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キッティングを供給側で完結し組立工数を削減する前工程移管の進め方

目次
はじめに:製造業の転換期における「前工程移管」とは
製造業を取り巻く環境はここ数年、劇的に変化しています。
脱炭素や人手不足、コストダウン要請に加え、サプライチェーン再編・多様化対応といった要素が工場経営を難しくしつつあります。
こうしたなか、昭和型のアナログな組立・物流体制を抜本から見直す機運が高まっているのです。
この記事では、調達バイヤーやサプライヤーの現場実務者、さらに将来を見据えるすべての製造業関係者のために、「キッティングを供給側で完結し組立工数を削減する前工程移管の進め方」について、現場経験と現代的視点の両面から詳しく解説していきます。
キッティングとは何か?
キッティングの概要
キッティングとは、複数部品をサブアセンブリやセット状態にして組み合わせ、「キット」として提供する工程を指します。
従来は、最終組立の現場(たとえば国内工場のライン)で「必要な部品をそれぞれ個別に受入れ、都度ラインサイドでピッキング+組み立てる」ことがほとんどでした。
一方、キッティングでは、それ以前の段階で複数の部品やパーツをひとまとめにし、組み立て工程に適した形で供給するのです。
基本概念:前工程移管との関係
「前工程移管」とは、もともと自社や自工場内で実施していた作業・工程を、部品サプライヤーや外部の協力会社へ移管することです。
これにより、完成品メーカーの工場では「より効率的な工程管理」と「直間接人員の最適化」「物流・在庫のスリム化」が実現可能となります。
キッティングは、この「前工程移管」の主要施策の一つです。
なぜ今、キッティングの前工程移管が必要なのか?
人手不足と技能伝承の危機
工場現場では深刻な人手不足が続いています。
また、これまで熟練工が暗黙知で回していた工程・作業の属人化が、技能伝承の難しさという形で顕在化しています。
負荷集中を避け、誰でも安定的に回せる工程設計がより一層求められています。
多品種少量化・変種変量生産の拡大
市場ニーズの多様化により、リードタイム短縮・変種変量生産対応が標準となっています。
手元でバラバラに部品を「小口ピッキング」して組み立てる従来方式では、現場負荷増大とミス発生リスクが高まる一方です。
BOMデータのデジタル化・SCM再構築の必要性
生産管理や購買部門ではBOM(部品表)をもとに手配や発注管理を行ってきましたが、「このBOMに基づいて部品サプライヤー側でも“製品志向”のセットを組み立て、供給してほしい」というニーズが増加しています。
サプライチェーンマネジメント(SCM)の強化が急務となっています。
キッティング前工程移管のメリット
ここでは、バイヤー(顧客側)とサプライヤー(供給側)それぞれの視点で、キッティングを前工程移管するメリットを整理します。
バイヤー(顧客側)のメリット
- 組立ラインの工数削減:部品毎ピッキングが不要となり、ライン効率が大幅向上
- 工程設計の容易化:属人化排除、作業標準化、安定稼働がしやすくなる
- 在庫・物流の最適化:必要な部品を適量・適時に受け取れ、スペース削減や管理工数低減
- 品質安定:供給時点で品質チェック済みのサブアセンブリやキットを受領できる
サプライヤー(供給側)のメリット
- 付加価値の提案力強化:単なる部品供給から「組立・検査を含めた高付加価値サービス」へ転換
- 囲い込み・差異化:自社独自のキッティングノウハウで客先とのリレーション強化
- 継続受注・信頼構築:コストメリットや設計レビュー貢献が評価されやすい
実践!キッティング前工程移管の進め方
ここからは、現場実務経験を踏まえ、具体的にどのような手順とポイントで「前工程移管」を進めていくのか、詳しく解説します。
1. 手順全体イメージ
ざっくりまとめると以下のステップです。
- “移管対象”となる組立工程・キット内容を特定する
- BOM整備・作業標準書の共有を行う
- サプライヤーとの役割分担・責任範囲を明確化
- 小規模トライアルで移管実施、問題点を洗い出す
- フィードバックに基づき標準化・自動化を推進
