が起きると「下請け」として責任を押し付けられる風潮が根強く存在します。
「バイヤー」と「サプライヤー」に生じる力関係の壁
部品や原材料を調達するバイヤーと、それを供給するサプライヤーの間には、しばしば大きな力関係があります。
「図面通りに作って納品すればいい」では済まない実態がこの壁の裏にあります。
例えば、図面や仕様書が不明確でも納期優先で回答を曖昧にしたまま量産が走り、後で問題になった際には「なぜ事前に確認しなかったのか」という責任追及がサプライヤーに向かいます。
サプライヤー側の声としてよく聞くのが「情報が不十分なのに自分たちで補完しろと言われる」「図面の指示が間違っていても注文通りに納品したのにクレーム扱いされる」など、理不尽さへの不満です。
問題を深刻化させる「伝統的品質管理」の限界
日本の製造業では昭和時代から「三現主義(現場・現物・現実)」「PDCAサイクル」を徹底してきましたが、時代の変化とともに限界が見え始めています。
現場やサプライヤーが「不明な仕様も経験則で補って対応する」「問題が起きたら現場が頭を下げる」といったアジャスト力は強みである反面、これが正しい伝達・フィードバックの阻害要因にもなっています。
問題の本質が設計や仕様決定の時点にあった場合でも、その再発防止や構造改革につながらないのです。
実践現場目線で考える!「誤作の責任転嫁」から抜け出す処方箋
1. 設計・生産・調達の“三位一体”意思疎通を徹底する
まず大切なのは、設計情報の伝達における全社的な連携強化です。
設計部門、生産技術部門、品質・調達部門が、「何を」「なぜ」その仕様にするのかという技術的背景を共有する機会を増やすことが根本対策になります。
具体的には、
・設計審査(DR)の強化
・社内関係者(品質・調達含む)の事前レビュー参加
・プロトタイプ段階での共同確認
などが有効です。
また、単なる資料のやりとりだけでなく、互いの疑問点や意図を「対話」で埋める文化を醸成することも重要です。
2. サプライヤーが納得して作れる「受け入れ可能な仕様書」とは
特に外部サプライヤーとの関係性向上には、下記のような工夫が欠かせません。
・“現物サンプル”や“製造工程イメージ”など、現場視点でわかりやすい補足資料を提示
・「監査」や「納入前立ち合い」などを通じて双方が疑問点・課題を抽出
・曖昧な指示は、そのまま進めず、バイヤーや設計にフィードバックする“質問しやすい雰囲気”の構築
大切なのは、「サプライヤーも同じものづくりパートナーである」という意識をきちんと共有し、現場が無理な忖度や想像をしなくて済む環境をつくることです。
3. デジタル技術の積極的導入で「見える化」と「トレーサビリティ」向上
昭和以来の「紙と口伝」に変わるべく、デジタル技術活用は必須となってきました。
・図面や仕様変更履歴の一元管理(PLM等)
・設計・品質・調達のコミュニケーション履歴を記録・検索できるシステム化
・IoTやバーコード/RFIDによる現場作業記録の自動化
これにより、万が一問題が発生しても「設計・現場・調達」各段階のどこに起因があったのかを論理的・客観的に追えるようになります。
責任の所在をうやむやにせず、再発防止や業務改善につなげやすくなります。
昭和からのアナログ業界構造とこれからの課題
業界全体が「失敗の責任」を恐れず議論できる空気を作る
長年、日本の製造業は「失敗しないこと」に価値を置いてきた部分があります。
しかし、これからは「失敗をオープンにして仕組みを改善する」ことこそが競争力につながります。
仕様書の不備や誤作に対して「誰が悪いか」ではなく「二度と起きない仕組みは何か」に目を向けましょう。
管理職やバイヤー、サプライヤーも含め「共創」と「前向きな議論」の場を増やしていけるかが、業界進化のポイントです。
調達購買・バイヤーに求められる「技術と調整力」
バイヤーや調達担当者は、単なるコスト交渉担当にとどまりません。
現場・設計・サプライヤーのそれぞれの立場に立って、仕様の意味や技術的な妥当性を見極める“技術調整力”が必須となっています。
加えて、「現場が言いにくいこと」「サプライヤーがリスクを感じていること」をくみ取り、設計や品質部門と連携して潤滑油となる存在を目指す必要があります。
まとめ:現場・バイヤー・サプライヤーの三者で「誤作の責任」の本質を直視しよう
仕様書の不備による誤作、責任問題——
製造業界で働いていれば、誰もが一度は直面する厄介なテーマです。
しかし、その本質は「誰が悪いか」ではなく、「なぜ仕様情報の伝達がうまくいかなかったか」「どうすれば再発しないか」にあります。
立場や上下関係に縛られた責任転嫁から脱却するには、設計・現場・調達・サプライヤーそれぞれの「現場目線」や想いを理解し、共創的な取り組みを日常的に増やすことが欠かせません。
昭和以来のアナログ業務と縦割り組織の壁を乗り越え、デジタルと対話型組織の発展で、新たな製造業の地平線を開拓しましょう。
それこそが、より高い品質と効率、誰もが納得できる「ものづくり現場」を実現する第一歩です。
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