投稿日:2025年8月30日

貨物の濡れ(wet damage)防止:レインカーテン・防水内袋・ドック運用

はじめに:製造業における「貨物の濡れ」リスクの現実

製造業に携わる皆様ならば「貨物の濡れ(wet damage)」という言葉に耳慣れている方も多いことでしょう。

原材料、部品、完成品――いずれも雨や湿気などによる濡れは、品質劣化、クレーム、そして多大なコスト増につながります。

実際、私が長年経験した現場でも、たとえば倉庫から出荷した後の港湾トラブルや納品先での雨天荷下ろしなど、想定外の場面で貨物が濡れてしまい、お客様とトラブルになるケースは少なくありませんでした。

昭和時代から抜けきれないアナログな物流現場の運用では、依然として“なんとかなるだろう”という現場力に頼る風潮が根強い状況です。

しかし、グローバル化や品質保証意識の高まりとともに、貨物の「濡れ」はもはや許されない致命的なリスクです。

そこで今回は、「貨物の濡れ(wet damage)」防止を現場目線で徹底的に解説し、レインカーテン・防水内袋・ドック運用といった具体策、そして現代の調達・物流における課題と新しい視点を提示します。

なぜ今、「貨物の濡れ」対策が重要なのか

品質クレームがビジネスの信用を左右する時代

品質不良の原因トップに「貨物の濡れ」が挙げられることも珍しくありません。

水濡れによるサビや腐食、外装汚損は一度発生すると現地で修復・再生するのが困難なため、納期遅延や返品、最悪の場合はビジネスそのものを失うリスクもあります。

私の現場体験でも、一度の輸送中の濡れ事故から年間継続案件が打ち切りとなったケースが数例あります。

「濡れても少しくらいなら大丈夫」という意識は、今の時代に通用しません。

サプライチェーン全体での管理が要求される

また、SDGsやESG投資の観点からも、品質事故を減らし、余分な作り直し・廃棄・再輸送などのムダを減らす取り組みが求められています。

つまり、「自分の工場から出したらあとは知らない」という時代は過ぎ、調達先から納入先の現場まで一貫して濡れを防止する仕組みづくりが、今やバイヤー・サプライヤー双方の責任となっています。

輸送・保管現場に潜む「濡れ」のリスクと発生パターン

現実の現場では、以下のように思いもよらぬ場所やタイミングで貨物の濡れが発生します。

1. 積み込み・積み下ろし時の雨・雪

荷役時間と天候が重なると、フォークリフトで一時的に屋外に出た合間に、想像以上の水分が貨物の表面や隙間に入り込みます。

カートン箱の脆弱性は言うまでもありませんし、たとえパレットラップを巻いても、端部や底面、パレットの隙間から浸水することも多いです。

2. カーゴ車・トラック輸送中の水漏れ

長距離輸送の場合、幌車やウィング車の老朽化、積み替え時の雨曝し状態による浸水リスクも見逃せません。

特に低床パレットや隙間のある木パレットは、トラック床面の水を吸い上げてしまったり、パレット上を水が流れて荷物底面を濡らすことも多々あります。

3. 倉庫・ヤードの床面濡れ、結露、湿度変動

地味ですが、倉庫やドックの床面が雨天で濡れている状態で荷物を直接置けば、地面からの吸水が起きます。

また、湿度変動で箱や梱包資材自体の性能が落ちて、中身に影響する場合も多いです。

現場目線で導入すべき3大対策:レインカーテン・防水内袋・ドック運用

昭和的な「気合い」や「人海戦術」だけでは根絶できない、貨物濡れ。

では現場を守る強力な施策を、具体的にまとめます。

1. レインカーテン(防雨カーテン) の効果的な運用

出荷・受け入れ現場で、屋外と屋内を区切る「レインカーテン」の活用は現場環境の改善に大きく寄与します。

【具体策・ポイント】

– トラックバースにビニールレインカーテンを設置し、荷役時も雨風の吹き込みを大幅に防ぐ
– 荷役人員の導線を守りつつ、ドック開放部を最小化する(極力大きく開けすぎない運用)
– カーテンを閉じることで空調効率も向上し、夏冬の作業環境改善、副次的なコスト削減も狙える

