投稿日:2025年8月28日

基板層数を減らす回路と配線の見直しで実装費を下げるPCB最適化

はじめに:基板層数削減がもたらす実装コスト低減の重要性

製造業の現場では、少しでもコストを抑えて製品を作りたいというのは永遠のテーマです。

とりわけ、プリント基板(PCB)の設計における「基板層数」は、実装コストに直結する大きな要素の一つとして現場で非常に注目されています。

設計なりの都合と、製造現場・コスト管理での現実のせめぎ合い。

層数が増えるごとに材料費も工程も指数関数的に膨らみます。

ここでは、基板層数を減らすための「回路・配線の見直し」に焦点を当て、どのようにして実装費を下げるか、現場目線の実践的なアプローチを解説します。

昭和から脈々と続くアナログな現場感覚にも触れつつ、最新動向も交えてご紹介します。

なぜ基板層数がコストを押し上げるのか

材料費と工程数の増加

多層基板は、単純な両面基板や4層基板と比べ、層数が増えるごとに材料コスト・製造工程数が跳ね上がります。

たとえば、内層・外層のコア材料や接着フィルム、加工プロセスに使う薬液、それに合わせて必要となる検査機材や冶具。

これらが、どんどん追加されます。

時には一層増えるだけで、基板全体の製造費が倍近くになるケースすらあります。

歩留まりと品質リスク

多層基板は、配線の重なりやビアの増加で微細な不良が出やすくなります。

これが不良率やリワークのコスト、納期遅延のリスクを高めます。

多層ほど生産ロットごとのバラツキも広がりやすく、管理の手間も膨大です。

結果、知らず知らずのうちに総コストが“積み上がる”のが現場の実感と言えるでしょう。

現場目線の「基板層数削減」成功パターン

1:初期回路設計の段階からコストを意識

昔ながらの「回路は開発、基板は生産が考える」という分業では、どうしてもギャップが生まれます。

経験的に、開発設計者が要求する性能に“必要十分”な回路仕様・部品選定をちゃんと吟味し、PCB設計担当者と早い段階で擦り合わせしておく。

この「初期段階からの連携」で、知らぬ間に層数が増える悪循環を防ぎやすくなります。

例えば、アナログ系とデジタル系の分離、グラウンド設計、EMCノイズ対策…。
これらの“お作法”を、層数でごまかさずに最適化することで、層削減につながります。

2:賢い部品配置とパターン設計

現場では「層数節約=苦しい配線のやりくり」とされがちですが、裏を返せば部品配置やパターン引きの妙がものを言います。

部品のローテーションやコンパクトな配置、シグナルラインの重複削減、ロジックのまとまりなど。

ベテラン設計者ほど「一筆書き」的な回路・配線美学を持っています。

特に、手作業でラップ線を這わせていた昭和世代の職人技術から学べる「最短ルート」「無駄の排除」の発想は、今なお有効です。

現代のEDAツールに頼るだけでなく、自分でパターンを見直すとか、手描きでトレースを検討する。

これが意外と近道になることも多いのです。

3:ビアの種類と適切な利用

経費がかさむ大きな要因が「ビア」(スルーホールやブラインドビア・ベリードビア)です。

多層の便利さに任せて安易にビアを増やすと、そのたび複雑な加工工程やチェックが必要になります。

最近は、「スルーホールビアの数自体を減らす」と同時に、省エネ型の「マイクロビア」「ブラインドビア」をピンポイントで使い、全体の層間接続を最小限にしています。

これにより、層数増加のボトルネックを減らす設計が可能です。

最新トレンド:「高密度実装」と層数削減の両立

部品微細化による余白創出

近年はチップサイズが縮小し、実装密度も上がっています。

現場では、「昔と同じ回路なのに、部品の微細化と高精度配置で層数を減らせる!」という逆転現象も珍しくありません。

これには、0.4mmピッチBGAやCSPなどの進化したパッケージ、最新のSMT技術の成果が不可欠です。

結果的に、機器の小型化と層数削減を両立する好循環が生まれています。

ソフト・ハード協調設計の積極展開

