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災害時に復旧計画を提示できないサプライヤー課題

目次
はじめに:災害とサプライヤーリスク
日本は自然災害の多い国です。
地震、台風、大雨、豪雪などさまざまなリスクが企業活動に影響しています。
とりわけ、製造業の現場ではサプライチェーン全体の強靭性が問われています。
現場の最前線に立ってきた身として、日々痛感するのは「サプライヤーから復旧計画(BCP:事業継続計画)が十分示されていない」という現実です。
これはバイヤーにとって大きな悩みであり、サプライヤー側でも“どうせウチは小規模だし…”という諦めや「現場の昔ながらのやり方を変えたくない」という意識が蔓延しています。
本記事では、災害リスクとサプライヤーのBCP(復旧計画)課題について、現場目線で徹底解説します。
日本の製造業を取り巻く災害リスクと現場実態
地政学リスクにさらされる国土
製造業の安全稼働に直結するリスクは、決して机上の空論ではありません。
阪神淡路大震災、東日本大震災、西日本豪雨、新潟中越地震、熊本地震……。
大手自動車メーカーの一次サプライヤーであっても、1つの工場のストップが数万台規模の生産遅延につながります。
こうした災害時、バイヤー(調達部門)はサプライヤーの即時対応力・復旧計画の提出を強く要求します。
サプライヤーが復旧計画を準備していなければ、「他の調達先を探す」という最悪のシナリオも招きかねません。
昭和時代の“なあなあ”文化が根強く残る現場
中小・下請けサプライヤーでは、いまだに「近隣同業者と協力しながら何とかする」「工場長判断で乗り切れる」といった昭和的思考が根付いています。
しかし、サプライヤーも働き手の高齢化が進み、属人的な現場対応力は限界です。
災害時に“何とかなるだろう”は通用しません。
今やバイヤー側もサプライヤーの「復旧シナリオ」「代替生産体制」「安全ストック量」まで詳細に求める時代に突入しています。
バイヤー(発注側)が求めるBCPの本質とは
なぜ復旧計画の提示が必須なのか
バイヤーがサプライヤーに復旧計画の明示を求める理由は、サプライチェーン全体を守るためです。
どれほどコストを下げていても、1箇所のサプライヤーが復旧対応できずラインが止まれば、市場全体の信頼や自社ブランドの価値も失墜します。
顧客(大手メーカー)は“最悪を想定して取引先を選別”する傾向が高まっています。
「災害時、どの程度早く復旧できそうなのか」
「非常時の連絡体制はどうなっているか」
「部品や原材料の他拠点生産や融通可否」
「現場、調達、経営層の情報連携プロセス」
これらを定量的に確認しようとするのが復旧計画の核心です。
BCPが無ければ取引の継続は困難に
大企業やグローバル企業では、「BCP未策定=調達先リストから除外」という厳しい対応も増えています。
特に“単一サプライヤー化”が進む現代において、BCPの重要性はかつてないほど高まっています。
いまや復旧計画の有無は自社の信用、未来の商談機会に直結する経営課題となっています。
サプライヤー側の主な課題
そもそもBCPのつくり方がわからない
多くの現場で耳にするのが
「そもそも何から手をつけたらよいのかわからない」
「BCPはお役所用語で現場にそぐわない」
という戸惑いの声です。
また、計画策定そのものが現場負荷となり、生産活動や品質管理と両立しにくい――という現実も無視できません。
古い業界習慣が足かせに
部品・部材や素材分野の中小サプライヤーでは、経営層・現場の双方が
「これまで取引先から強くBCPを求められたことはない」
と構えてしまいがちです。
アナログ管理や紙文化が抜けきらず、IT活用が遅れるため、復旧計画の情報整理や見える化も進みません。
問い合わせや計画提出にも思いのほか時間がかかり、バイヤーからの信頼度は下がってしまいます。
