投稿日:2025年8月31日

輸入規制変更による通関遅延に備える複数仕向け国の販売計画設計

はじめに:グローバル時代の輸入規制とサプライチェーンの新課題

グローバル化が進む中、製造業における輸入規制の変化は日常茶飯事です。
企業が世界市場で競争優位を築くためには、原材料や部品調達の効率化と、多様な仕向け国(販売国)への柔軟な対応が不可欠です。

しかし、各国の貿易管理体制の強化や環境規制など、輸入規制の変更は通関遅延や想定外のコストを招くリスクを持っています。
特に近年では、米中貿易摩擦、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)、東南アジア各国の非関税障壁強化など、変化の速度と複雑さが増しています。

本記事では、輸入規制変更による通関遅延リスクを見据えた上で、複数仕向け国をターゲットにした、販売計画の実践的な設計手法を現場目線で解説します。
昭和のアナログ文化が根強く残るこの業界で、いかにラテラルシンキングを活用し、変化に強いサプライチェーンを構築するか、そのポイントを掘り下げていきます。

なぜ「複数仕向け国」の販売計画設計が求められるのか

単一マーケット依存リスクの急増

長期安定生産、大量ロット一括納品という昭和的な構造を続ける企業の多くは、海外市場進出にあたり「最も有利な国一択」の集中戦略に傾きがちです。

しかし、この戦略を取っていると、例えば急な輸入規制強化や通関体制変更——
関税引き上げや認証要件の追加、突発的な港湾ストライキなど——が発生したとき、大きく出荷リードタイムやコスト面でダメージを受けることとなります。

サプライチェーンの回復力を高める「冗長性づくり」

複数仕向け国に販売網を広げておけば、一つの市場で規制強化や通関遅延が発生しても、別の国への転換や融通が容易になります。

この「冗長性」を作ることこそが、現代の製造業バイヤーにも、取引先サプライヤーにも求められるサプライチェーン設計力です。

近年の輸入規制・通関遅延の実例と業界トレンド

米中貿易摩擦の波及

中国で生産された工業部品をアメリカへ輸出する際に追加関税が賦課され、通関での審査も厳格化しました。
一時は現地通関手続きが通常よりも5日以上長引くなど、現場では「ライン停止の危機」を味わった企業も少なくありません。

EUの環境規制と新しい通関障壁

2023年から段階導入が始まったCBAMによる炭素コスト申告義務化や、REACH規則による化学物質規制強化は、部材に含有される成分証明や環境対応書類提出の手間を大幅に増大させています。
この影響で、据付機械や部品の日本からEU向け出荷が想定より2週間遅延するケースが報告されています。

アセアン各国の非関税障壁

インドネシアやベトナムでは、原産地証明書類やHSコード変更に伴う再審査が多発。
特に量産品の継続納入において、現地の官僚的な通関業務が「読めない」リードタイムリスクとして経営を悩ませています。

現場で役立つ「複数仕向け国」販売計画設計の6つのポイント

1. サプライチェーン可視化でボトルネック発見

まず自社製品が各仕向け国に至るまでの「物流・通関・販売の流れ」を1つ1つ可視化しましょう。
地図やフローチャートを使い、仕向け国ごとにどこで遅延や規制リスクが高いかをあぶり出します。
現地のフォワーダーや物流会社の知見を吸い上げることも肝心です。

2. 輸入規制・通関情報の収集と早期アラート体制

JETROや各国の商工会議所、日本貿易会の情報などをウォッチし、規制変更の兆しを把握するのが重要です。
社内に「規制動向ウォッチャー」(担当者や専属チーム)を置き、早期にアラートを鳴らせる仕組みを作りましょう。

3. マルチプロダクト・マルチマーケット化の検討

規制が特定品目または特定市場に集中している場合、一部製品の仕様変更(規制適合化)、あるいはタイやマレーシアなど「別マーケット」への分散進出を図る。
柔軟なBOM(部品表)による現地最適生産や、マルチマーケット型PLM(製品ライフサイクルマネジメント)運用が必須です。

