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輸出入契約におけるForce Majeure条項の実効性を高める工夫

目次
はじめに:Force Majeure条項とは何か?
輸出入契約において「Force Majeure(不可抗力)」条項はもはや必須の存在です。
自然災害や戦争など、人や企業の努力では回避できない事象が発生し、契約の履行が困難または不可能になった場合に、両当事者の責任を限定または免除するためのものです。
こうした不可抗力条項は、製造業現場や調達購買の仕事現場に根強く求められてきました。
しかし、実務の現場では「文字通りの免責規定」になっているだけで、いざという時に“本当に”機能するForce Majeure条項が組み込まれていないのが現実です。
本記事では、製造業での長年の実体験から、「契約書に書けば安心」という昭和的発想から一歩進めて、変化が激しい現代で実効性のあるForce Majeure条項を作るための工夫とポイントを詳しく解説します。
Force Majeure条項が形骸化しがちな理由はどこにあるのか
なぜ“お約束”の条項になってしまうのか
多くの輸出入契約書には、ひな形のようにForce Majeure条項が組み込まれています。
しかし「地震、洪水、火災、戦争、政府の規制…」とリストするだけで、実際のオペレーションにどう落とし込むのかを詰めていない契約が目立ちます。
その背景には以下のような現場事情があります。
- 法律事務所任せ、あるいは総務・法務部門任せで、調達部門や工場現場の“現実”が反映されていない
- 現場管理者ですら「Force Majeureとは何か」説明できる人が少なく、運用方法もあいまい
- 契約書を交わすこと自体がゴールで、“運用を想定した締結”という視点が欠落している
これでは、いざトラブルが発生したときに自社の立場を守れないどころか、サプライチェーンが寸断され、致命的な損害になってしまう危険性があります。
製造業の現場で発生しやすいForce Majeure事例
自然災害だけがリスクではない
代表的な事例としては地震や洪水、台風、水害などがよく取り上げられます。
しかし、近年の現場では以下のような、より幅広い事象がリスクとして顕在化しています。
- 新型感染症の世界的流行(COVID-19による物流網混乱や工場稼働停止)
- 半導体や部品供給不足による生産ライン停止
- 国際政治リスクの高まりに伴う貿易規制や急な輸出入停止
- 港湾ストライキや運輸会社の大規模労使紛争
- サイバー攻撃による生産・物流システムへの打撃
- 戦争・テロ・政府の緊急命令による突発的な操業ストップ
どれもが昭和・平成の時代と比べてより複雑化・多様化しています。
これらが「自社に影響を与える範囲や条件」を具体的に考えたうえで条項設計を行うことが、実効性のある運用に欠かせません。
実効性を高めるForce Majeure条項の工夫ポイント
1. 具体的な対象事象・範囲の明記
“不可抗力”の範囲は、なるべく具体的に列挙することが現場目線での第一歩です。
たとえば単なる「natural disasters」とせず、「地震、洪水、津波、台風、竜巻、火災、パンデミック、主要なインフラ障害」など、実際に自社の現場やサプライチェーンを直撃しうる項目を追加しましょう。
また、抽象的な「その他、当事者の支配を超える事由」だけに頼ると解釈の幅が広くトラブルのもととなるため、具体+包括で“穴”を塞ぎます。
2. 履行不能の定義および手順
不可抗力が発生した場合、「どのような条件で」「どの期間」「どの程度」契約が免責されるのかを明確にしておく必要があります。
例えば、
- 「発生から●日以内に相手方へ書面通知する」
- 「発生後、納期遅延が●日以上続いた場合解除可能とする」
- 「再開の目途が立った時点で速やかに通知・協議を行う」
など現場が即時に動ける運用手順を書き加えることで、トラブル発生時の混乱を最小限に抑えます。
3. 情報公開・連絡体制の整備
災害や大規模物流障害では、現場からの情報が会社本部や取引先にうまく伝わらず、混乱が拡大します。
Force Majeure条項には、連絡先の指定や通知方法(メール、FAX、電話など)、現場レベルでの意思決定フローを盛り込むことを推奨します。
4. 共同対応や代替策の協議体制
相手方に完全に丸投げするのではなく、「不可抗力発生時には双方が遅滞なく協議し、対応措置・代替調達・応急対応などを検討する」と明記します。
この協議義務条項があれば、たとえば「サプライヤーAが被災したのでB社から緊急調達する」といった柔軟な対応が迅速に可能となります。
5. 契約解除・損害賠償免責の範囲・条件
万が一不可抗力で履行困難になり契約解除せざるを得なくなった場合、どこまで損害を免責するかも事前に明確化しておきたいところです。
「不可抗力発生に直接起因する損害については、両当事者互いに賠償責任を負わない」などの規定です。
ただし、不可抗力を盾にした“怠慢”を防ぐため、「回避可能な措置を最大限講じること」「遅滞なき報告義務」も併記します。
アナログな現場でも活きる“実務コミュニケーションのルール化”
ハイテク満載の工場であっても、現場の末端部門はいまだ昭和的なアナログ思考が抜けきらないものです。
「どうせトラブルは起きない」「困ったら上司の顔を見てから相談する」といった現場心理も、いざという時に大きなリスク要因になります。
したがってForce Majeure条項の運用ルールについては、契約書の文言だけでなく、現場での研修、通達、緊急時の連絡体制訓練も不可欠です。
組織内で「どのタイミング」「誰が」「どのように」情報を上げるかの実務オペレーションを、予め紙やデジタルフローで共有しておきましょう。
バイヤー・サプライヤー間の“信頼醸成”のために
Force Majeure条項は、単にリスク回避だけでなく、バイヤーとサプライヤー双方に信頼構築のきっかけを与えます。
特にグローバルサプライチェーンでは、想定外の出来事に素早く対応できる協力体制こそがビジネス継続の生命線です。
契約締結時には、形式的な競争入札だけでなく「Force Majeureにどう備えるか」「危機発生時の協働体制をどう維持するか」も確認し、サプライヤーの信頼度、現場力をしっかり見極めましょう。
これは安い見積だけでサプライヤーを選ぶ時代からの大きな進化であり、日々のコミュニケーションとセットでこそ本当の意味での“リスクマネジメント”となります。
まとめ:未来志向のForce Majeure運用へ向けて
製造業のグローバル化、サプライチェーンの複雑化により、想定外のトラブルは今後も増加の一途をたどります。
「契約書ひな形を使いまわす」時代から、実効性のある運用設計へと、現場も購買も変わらなければなりません。
Force Majeure条項は、まさに“備えあれば憂いなし”の代表格です。
自社に最適な内容を具体的に設計し、運用体制を実際に“リハーサル”しておくこと。
バイヤー・サプライヤーともども、危機管理の新しい地平線を切り開くために、現場目線のラテラルシンキングで「生きたリスクコントロール」へ進化しましょう。
部署問わずこの知恵を現場の全員で共有し、不測の事態に強いサプライチェーンを目指すことが、ひいては企業のサステナビリティ、ひいては日本の製造業の競争力アップに直結するのです。
“契約書に書いてあるから安心”は過去の遺物。
“実際に守れる仕組みと現場力”こそが、これからの輸出入契約の最適解です。
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