- 本格運用に展開する
2. アナログ現場での最大の壁:BOMと現場作業ギャップ
多くの製造業ではいまだに「製造BOM」と「現場での作業手順」が乖離しているケースが多いです。
現場では経験値付加や暫定処置で工程が回っており、標準化されていない作業、口頭伝承、紙管理など“昭和的”な要素が根強く残っています。
まずBOMと作業実態を突き合わせ、移管対象キット範囲を明確に定義します。
3. サプライヤーと共に「現場に立ち会う」
実際に組立現場をサプライヤー担当と共に歩き、“なぜこの順番で組むのか”“どうすればロスが減るか”などをリアルに検証します。
「図面通り」ではなく「現場でやっている手順」を共有することが、キッティング移管の成功の鍵です。
4. 責任分担を徹底的に明確化する
不良発生時の責任・保証範囲、個包装材やラベル印字、梱包形態など搬送途中での品質維持も含め、責務をはっきりさせておく必要があります。
過去、ここが曖昧でトラブルになる現場を多々見てきました。
5. トライアル時の「現場巻き込み」とフィードバック
小さいロット・限定部番でテスト移管を実施し、現場作業者・管理者・現物での手応えを重視します。
部品点数ミス・仕分け漏れ・梱包ミスなどが発生した場合、直ちにフィードバックしサプライヤーと共に改善を進めます。
6. デジタル化&自動化との連携
BOM整備・着荷検収・ライン搬送までを一気通貫でデジタル化できると、さらに劇的な改善が見込めます。
RFIDやバーコード管理、AGVや自動倉庫と組み合わせたソリューションも増えています。
キッティング移管で発生する課題とその解決策
「コスト増」への懸念と価値提案
しばしば「部品コストは上がらないか?」「現場負担を供給側へ丸投げでは?」という懸念が出ます。
しかし、組立工数・作業工数・物流コスト全体で“トータル最適化”し、サプライヤー側の専門性(柔軟な人員配置・短納期対応・自社ベストプラクティス)を活用することが、全体費用の低減と高品質化につながるのです。
見積もりでは“工程内削減”やベネフィットを数値化した提案が効果的です。
「品質トラブル」対策:現場連携と文書化
キッティングすることで「セット品ごと不良」「入数間違い」「異品混入」など新たなトラブルリスクも発生します。
これに対しては
- サプライヤー工場での工程内検査・検品工程の追加
- スマートフォン撮影やAI画像認識などの活用
- 標準作業書・チェックリストの定期改訂
- 品質保証体制の合意形成
が不可欠です。
「コミュニケーションロス」の解消
移管時は現場同士の密な連携と、サプライヤー現場の担当者に直接相談できる環境をつくることが、スムーズな定着には不可欠です。
また、異動や引継ぎがあってもワークフローを回せる“現物重視の文書化・映像化”も推奨されます。
昭和から令和、さらに未来へ:キッティング移管の新たな地平線
いまやキッティングの移管は、
「単なる外注・丸投げ」から「共同価値創造」へのダイナミックな進化を遂げています。
サプライヤー=供給者、バイヤー=受益者、という一方的な関係性ではなく
“現場をよく知るプロ同士が、工程のどこにベストプラクティスを持ち込めるか”
を探求し続ける“パートナー型バリューチェーン”が主流です。
将来的には、AIやIoTによる「見える化」「協働AMR搬送」「サブアセンブリアズアサービス」のような新たなビジネスも進展するでしょう。
昭和的なアナログの良さ(職人技、現場力)と
令和のデジタル・自動化の波とを上手く融合した「現場起点のイノベーション」が、まさに今求められています。
おわりに:現場での価値創造を目指す全ての人へ
キッティングをサプライヤー側で完結する前工程移管の取り組みは、
単なるコストダウン策ではありません。
現場でのムダ排除、省力化による働きやすさ向上、そしてバイヤーとサプライヤーが「共創」する企業文化への転換でもあるのです。
この記事が、皆さんの現場改革・新たな価値創造のヒントとなり、
製造業の持続的成長と未来へのチャレンジを後押しできれば幸いです。
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