人的リソースと専門知識の欠如
BCPの策定には
「全社的なリスク洗い出し」
「復旧シナリオの具体化」
「在庫・仕入れネットワーク見直し」
など多くの部門を巻き込みます。
特に現場主体で業務を回している中小サプライヤーでは、「今いる人材・知見でそこまで手が回らない」と悩むケースが大半です。
現場目線で考える、サプライヤーの現実的な対策
まずは“最悪の事態”をイメージする
復旧計画策定への第一歩は、現場視点で“自社が最悪の状況に陥ったら”という想像力を膨らませることです。
例えば
「工場が冠水・倒壊したら?」
「主要マシンが全て停止したら?」
「主要メンバーの出社が見込めなくなったら?」
「取引先からの緊急入電に誰が対応するのか?」
実際の経験や過去のヒヤリハット事例などをもとに、現実的なシナリオを洗い出しましょう。
シンプルなフォーマットからでもよい
最初から100点満点のBCPを目指す必要はありません。
「どのフローが停止し、何日間でどこまで復旧できるか」
「代替ルート(近隣協力会社・同業者)があるか」
「緊急時の連絡責任者と手段」
これだけでも概要ベースでまとめてみましょう。
なるべくA4紙1枚程度の要点整理なら、現場も巻き込みやすく、バイヤーへの提出もしやすくなります。
業界団体や自治体のリソース活用
各都道府県・自治体、商工会議所、業界団体などにBCPテンプレートや専門アドバイザーが在籍しています。
無料で簡易診断や計画策定支援を受けられる場合も多く、「自力で策定するには限界がある」現場こそ積極的に相談する価値があります。
復旧計画は一度作って終わりでなく、定期的な見直し・従業員への周知が本来の役割です。
IT活用で“情報見える化”を加速
紙文化が根強い現場ですが、災害時こそ「誰がどこにいて、何が使えないのか」が即時に把握できる体制が生命線となります。
オンライン連絡網やクラウド型の在庫・工程管理システムを試験導入するだけでも、バイヤーからの信頼感は高まります。
また、復旧計画の各項目に分かりやすくリンク付けしておけば、災害発生時の意思疎通にも活用できます。
バイヤー側も変革が求められる時代
パートナーシップ型の関係構築
「サプライヤーから提出が無いなら切り捨てる」でなく、真のパートナーとして共に事前対策を講じる意識が現場では重要です。
そのためには
・現実的なBCP要件やフォーマットの例示
・計画内容へのフィードバック
・定期的な合同訓練やテスト
・非常時の協業体制づくり
など、サプライヤーに寄り添った支援も不可欠です。
BCP策定有無によらず“復旧可能性”で評価
一律の書面提出を求めるだけでなく、“現場力”“実際の復旧能力”を多面的に評価する姿勢が求められます。
たとえば現場見学やヒアリングで「小規模でも20名の緊急ネットワークを有する」など現実的対応力を認め、段階的な取引強化へつなげる道もあります。
まとめ:災害大国・日本の製造業に求められる“脱アナログ”改革
災害に備えた復旧計画(BCP)は、もはや大企業だけの課題ではありません。
中小・アナログ体質のサプライヤーでも、おおまかな自社シナリオと対応体制だけでも共有できれば、バイヤーからの信頼や未来の商談機会は大きく広がります。
大事なのは、昭和的な“なんとなく現場力”に甘んじるのでなく、バイヤーと共に「弱点」「優先すべき復旧シナリオ」を擦り合わせ、サプライチェーンの強靭化に取り組むことです。
ひとりひとりが一歩踏み出し“計画→対策→定着”を愚直に繰り返すことで、災害大国・日本の製造業はもっとたくましくなります。
そして、ものづくり現場を支えるすべての方々にとってBCPは“取らされる書類”ではなく、“自分たちの未来を守る武器”となるはずです。
ぜひ今日からできる一歩を踏み出してみてください。
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