今やアナログ現場だけでなく、デジタル制御やマイコン活用も増えています。

「ハード側に無理なく配線させるため、ソフトロジックを見直す」「外部部品と内部制御を組み合わせて、全体の回路コンパクト化を図る」など。

これら「ソフトとハードの協調設計」を現場で徹底することで、回路自体をシンプル化し層数を減らせるケースが多発しています。

アナログ業界現場で根強い「層数増やしの誘惑」とどう戦うか

昭和的文化と「層数に頼る悪習」

ベテラン工場長や設計者には、「とりあえず層数増やして入らない配線は地下鉄(内層)に流してしまえ」という考えが今も強く残っています。

なぜなら、「失敗したときの逃げ道」として層を増やしておけば、見積や設計の調整も楽になるからです。

しかし、この昭和的なコンサバ設計が、長期的にはコストアップや品質問題の温床につながります。

現場巻き込み型のプロジェクト推進

筆者の経験では、回路設計者・レイアウト設計者・生産技術・購買・品質管理など、工程横断の「現場巻き込み型チーム」を作ることで、層数削減プロジェクトがグッと進みます。

このとき重要なのは、古い慣習や設計者個人の“美学”だけで議論しないこと。

現場の声、品質データ、市場での不良・故障情報を見える化し、数値で合理化してみることです。

層数を減らした分、歩留まりや生産性、顧客満足度がどう変化するのかも実データで追いましょう。

これで、ただの「コストカット運動」ではなく、現場を納得させるプロセスに生まれ変わります。

サプライヤー視点:バイヤーが求める“最適化”の本音とは?

層削減=安易な品質ダウンは絶対NG

サプライヤーからすれば、バイヤーが層削減を希望した際、「コストのために品質が落ちた」と思われるのは大きな懸念です。

バイヤー側の本音は、「コストはもちろん下げたい、でも品質や安定調達を犠牲にしないでほしい」というシビアな要求です。

したがって、提案時には「この層数削減は、耐ノイズ・絶縁距離・熱設計すべて試験済です」という“標準化試験データ”を用意しましょう。

設計協力と『共創型サプライ』のすすめ

基板ベンダーやEMSメーカーが、スペック通りに作る“指示待ち”型では、層数削減は進みません。

むしろ「こう設計すればもっとシンプルにできます」「このビア工法なら高密度でも2層でいけます」「両面実装+薄型部品を提案します」など、“提案型”の姿勢がバイヤーから強く評価されます。

この共創姿勢は、単なるコストダウンに留まらず、長期的な信頼関係・新規受注にもつながっていきます。

実際に層数削減を進める際に気をつけたいポイント

EMC/ノイズ・絶縁距離・熱の3大バランス管理

層数削減時は、EMC対策のバランス(グラウンド層やガードパターン)、高耐圧設計における絶縁距離、そして発熱対策を最重視しましょう。

現場では、「層とGNDプレーン減らしたらノイズだらけ」「絶縁基準クリアできず手戻り」なんて失敗は日常茶飯事です。

最新のCAE解析や熱設計シミュレーターを駆使して、バランスを徹底的に管理することが不可欠です。

必要な品質データの収集とフィードバックループの確立

試作品で、フルスペック検査(高温高湿、パターン耐圧、半田付け性、EMI試験など)を実施し、量産移行後も初期立ち上げ時には逐次検証。

これを購買・設計・品質管理部門が連携し、フィードバックループとして仕組み化することで、現場の納得感が向上します。

まとめ:現場起点の基板層数削減こそ、製造業の新しい地平線

基板層数の削減は、単なるコストダウン策に止まりません。

現場主導で回路・配線の見直し、部品配置の最適化、新しい実装技術の導入を組み合わせれば、“昭和的アナログ現場”を超えた高度なPCB最適化が可能です。

バイヤー、サプライヤー双方にとって、「現場の知恵と新技術」「現物を前にしたリアルな協創」が新たな競争力となります。

ラテラルシンキングを駆使し、一歩先を見据えた基板開発で、製造業の新しい地平線を一緒に切り開いていきましょう。

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