投稿日:2025年8月31日

ICC貨物保険A/B/Cの補償範囲を事例で比較し最適加入を決める意思決定

ICC貨物保険とは─製造業現場で押さえておくべき国際物流の要

国際取引のなかで、思わぬトラブルが製品の損失や取引先との信頼に直結する場面は数多くあります。
とくに、工場から市場までの長い物流ルートでは、盗難や事故、自然災害など、数多くのリスクが存在します。
そのリスクをカバーするのが「ICC貨物保険(Institute Cargo Clauses)」です。
世界共通のルールとして使える保険であり、A、B、Cという3つの主要な補償プランが国際商流において標準化されています。

しかし、昭和時代から続くアナログな商慣習と現代のグローバルなデジタル化のはざまで、単なる「最安」を求めて盲目的に保険を選んでしまう企業も少なくありません。
その結果、肝心のトラブル発生時に「カバーされない損害」に頭を抱えることが多々あります。

この記事ではICC貨物保険A/B/Cの補償範囲のちがいを、製造業現場の実践経験に基づいた具体的な事例を交えつつ徹底比較し、損をしない最適な意思決定手法をお伝えします。

ICC貨物保険A/B/Cの補償範囲:表面的な比較に注意

ICC貨物保険のA/B/C:それぞれの定義と特徴

ICC貨物保険は、保険条件A(All Risks)、B(With Average)、C(Free of Particular Average)の3区分があります。
それぞれの補償範囲は以下の通りです。

  • A条件(All Risks)
  • 物流中の偶然な事故による全ての損害を補償します。
    盗難・破損・紛失・水濡れ・火災・自然災害など、さまざまな事象が対象となります。
    一方で、「通常の摩耗や自家発火、貨物特有の性質による損害」など、一部例外もあります。

  • B条件(With Average)
  • A条件よりも狭い範囲を補償します。
    水害・火災・座礁・沈没・転覆・衝突などの“大きな事故”が対象で、通常の盗難や軽度の破損などは対象外です。
    また最低損害率(例:積荷の15%以上損失)が適用されるケースがあり、小口貨物には不利な場合があります。

  • C条件(Free of Particular Average)
  • 最も限定的な補償です。
    輸送中の火災や座礁、沈没、大規模事故による損失のみをカバーします。
    部分的な損傷や、小規模の水濡れ、盗難などはほぼ補償対象外となり、完全喪失レベルの大事故にしか対応しません。

    3つの補償範囲を図解する

    A条件>B条件>C条件という順で、補償の幅が狭まっていきます。
    C条件は「骨だけ」のイメージで、B条件は「骨と筋肉」、A条件は「皮膚・内臓も含めたフルカバー」と捉えるとイメージしやすいです。

    現場実感を踏まえた、盲点になりやすい例外

    補償範囲の細部は条文に隠れており、たとえば「責任開始前・責任終了後の事故はカバーしない」「梱包不良による損害は対象外」といった盲点もあります。
    また、戦争やストライキなどの損失、「滞船・積み残しによる損害」などは基本的に対象外です。

    事例で学ぶ:リアルな補償範囲比較

    ケース1:急な積み込み作業でフォークリフト落下事故

    中国から機械部品をコンテナ輸送している現場を考えます。

    港で積み込む際、フォークリフト操作ミスでパレットごと落下。
    機械が曲がり、使い物にならなくなってしまいました。

    A条件なら、「偶然な事故」に該当し、ほぼカバーされます。
    B条件では労働災害による落下については不明確ですが、“事故の重大性”によってグレーゾーンとなるため、保険会社との交渉次第になることが多いです。
    C条件はほぼ支払い対象にならず、自前負担となるリスクが非常に高いです。

    ケース2:突然の大雨による水濡れダメージ

    タイから出荷した精密電子部品、日本の港でトラックへの積替え中にゲリラ豪雨に見舞われ、貨物が水没状態になりました。

    A条件ならほぼ補償されますが、梱包不十分と判断されれば減額もあり得ます。
    B条件は“天災による損害”として補償はされますが、「最低損害率」が発動するため一部保障となる場合もあります。
    C条件では“重大な海難事故”としてしか扱われず、積替え時の水濡れは対象外となります。

