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工場稼働停止により履行不能となった契約をどう処理するかの実務

目次
はじめに:工場稼働停止による契約履行不能の現状と課題
工場稼働停止は、自然災害・設備トラブル・サプライチェーンの寸断・人員不足など、数多くの要因で発生します。
日本の製造業は長らく「止めない現場」が美徳とされてきましたが、近年は外部要因による不可抗力も増加してきました。
この稼働停止が原因で、調達した資材の納期遅延が発生し、取引先への納品が滞ったり、契約履行が物理的に困難になるケースが増えています。
契約書には「納期厳守」「履行遅延時の違約金」等が明記されていることが多く、現場や調達・購買担当者、営業、工場長、品質管理、さらには法務まで関係する、非常にシリアスな問題と言えるでしょう。
本記事では、工場の稼働停止によって契約が履行不能となった場合に、実務的にどのような処理をすべきか、現場目線のリアルで具体的な解決策をお伝えします。
工場稼働停止が及ぼす実務への影響
納品遅延・供給停止はなぜ起こるのか
製造現場では、多くの工程が緻密な計画のもとで動いています。
しかし、計画はあくまで「平常時モデル」であり、設備の突発的なトラブルや原材料調達の遅延、地震や台風などの自然災害、果てはパンデミックと、様々な外的要因で簡単に崩れてしまいます。
一度稼働が止まれば、「商品が作れない=納品できない」状態が生じます。
下請け・サプライヤー側が納品できなければ、元請け企業も顧客への納入義務を果たせず、既存の契約書に記載された納期や数量、品質基準を守れなくなります。
結果として「契約不履行」となり、違約金請求や損害賠償が発生する可能性が極めて高まるのです。
昭和的慣習「大目に見る」時代からの転換
かつての日本では「困った時はお互いさま」「顔を立てる」という暗黙知で、多少の納品遅延や数量不足は“調整”でカバーされてきました。
ところが、グローバル化・コンプライアンス重視の今、契約内容や取り決めの明文化、法的根拠に基づく対応が徹底される傾向が強まっています。
従来の“アナログ的調整”でやり過ごせないケースが増えており、実務に携わる方はその意識改革が急務となっています。
工場稼働停止時の契約処理フロー
1. まずは「契約書」・「基本契約」の確認
実務に入る前に最も重要なのは、現契約書の「履行不能時」「不可抗力(フォースマジュール)」「損害賠償責任」「通知義務」等の条文を確認することです。
大手企業になるほど、こうしたリスク条項は細かく明記されています。
よくある記載例
・天災や政府の規制、その他やむを得ない理由による履行不能の場合は、責任を負わない
・履行不能時は速やかに書面にて通知し、協議による解決を図る
・不可抗力による損害については、当事者間で責任分担などを協議
契約書の確認が最初のステップです。
これを怠ると、その後の対応すべてが無効になり、損害賠償責任が重くのしかかる場合も少なくありません。
2. 早期かつ誠実な「通知・報告」が鉄則
履行不能が確実に見込まれる段階で、できるだけ早く、かつ正確な報告を取引先(顧客/発注元)に入れることが極めて重要です。
報告時の基本要件は以下の通りです。
・事情(なぜ履行不能か:設備の故障、災害など詳細に)
・履行不能範囲(どの商品・いつから・どこまで影響するか)
・復旧見込(いつまでに再開できるか、目安があれば提示)
・代替案(同業他社からの調達は可能か、スケジュールなど)
こうした情報を迅速かつ正確に提供することで、後々の“信頼関係”の毀損や、リスクの増幅を未然に防ぐことができます。
また、報告の際は「社内責任者(例えば工場長や調達部長)」の名で公式に通知を出しましょう。
3. 顧客対応:代替納入や部分納品など協議を重ねる
現実問題として、一度稼働が止まると「即日復旧」は困難です。
そのため、影響を受ける商品・数量・納期をリストアップし、どこまで部分納品・他拠点対応・外部調達などで補えるか、顧客と具体的な協議を進めることがカギとなります。
たとえば、
・製品A・B・Cのうち、Aは間に合わないがBとCは在庫から出荷可能
