投稿日:2025年8月31日

在庫日数分析と動的発注点更新で過剰在庫を20%削減した需要追随モデル

はじめに:令和時代の在庫管理の課題とその本質

2024年現在、製造業が最も悩むのは「適正在庫」と「需要変動への柔軟な追随」です。

昭和や平成初期には「経験と勘」による在庫管理が主流でしたが、市場環境が激変する今、そのやり方だけでは時代遅れになりつつあります。

加えて、部材調達のリードタイム長期化・サプライヤー事情の不確定化・エンドユーザー需要の急変——管理職やバイヤーにとっては、従来型の定量発注や安全在庫設定だけではリスクが高すぎる世の中になりました。

そこで注目されるのが「在庫日数分析」と「動的発注点の更新」を組み合わせた、より現場実態に即した需要追随型の在庫管理モデルです。

本稿では、私が実際の工場現場で20%以上もの過剰在庫削減に成功した実践事例を交えつつ、現場のリアルな声や業界動向も踏まえて、「攻めも守りも両立できる在庫最適化」のノウハウをお伝えします。

なぜ、在庫削減は難しいのか?実務現場のジレンマ

熟練担当者も悩む「在庫減=リスク増」の苦しみ

まず、多くの現場で根付いている暗黙の了解、それは「とりあえず多めに持っておく」です。

なぜなら、過去に”在庫切れ”を起こしてライン停止、顧客納期遅延や工場全体の混乱など、痛い経験をした人が現場には多くいます。

一方で、経営サイドからは「原価低減」「キャッシュフロー改善」のために在庫削減を強く求められるため、中間管理職(工場長・資材課長など)は常に板挟みの状態です。

  1. 過剰在庫=もったいない(現金化できない保管コスト)
  2. 在庫切らすとトラブル・ペナルティ

この二律背反こそが、在庫管理の本質的な難しさです。

アナログ型業界特有の「属人的管理」とその限界

製造業、とりわけ昭和カルチャーが色濃い現場では、管理部門の“ベテラン主義”が強く、在庫管理や発注点設定も担当者の「過去の勘」で行われがちです。

調達要員の高齢化・人手不足が進行しつつある今、個人ノウハウの属人化には大きなリスクがあります。

また、小規模部品の卸や加工業者は未だに基幹システム未導入で「伝票とエクセル管理」…という会社も決して少なくありません。

つまり、アナログ型の運用を続けている限り、

「どこに在庫がどれだけあるか」
「どの品目がどれだけ動いているか」

がブラックボックス化しやすいのです。

この「見えない在庫」の膨張こそが、業界として抜本的に変えるべき“構造的問題”です。

在庫日数分析が生み出す“見える化”の衝撃と効用

従来型「在庫数量管理」の限界を超える

在庫実態を変革するきっかけとなるのが、「在庫日数分析」という考え方です。

そもそも在庫数量や金額だけを見ていると、品種ごとの動き・滞留状況・本当に削減インパクトのあるアイテムが分かりません。

それを打破するのが、「現在の在庫量を直近の平均出庫(日・月・週単位)で割り、“在庫日数”として見せる」方法です。

例えばこうなります。

品目A:現在在庫 1,000個/1日の平均出庫 10個=在庫100日分
品目B:現在在庫 200個/1日の平均出庫 40個=在庫5日分

この単純な指標化によって、「どれが余っているのか」「どこに潜在的リスクがあるのか」が一目瞭然になります。

“ABC分析”を超える、「在庫日数マトリクス」の活用

ABC分析は古典的名手法ですが、「発注や現物観点での優先度」を掴みづらい面がありました。

一方、在庫日数分析は「多すぎる在庫」=縮小余地の発見、「少なすぎる在庫」=欠品リスクの警告、とダイレクトに可視化できます。

この情報を月次・週次で全品番ピボット化し、在庫最適化のPDCAを高速回転させます。

数値化→現場感覚とのすり合わせで現実解を出す

ただし、データだけで意思決定すると現場の肌感覚を無視して失敗します。

実際には、「在庫日数が100日を超えている部材は、なぜそんなに余っているのか」
「月に一度しか使わない治工具は必要最小限だけで良いか」

といった“現場ヒアリング”と“データ”の両輪が不可欠なのです。

動的発注点更新とは?変動需要時代の本命戦略

「定数発注」から「変動型・自律調整型」へ

従来は「発注点を年に1~2回棚卸しデータから決定し、1年放置」という慣習が根強く残っています。

ただ現実には、需要がコロナ禍や世界情勢・取引先の事情で目まぐるしく変動しています。

つまり、「去年通用した発注点」が半年後には適合しないのです。

そこで必要になるのが、在庫日数式や取り込みデータ等を基にして
【一定期間ごとに、発注点を自動で更新】する「動的発注点システム(Dynamic Reorder Point)」です。

