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供給停止リスクを軽減するための複数サプライヤー契約実務ポイント

目次
はじめに
製造業に携わる方なら誰しも、サプライチェーンの寸断や供給停止リスクに直面した経験があるのではないでしょうか。
近年、自然災害や世界情勢の不安定化、パンデミックなど、外部環境による供給リスクが一層顕在化しています。
こうしたリスクを低減する手段の一つとして、複数サプライヤーとの契約を結ぶ重要性が増しています。
本記事では、昭和時代から続く「特定サプライヤーとの深い信頼」、いわゆる“一社依存”型調達の文化を踏まえつつ、現代の供給網における複数サプライヤー契約の実践的ポイントと、業界の最新動向を現場目線で解説します。
1. 現代製造業における供給停止リスクの実態
1-1. 一社依存調達の限界
日本のモノづくり現場には、長年にわたり続く取引先との“深い絆”や、相互の信頼関係が根付いています。
特に昭和〜平成初期までは「口約束でも商売が成り立つ」「細かい品質要求も柔軟対応」といった美徳が強くありました。
しかし、昨今の市場変化や国際情勢を受け、一社依存には大きなリスクが伴うことが、東日本大震災やコロナ禍などを経て露呈しました。
自然災害やパンデミック、須らくの生産停止、さらに突然の倒産や品質問題の発生など、一社依存の調達体制はあらゆる段階でサプライチェーン・リスクとなり得ます。
1-2. 世界的なサプライチェーンの多層化
今や、国際標準ではサプライヤーの多重化(サプライチェーンの冗長化)はあたりまえとなりました。
特に欧米の大手メーカーでは、主要な調達部品について原則「2サプライヤー体制」を義務付けているところも多いです。
これはリスク分散だけでなく、価格交渉力の強化や品質・サービスの比較、イノベーションの促進にも寄与しています。
2. 複数サプライヤー契約のメリットと注意点
2-1. 複数サプライヤーの主なメリット
複数のサプライヤーと契約を持つことは、以下のような主要メリットをもたらします。
・納期遅延や供給停止時の緊急対応力が向上する
・品質やコストに関して互いを競争させ、改善が進む
・イノベーションや技術提案が得やすくなる
・サプライヤー側の内部統制やリスク対応力向上を促せる
企業規模や調達物の性質にもよりますが、いくつかのカテゴリーや主要部品については必ず「バックアップ供給体制」を持つことが、競争力維持の観点から不可欠なのです。
2-2. “右から左”では通用しない!日本型サプライヤー管理の難しさ
一方で、単にサプライヤーを増やせば良いわけではありません。
日本の現場では特定サプライヤーと築き上げた密接なコミュニケーションや、現物主義、きめ細かな仕様調整、柔軟な内作対応など独特の慣習が根強く残っています。
そのため、海外調達や新規サプライヤー導入時に「言ったことしかやらない」「こちらの意図が伝わらない」といった摩擦も頻発します。
特に、コア技術や企業ノウハウがじかに絡んだ部品のサプライヤー分散は、基礎設計・品質管理面でも大きなハードルが存在します。
現場ノウハウの共有や、複数先を公平に管理する体制づくりが不可欠です。
3. 実務担当者目線で見る複数サプライヤー契約の進め方
3-1. サプライヤー選定と審査のポイント
まず調達戦略の基礎となるのは、「どの部品・原料に複数サプライヤー契約を導入するか」の見極めです。
全てを多重化することは現実的でなく、以下のような観点で優先順位をつけると良いでしょう。
・生産中断時の会社業績への影響度(主力製品や量産品など)
・調達市況や原材料の安定供給性
・サプライヤーからの過去の供給実績や品質面リスク
・現価格の妥当性や交渉余地
選定後は、現地監査や経営情報の調査、法規制遵守状況なども必須となります。
特に海外サプライヤーの場合、工場の安全管理や労働環境、遵法体制に踏み込んだ調査が求められます。
3-2. 技術・品質仕様の標準化と情報共有
複数先での調達を成功させるカギは「型決め(標準化)」と言っても過言ではありません。
現場では、工程や設備の違い、品質管理の文化が異なれば、同じ図面・仕様でも実際の仕上がりやロット安定性にばらつきが出るのが通常です。