現場ベースでは、風でバタつかないよう重しや磁石で裾を固定する、定期的に清掃・補修するなどの運用面も重要です。

2. 防水内袋・パレットカバーの多層防御

工程や保管ロケーションによっては、外部対策だけでなく「箱・パレットそのもの」を二重三重で守る工夫が必須です。

【具体策・ポイント】

– 外箱(ダンボール)内側に耐水性ポリ袋を使用し、水分をシャットアウトする
– 防水パレットカバー、パレットシートを新たに導入し、野積み・仮置きでも濡れを防ぐ
– 輸送経路が長い場合やリードタイムが長い場合、「乾燥剤」を併用し内部湿気も徹底対策

筆者の現場経験でも、海外出荷品・高額精密機器などは当たり前のように「内袋+外装+パレット用シート」の3層構造とし、さらに水濡れ判定ラベル(インジケータ)をつけることで、万一の事故時も原因特定と再発防止に役立てました。

3. ドック運用・荷役手順そのものを見直す

ハードな施策以上に効果を発揮するのが「運用そのもの」の見直しです。

【具体策・ポイント】

– 雨天時はバースにトラックをぴったり横付けし、カーテン間から最短距離・最小時間で積み替え
– 雨量や積荷形態に合わせて、荷役順番や履歴(濡れやすいもの→最初に、重ね順)を最適化
– トラック待機時はシート養生・移動用台車の防水仕様も検討

実際、現場カイゼンの一つとして「雨天時は荷役スタッフにレインウェア・長靴を貸与」「天気予報連動で積み込み時刻を調整する」などの仕組みを日常運用に織り込み、事故発生を激減させた経験があります。

サプライヤーから見たバイヤーの要求・認識と業界の動向

1. バイヤーは何を重視しているか?

現場のサプライヤー側からは、「どこまで過剰に対策すればよいのか」「コスト負担はどう考えるべきか」と疑問が多いものです。

一方で、調達バイヤーの立場から見ると、

– 品質保証の観点で、濡れによるリスクは根絶を求められる(コスト以上のリスク回避が第一)
– 濡れを理由に納品遅延や再生産が発生しない、予想可能な安定供給が最重要
– コスト増加は避けたいが、クレームや損害リスクと比較して合理化できる範囲であれば、一定程度許容する

といった価値基準となります。

結果として、対策しているサプライヤーはバイヤーからの信頼が高まり、長い取引関係につながっています。

2. アナログ業界からデジタル業界への移行と新たな発想

昭和時代のルーチン的手法に留まることなく、今後は以下の新たな展開も視野に入ります。

– IoTセンサーによる温湿度・浸水履歴の自動記録、データ活用による事故原因分析
– サプライチェーン全体で「濡れゼロ」保証を標準化し、各拠点でのチェックリスト・検証フローを整備
– AI天気予報と出荷計画を連動し、計画的な「晴れ間選択」物流を自動化

このように、現場目線でありつつも新技術の導入、属人的ノウハウの仕組み化が重要な時代になっています。

まとめ:現場目線+未来志向で「貨物の濡れゼロ」へ

貨物の濡れは、たかが雨、されど雨です。

現場の声として、
「そこまでやらなくてもいいのでは」
「昔からのやり方で十分」
といった声も根強いですが、時代は確実に変わっています。

調達・物流・生産現場の全領域にまたがる「濡れゼロ対策」は、皆さん一人ひとりのアクションによって築かれるものです。

コスト・人手・運用面でのハードルはあるものの、レインカーテン、防水内袋、カイゼンされたドック運用の「三位一体」アプローチ、そしてサプライヤー×バイヤー間の密な認識共有が、企業価値の向上・事故ゼロ文化の礎となるでしょう。

「貨物を最後まで守る」という現場魂と、新しいテクノロジー・仕組みのラテラルな活用――。

この記事が、あなたの会社、工場、サプライチェーン改善の一助となることを願ってやみません。

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