4. デジタル活用による納期遅延リスクのリアルタイム可視化

昔ながらの「紙・メール・電話」での納期管理を脱却し、サプライチェーンマネジメントツール(例:SCMクラウド、ERP、EDIなど)や、RPAを取り入れて情報収集・早期警戒体制を構築します。
現場の納期管理担当者もPCやスマホで状況把握できる体制を作ることが競争力につながります。

5. 官公庁・パートナー企業との協調体制の構築

大口チャンネルを持つ現地商社・フォワーダー・法務顧問などとのパートナーシップを強固にしておきましょう。
輸入規制で“もしも”の時には、このネットワークが「実戦力」となります。
また、現地規制対応ノウハウを社内教育に落とし込むことで、昭和型属人業務やブラックボックス化のリスク低減にもなります。

6. 代替供給ルート・現地生産のバックアップ案

特定国で通関大混乱が起こった場合のために、他国からの緊急調達ルートや現地OEM生産の暫定バックアップ体制もシナリオとして持っておくことが重要です。
「BCP計画」(事業継続計画)の一環として、物流経路の多様化やサプライヤー複線化を平時から試しておきましょう。

実際の現場での成功・失敗事例

成功事例:通関遅延を乗り越えた部品供給ネットワーク再編

ある大手自動車メーカーでは、ベトナム市場向けの制御部品が急遽規制強化でストップした際、タイの協力工場に設計データを共有し、一部仕様を現地法規に適応化。
同時に、緊急出荷用として韓国経由のルートも用意することで、納期遅延を1週間以内に抑えました。
“設計と調達、物流がワンチーム”で臨むカルチャーが功を奏した好例です。

失敗事例:属人管理による見逃しと多大なペナルティ

一方、ある中堅産業機械メーカーは、欧州向けの機械装置のREACH対応を一部の担当者だけで管理し、最新版規制のアップデートが追いつかずに通関で積戻し・大幅な遅延。
多額のキャンセルペナルティが発生しました。
情報の「属人化」による現場ブラックボックス化が、リードタイム管理・リスク分散を難しくした典型です。

サプライヤー目線から考える:バイヤー(調達)の意識変化と要求事項の具体例

かつての「大量発注・一括調達・価格優先」から一転、近年のバイヤーは「柔軟な供給対応・リアルタイム情報共有・規制変動への耐性」を最重要視しています。
サプライヤーがバイヤーのパートナーとして信頼されるには、次のようなポイントが重要です。

・急な通関規制変更を見据えた代替材料や生産ライン、物流便の提案力
・リードタイムや出荷在庫、規制情報などの「日々の見える化」と、情報の即対応
・現地法規チェックや必要書類(成分証明書・原産地証明・環境規制への適合宣言など)のデジタル管理

昭和から続く「言われてから動く」モデルは限界です。
サプライヤー自身が規制リスクを日常的に先回りし、“攻めの提案”を仕掛けることで、長期の信頼関係を構築できます。

昭和的価値観とアナログ体質から脱却するために

今も多くの製造現場には、口頭・紙・Excelで情報伝達し、担当者と担当者で“暗黙知”がやり取りされる文化が根強く残っています。
しかし、複数仕向け国・動的な規制変化への即時対応には、情報のデジタル化とチームワーク型オペレーションへの進化が不可欠です。

例えば、
・「誰がいつ何を見て何を対応したか」をSCMシステム上ですぐに追跡できる状態
・規制改定や納期遅延アラートを仕入先も含めて一元共有できる仕組み
が必須となります。

まとめ:未来志向のサプライチェーン設計で製造業の競争力を高める

輸入規制の変更は、多国間ビジネスでは“いつでも起こり得る不可避の事象”です。
複数仕向け国を見据えた冗長性のある販売計画と、その背景にある情報収集・デジタルツール活用、現地パートナーとの横断連携こそが、昭和型から令和型への現場変革の第一歩です。

ここにラテラルシンキングを活用し、固定概念を打ち破ることで、従来のリスクを価値あるビジネスチャンスに変えられます。
製造業を支える皆さまが、一歩前に、未来志向のサプライチェーン構築に踏み出されることを期待しています。

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