・納期遅延する数量だけ第三者メーカー(委託先)で緊急生産
・数量減でも当面のユーザーラインを止めない程度の暫定納入
現実的な制約下でもぎりぎり“落としどころ”を探し、必ず書面で合意(納期延長合意書・協議記録など)を残すことが重要です。
4. 誠意ある補償提案・ビジネス継続性への配慮
契約上は免責条件があっても、取引先が多大な損害を被る場合には、誠意ある補償提案や今後の取引関係維持を視野に入れた具体的なアクションが肝心です。
具体的な補償例:
・違約金の一部負担(または減額交渉)
・次回納入分の割引や特別サービス
・他拠点やグループ会社からの優先納入調整
短期的なコストが増えても、信頼関係の維持による長期的なパートナーシップに投資する姿勢が、最終的なリスク最小化に繋がります。
アナログ業界の現実とデジタル活用の現在地
紙・電話・FAXカルチャーから脱却できない現場
現場の多くは「紙の契約書」「FAXでの受発注」「電話での納期調整」が未だに中心です。
デジタル化の波は及んでいますが、緊急時のコミュニケーションや証拠保全、意思決定の早さという観点では、未だアナログが支配的です。
しかし、この「アナログの壁」は緊急対応時に弱点となります。
なぜなら、情報伝達の遅れ・証拠の散逸・関係者の意思疎通ミスが、さらにリスクを増幅させるからです。
デジタルツール導入によるリスク管理の強化
最近では、受発注プラットフォーム・電子契約・納品進捗管理のSaaSなど、工場マネジメントのデジタル化が拡大しています。
こうしたツールを活用し「情報共有のスピードアップ」「契約データの一元管理」「履行状況の可視化」を進めることで、トラブル時の迅速な意思決定や正確なエビデンス確保が可能となります。
また、一元化されたデータベースは「過去の対応事例」「類似トラブルの解決策」などのナレッジ共有にも役立ちます。
今後の“止まらない現場”実現のために、現場・調達・法務部門が連携し、デジタル化を積極的に推進していくことが求められます。
現場感覚で考える契約リスク低減策
1. サプライチェーンの多重化&在庫最適管理
履行不能リスクを本質的に下げるには
・複数サプライヤー体制
・最小限の緊急在庫
・他拠点の補完生産
が欠かせません。
とくに、1社依存状態が続いている場合、リスクは“いつ”顕在化してもおかしくありません。
BCP(事業継続計画)の策定と、定期的な見直しが現場レベルで必須です。
2. 契約時に「不可抗力」条項を丁寧に盛り込む
新規契約を締結する段階から、「災害・サプライチェーン遮断・突発的稼働停止時の免責規定」や、「協議による解決」に関する文言を余裕をもって盛り込むことが重要です。
トラブルが発生してからでは遅いため、平時の“契約時点”でリスク想定の幅を持って交渉しておくことが後々の救済策になります。
3. 日々の現場・調達・営業・法務の連携と情報共有
現場でトラブル兆候が出始めた時、調達や営業、法務など関係部門にスピーディに情報が上がる仕組みづくりが必須です。
現場感覚として、「報告をためらう(責任回避)」「ギリギリまで我慢する」のは最悪のリスク拡大策です。
現場⇔本部の双方向コミュニケーションループを、平時こそ築いておくことが企業体力の源泉となります。
まとめ:製造業における“止まらない現場”と信頼構築の重要性
工場稼働停止による契約履行不能は、もはや“他人事”ではありません。
事前の契約書確認、迅速・誠実な通知、具体的な協議と代替案提示、そして信頼を最重視した補償と説明こそが、現場に根付いた“リスクマネジメント”の真髄です。
昭和時代のアナログ的慣習を大切にしつつも、デジタル活用や多重サプライ体制を積極的に取り入れることで、現代の製造業が乗りこえるべき新たな地平線が見えてきます。
みなさんの現場での経験と知恵が、製造業全体をより強くし、産業の未来を切り拓く原動力となることを願っています。
現場視点の徹底した「事実対応」と「信頼構築」、そして「変革へのチャレンジ精神」を忘れないでください。
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