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発注残と仕掛品の扱いを明確にしないまま契約終了した場合の問題点

目次
はじめに
現代の製造業において、発注残や仕掛品の管理は非常に重要なテーマです。
しかし、昭和の時代から続く商習慣やアナログ体質の影響もあって、現場では発注残や仕掛品の扱いが曖昧なまま契約を終了してしまうケースも少なくありません。
このような状況が起こると、納期遅延や品質トラブル、在庫ロスなど様々な問題が発生します。
本記事では、発注残と仕掛品の扱いが曖昧なまま契約終了した場合に生じる問題点について、工場現場や購買・調達担当者、そしてサプライヤーの視点も交えながら詳しく解説します。
発注残・仕掛品とは何か
発注残の定義
発注残とは、顧客や親会社に対して発行した注文書に記載された数量・納期に対して、まだ納品されていない数量のことを指します。
例えば100個発注して納品済みが80個であれば、残り20個が発注残となります。
仕掛品の定義
一方、仕掛品とは製造工程の途中であり、完成品とはなっていないが既に材料や部分加工が施されているモノのことです。
工場内では、原材料在庫→仕掛品→完成品在庫という流れで、ものづくりが進みます。
契約終了時の“曖昧さ”が生む現場トラブル
責任の所在が不明確になる
契約を終了・解除する場合、発注残および仕掛品について明確な取り決めがない場合は、“誰が、何を、どこまで責任を持つべきか”が曖昧となります。
発注者と受注者(バイヤーとサプライヤー)の間で見解が異なり、トラブルに発展しやすくなります。
在庫の置き去り・無駄な廃棄
現場に残された仕掛品や材料については、発注者が引き取るべきか、サプライヤーが自己負担で廃棄すべきか揉めがちです。
最悪の場合、製品として日の目を見ず廃棄されることによる大きなコストロスが生じます。
サプライヤー側は、投下した原材料や加工コストを回収できなくなるため大きな痛手です。
資産・負債計上でのトラブル
仕掛品や未納入分の取扱いは、経理や税務計上にも影響します。
「モノ」は存在しているが、“契約上の所有権”や“損金・資産”の扱いが未確定のままである場合、決算時の対応をめぐり混乱が発生します。
納期遅延・顧客クレームの誘発
一部納品済みで、残り発注残や仕掛品の扱いが曖昧な状態で契約終了した場合、バイヤー側は計画通りの生産・納品が進まなくなります。
結果としてエンドユーザーや取引先から納品遅延のクレームを受ける可能性が高まります。
発注残・仕掛品トラブルが発生しやすい業界動向
属人的な商習慣が残る業界の実情
日本の製造業、とくに中小企業や下請け構造が多い分野では、長年の商慣行から「口約束」「阿吽の呼吸」で現場が運営されているケースが目立ちます。
文書による明確な契約や、納期・数量・引渡し条件などの共通認識がないままイレギュラー対応が常態化しています。
需要急変時の柔軟な対応=“美徳”の落とし穴
需給変動が激しい業界(自動車・電機・アパレルなど)では、「短納期で柔軟に対応すること」が強く求められます。
それが時に現場側の美徳となり、曖昧な発注・生産指示が発生しやすくなります。
こうした曖昧さは、契約終了時に大きなリスクとなって跳ね返ってきます。
事例で学ぶ失敗例・紛争例
事例1:材料在庫の押し付け合い
ある電子部品メーカーでは、顧客からの突然の発注中止指示を受けた際、工場の原材料・仕掛品の引取方法について合意がないまま契約が打ち切られました。
メーカーは材料費やそれまでの加工費用の補償を求め、顧客側は「あくまで未納品分は不要」と主張し、訴訟沙汰に発展しました。
事例2:仕掛品放置で棚卸資産が膨張
某自動車サプライヤーでは、契約終了時に実態調査を怠り、多くの仕掛品が工場に残りました。
結果として棚卸資産が膨らみ、経営指標が一時的に大きく悪化しました。
後日、経理や監査部門から厳しい指摘を受け、再発防止策の構築を余儀なくされました。
事例3:納期遅延によるサプライチェーン混乱
一部納品と残り発注残の切り分けが不明瞭だったため、上流工程の納品遅延が発生。
サプライチェーン全体が混乱し、最終顧客に対し大きなペナルティを科せられる事態となりました。
発注残・仕掛品の正しい扱いとは
1. 契約条項で明文化する
最も重要なのは、契約書・発注書の段階で「発注残・仕掛品の帰属・補償方法」を具体的に文書化しておくことです。
引取条件、補償単価、所有権移転のタイミングなど、曖昧さを排した形で明確に記載します。
2. 状態の“見える化”を実施する
製造現場の実態を正確に把握・可視化し、発注残・仕掛品の現物数量・進捗状況を定期的にチェックできる仕組みを作ります。
クラウドシステムやIoT技術を活用し、現場の棚卸状況をリアルタイムで共有することで、未然にトラブルを防止できます。
3. 緊急時のコミュニケーションルールを明確化
契約途中での急な生産中止や数量変更時には、担当者同士で即時に情報共有・協議する運用ルールを定めておくことが重要です。
「一報連絡」「3者会議実施」など、アナログな現場でもすぐに実行できるオペレーションルールが有効です。
4. アフター対応と継続的な関係構築
一度きりの取引でなく、中長期的なパートナーシップを重視し、たとえ契約終了時にトラブルが発生しても迅速に妥協点を見いだせる関係性を構築しておくことが解決の近道です。
サプライヤーとバイヤー、それぞれの立場からの視点
バイヤー(調達側)が重視すべきこと
– 契約・発注プロセスの標準化と明文化
– 状況変化時(生産中止・数量変更)には早期にサプライヤーと共有
– 材料や仕掛品の在庫リスクを想定したコスト計算
サプライヤー(受注側)が意識すべきこと
– 契約の曖昧さに安易に妥協せず、発注者に条件確認を必ず要求
– 仕掛品や原材料投入前に、補償や所有権移転について同意を得る
– 現場棚卸や進捗状況の「見える化」を徹底し、リスクを減らす
まとめ:アナログ業界にこそ“契約の透明化”を
昭和から脈々と続く現場重視型の製造業界では、阿吽の呼吸や曖昧な判断が未だ根強く存在しています。
業界全体が変革期を迎える中、発注残や仕掛品をめぐるトラブルを避けるためには、バイヤーもサプライヤーも“現場と契約の見える化”を今こそ推進すべきです。
契約条項の明文化、実態の可視化、そして継続的な信頼関係構築こそが、サプライチェーン全体を守る最良の対策となります。
製造業を担う皆様が自社の現場や調達・生産管理業務を振り返り、ぜひ自社のルールと現状運用を再点検する機会としていただければ幸いです。
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