    ケース3:船舶海難の大規模事故

    インドから日本への自動車部品の大量輸送中、貨物船が深刻な嵐で転覆し、すべてが海に沈みました。
    このようなケースでは、A/B/Cいずれでも補償対象となります。
    ただし、C条件は全損など「致命的な損失」に限られます。

    ケース4:保管中の盗難による損失

    ベトナムで積み込み後、港湾倉庫で一時保管中に部品の一部が盗まれてしまったという事例です。

    A条件は「盗難・窃盗」が対象です。
    B条件、C条件はこういった“小損害系”はカバー外となるため、自己負担・損失計上となります。

    どの条件を選ぶべきか:製造業の現場視点で意思決定するポイント

    安価なC条件に潜む危うさ─現場が泣く応急処置

    コスト最重視でC条件にする企業は少なくありません。
    しかし、ほとんどのケースで日々のリスクをカバーできないため、トラブル発生時の損失負担が大きくなります。
    現場ラインで「損傷品を応急処置」「クレーム対応で再生産」など、数百万円以上の“見えない損”を被ることも。
    サプライヤーとしては「安請け合いをしない」勇気が問われます。

    B条件の落とし穴:実は小口貨物ほどコスパが悪い

    B条件はAに比べて保険料こそ安くなりますが、“一定損害率以下は不支払い”という制限があります。
    これは、製造業で多い「小口、多頻度」の輸送形態では大きく不利です。
    数十万円規模の損傷が日常的に発生しやすい製品群では、結局保険の旨味を享受できません。

    A条件加入の意義─「保険料を惜しむな、時間を惜しめ」

    製造現場では1つの事故が「納期遅延」「再発注」「客先への説明」など、波及効果が大きくなります。
    現場工数の損失や、顧客クレーム処理にかかるリソースも含めて考えると、「A条件分の保険料」は“最もリーズナブルなリスク管理コスト”であることを痛感します。

    調達側・バイヤーが重視すべきポイント

    バイヤーとしては「納入品質の担保化」「サプライチェーン全体の安定」「プロジェクト全体利益の最大化」が最大関心事です。
    ICC貨物保険A条件加入を標準化することで、サプライヤーとの契約交渉もスムーズになり、不当な値引きや“メンツにこだわる昭和流交渉”を減らす効果も期待できます。

    サプライヤー・バイヤー両者に求められるマインドセット

    昭和的アナログ思考から、データ×現場主導のリスクマネジメントへ

    貨物保険の定型的な選択基準だけに頼らず、工場現場の実情・データ・トラブル実績をもとに、リスクを“見える化”しましょう。
    多くの現場では「何となくいつもC条件」「競合がC条件なのでウチも」といった横並び思考が根強いですが、この慣例発想が問題損失の大半の源です。
    事故リスク、実際の損害発生率、保険料と補償範囲の損益分岐点をラテラルに比較し、新たな意思決定手法を現場起点で導入することが重要です。

    意思決定フロー:現場視点での貨物保険最適選択プロセス

    1. 自社製品の貨物特性(破損リスク、湿気リスク、高単価/低単価、数量・頻度など)を棚卸する
    2. これまでの実損事例・未然防止事例を洗い出す(現場・購買・品質管理などを巻き込む)
    3. A/B/C条件別の保険料・補償実績・過去の未払い損害事例を比較
    4. サプライヤー/バイヤー間で、最適な保険加入条件を明確に合意しコスト分担方針も決めておく
    5. 総コスト・納期・サプライチェーン全体最適の観点で意思決定

    まとめ:ICC貨物保険の選択は、現場の未来を守る経営判断

    ICC貨物保険A/B/Cの選択は単なる保険加入プロセスではありません。
    時に数百万円規模の損害を“自己負担”しなければいけない現場のフラストレーションを回避し、経営を守る最後の砦でもあります。

    製品別リスクやこれまでの実遭遇トラブルを見極め、最適な保険加入を現場と購買サイドが共に意思決定することで、サプライチェーン全体の強さが生まれます。
    今こそ、昭和的“値切りと帳尻合わせ”思考から脱却し、真のリスクマネジメント実践に舵を切ってください。

    そして、バイヤーを含めた新世代の調達担当者は、貨物保険の“本当の使いどころ”を現場から吸い上げ、新たな競争優位を生み出していきましょう。

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