ここで重要なのは「生産能力の証明」と「サンプル品の寸法・品質管理検証」。
型番統一や仕様書明確化、4M(人・設備・方法・材料)の標準化を徹底し、必要であれば現地への技術指導や教育・要員派遣まで視野に入れます。
また、量産立ち上げ後も定期的な現場監査や、工程能力調査(Cpkなど)をチェックし続けることで、リスクをコントロールします。
3-3. 契約書・納入条件の“書き込み”の重要性
日本では口約束やメールのやりとりで実務を進めがちですが、多重化の場面では明確な契約書策定が欠かせません。
・納入条件(納期遅延時のペナルティや、緊急時の切替基準)
・知的財産権や機密保持、設計変更時の対応ルール
・価格改定や不良発生時の責任分担
・納品場所や物流条件
などの約束事を、細部まで契約書に落とし込む必要があります。
また、一部の調達先には「災害時優先供給」や「非常時連絡体制明記」といった危機対応条項を盛り込む企業も増えています。
4. 経営視点で考える複数サプライヤー戦略の推進法
4-1. 社内体制とコア工程の見直し
複数サプライヤー体制を維持するには、開発・生産・調達が一体となった横断的な管理体制が必要です。
具体的には、
・設計段階での共通化・標準化可否の検討
・内製・外注の仕分けとコア工程の特定
・需給変動に耐えうる調達余力の確保
など、BOM構成や工場ライン設計そのものから見直す必要があります。
このあたりは“現場軽視”だと、いざという時に「設計書が読み取れない」「手順書未整備」など致命的なトラブルにつながります。
4-2. サプライヤーとの関係性マネジメント
「多重化=工場をたくさん持てばよい」ではありません。
むしろ長期的なパートナーシップや技術共有こそ、最重要テーマです。
突然のバックアップ要請や、都合のよい時だけ頼る“リスク分散”は現場で不信感を生みます。
複数サプライヤーにも、情報を偏りなく共有し、定期的に工程改善会議や品質課題の共有会を持つなどオープンな関係構築が求められます。
また、中小サプライヤーの場合は、通常時からの調整や生産投資負担への配慮(共同研究や設備投資の補助など)を通じて信頼関係を築いておくことが、長い目で見て強固な供給網となります。
5. 実際の現場課題と突破のヒント
5-1. 昭和型“付き合い”からの脱却
「顔パス」「昔からの取引先が一番安心」
——こうした価値観が現場に根強い企業が多いのが実情です。
しかし、時代は変化しています。
失敗を恐れず「新規サプライヤー開拓チーム」「ベンチマーク調達委員会」の設置を推進し、PDCAサイクルを高速で回し続ける意識改革が不可欠です。
5-2. デジタル活用と業界の最新動向
最近では、調達過程でのSRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)システムや、BOM管理システムのデジタル化が進んでいます。
IT導入で、「調達先の稼働状況の見える化」「緊急時の自動切替」「グローバルなロジスティクス確保」なども一気に現実味を帯びてきました。
さらに、中小規模のサプライヤー同士での情報連携や、業界横断の供給ネットワーク構築といった動きも見え始めています。
これからは、社外の力と知恵を自社に取り込み、デジタルとアナログ双方を駆使して供給網の多重化とレジリエンスを確保する時代と言えるでしょう。
まとめ
サプライチェーンの不確実性が増す現代、複数サプライヤー契約は“やった方が良い”から“やらなければならない”へと変化しています。
しかし、その成否を分けるのは「現場の実行力」と「業界特有の文化」をどうアップデートし、調和できるかにあります。
一社依存からの脱却、標準化・情報の見える化、サプライヤーとのパートナーシップ型マネジメント——。
今こそ昭和流の信用主義と、現代流のリスク管理思想を絶妙に組み合わせ、現場力で新時代の調達・供給体制を築くべきタイミングです。
読者の皆さまが、それぞれの立場で新たな複数サプライヤー戦略を始める一助となれれば幸いです。
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