Excelなどのローコスト運用でも十分機能する

基幹システムや自動化が進んだ大企業ならERPで自動設定できますが、中堅や現場単体でもExcelベースで十分実用的な運用が可能です。

在庫記録+出庫履歴を一定期間(例:過去3ヶ月)で集計し、「直近実績×リードタイム+安全在庫」式で発注点を自律的に算出・更新します。

また、前項の在庫日数分析を組み合わせることで、切替基準(たとえば「在庫日数30日を切ったら要チェック」など)の自動アラートも現場で作りこめます。

需給の変動に“遅れず対応”する現場体制の構築

「需要急上昇」「発注数量の多すぎ・少なすぎ」いずれにも柔軟に追随できる仕組みは、今や生死を分けると言っても過言ではありません。

月次の発注ルーチン業務から週次・半月サイクルの“動的チェック”へと、マネジメントスタイルを進化させることが業務効率化と在庫圧縮の鍵です。

実践事例:過剰在庫20%減少を実現したリアルな工程

筆者が工場の資材担当責任者として取り組んだ自社事例を、ステップごとにご紹介します。

ステップ1:全品目・全棚在庫の「在庫日数化」

まずは、全在庫品の出庫履歴・入庫履歴データを1年以上分集計し、在庫日数を算出して“可視化マトリクス”を作成しました。

現場メンバーとともに数値の意味をひとつずつ紐解き、
・極端に在庫日数が大きい死蔵品
・逆に、日数が少なすぎて欠品リスクの高い品番
を洗い出しました。

ステップ2:「動的発注点」算出、現場レビュー&再調整

Excelで簡易的な自動計算ツールを作成し、「過去3ヶ月平均の使用実績×リードタイム+標準安全在庫」で、デジタル的に定量判断します。

ただし、“定量式に現場判断を掛け合わせる”フローを必ず残し、ライン担当者や資材管理者による“例外事象(特注・季節変動・不良在庫)”も吸い上げました。

ステップ3:棚単位の「在庫圧縮」ストーリーを設定

全担当者に「この◯日分以上は削減ターゲット」と明確に指示し、重点的に在庫分解・余剰品引き当て・分納依頼・サプライヤー返品対応など具体策を講じました。

納期遅延等のリスクが見込まれる場合には即座に“アラート=エスカレーション”体制を敷き、「責任感の分散」「情報の属人化」を排除しました。

ステップ4:毎月/毎週のKPI&見える化の徹底

財務管理・在庫金額報告に加え、在庫日数ベースでのKPI可視化を役員・現場全体に展開しました。

特に、現場担当者の「在庫管理への参画意識(自分ごと)」が大きく高まる効果があり、現場カイゼン力の底上げにもつながりました。

その結果—過剰在庫(目標比20%削減)とリスク両立の実現

取り組み前:全体在庫日数平均 40日
取り組み後:平均31日、20%削減、欠品・納期遅延トラブル件数も大幅減

現場負担も、担当者の仕事が「管理から改善へ」シフトしたため、モチベーション低下や不満もほぼ出ませんでした。

サプライヤー&バイヤー視点で押さえるべき業界動向

なぜ今、在庫回転率がビジネス競争力に直結するのか?

製造サプライチェーンの国際化が進む中、
「サプライヤーから見たバイヤー」
「バイヤーから見たサプライヤー」
という双方の視座がかつてなく重要になっています。

高い在庫回転率(すなわち、余分な在庫を持たない・素早く売れる製品構成)は、
・取引信用力
・コスト競争力
・トラブル時の柔軟性
など、全ての面で大きなアドバンテージとなります。

アナログ業界でも「情報共有・可視化」が競争力に

最近では、工場BPR(業務改革)やDX(デジタル変革)の中で、
「サプライヤーとバイヤーが在庫情報をクラウドで共有する」
「週次ペースで動的な発注残高・消費ペースを見せ合う」
といった取り組みが増えています。

この流れに乗ることで、
「バイヤー側に信頼されるパートナーとしての地位向上」
「サプライヤーも自社の生産平準化と在庫圧縮に直結」
する好循環が生まれています。

まとめ:現場主義とデータ活用で描く、在庫管理の新たな地平線

在庫削減や納期管理は、単なる「コストカット」ではありません。

・現場データと肌感覚の両立
・日々変動する需要にしなやかに合わせる危機管理
・人の勘や習慣だけに頼らない“仕組み”作り

これを徹底することで、現場担当者も経営層も、サプライヤーもバイヤーも“本当の意味で納得できる”ビジネス体制が実現します。

製造業の新しい在庫管理の地平線、一歩踏み出してみませんか。

きっとあなたの現場でも、数字と現場感覚・人とシステムの融合で、想像以上の成果が得られるはずです。

(本記事が、現場で日々奮闘する全ての方の挑戦の一助となれば幸いです。)

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