投稿日:2025年9月2日

インコタームズの見直しで保険と通関と配送料を再配分する契約

はじめに:加速するグローバル化と昭和的慣習の狭間で

社会とビジネスのグローバル化が一層進展する中、日本の製造業界は未だに昭和時代から続くアナログな慣習や商習慣にとらわれている場面が多くあります。
中でも調達購買の現場では「うちの会社はCIFが当たり前」「EXWでしか仕入れたことがない」「通関はプロ(輸出入仲介業者)に一任」というような固定観念に支配されがちです。

しかし、世界的なサプライチェーン混乱やコスト高騰、リスク分散、さらにはSDGsやサステナブル調達など、新たなテーマが浮上する現代においては、これまでの定型的なインコタームズ(貿易条件)の使い方を見直し、保険・通関・配送料などのコスト配分を柔軟かつ戦略的に調整する必要に迫られています。
本記事では、製造現場の実経験・視点をベースに、インコタームズを「現代的に使いこなす」ためのポイントや実践的な契約再設計の考え方を易しく解説します。

インコタームズとは:バイヤーもサプライヤーも知っておくべき必須知識

そもそもインコタームズとは何か?

インコタームズ(Incoterms、国際商業会議所が策定)は、国際商取引における「売り手と買い手の責任範囲」を明確に定めるルールセットです。
具体的には「商品のどこまでを売り手が面倒を見るか、どこからは買い手側の責任になるか」を細かく分けて規定しています。

代表的な用語としては、EXW(工場渡し)、FOB(本船渡し)、CFR/CIF(運賃だけ/運賃+保険料込み本船渡し)、DAP(仕向地持込渡し)、DDP(関税込持込渡し)などがあります。

なぜ日本の製造業はインコタームズを固定観念で捉えやすいのか

長年にわたり商慣習として「商社が仕切る」「取引先おまかせ」などのスタンスが根強く、リスクの所在やコスト構造を深く考える機会が少ないまま「この条件で決まっているから」と慣習的に使う場面が多いのが実情です。
一方、グローバル化が進展すると、現地の事情や物流インフラの違い、為替や関税、ストライキなど予測不能な事態によって「誰がどこのリスクを担保するのが合理的か」が大きく変動しやすくなっています。

インコタームズ見直しのタイミング:なぜ今がチャンスなのか?

世界情勢の激動がリスク配分に直結する時代へ

・新型コロナウイルスやウクライナ紛争など地政学リスクの拡大
・燃料費や海上運賃の高騰による物流コストの増大
・コンテナ不足や輸送遅延など物流の不確実性
・各国の通関規制やSDGs配慮の強化

こうした外部環境の変化が、従来型インコタームズに基づくリスク配分の限界をあぶり出しています。
言い換えれば、「最適なコスト分担・リスク分散を再設計する絶好のチャンス」ともいえるのです。

これからはインコタームズを“カスタマイズ”する時代

売り手・買い手双方の交渉力、事業の戦略性、納期や在庫方針、物流・保険体制などに応じて、保険や通関・配送料を「誰が持つか」を柔軟に再配分することが競争優位に直結します。
さらに、日本の“昭和マインド”から脱却し、コントロールすべきコストとリスクをしっかり見極めることこそ、バイヤー・サプライヤー双方の利益最大化につながります。

保険・通関・配送料の再配分で得られるメリット

1. コスト構造の見える化・最適化

従来は「すべて込(CIFなど)」でお願いしていたコストを、あえて分割請求(FOB+海上運賃+保険+通関)化することで、「どこにどんなコストがかかっているか」が明瞭になります。
バイヤーとしては、安価な保険を自前で調達したり、現地側の融通がきく物流会社と直接契約したりと、柔軟なコストコントロールが可能になります。

2. サプライチェーンのリスク分散

輸送途上のリスクや通関遅延、自然災害、政治的トラブルなどに対し、「リスクをどちらが主体的に管理した方が損失を最小化できるか」を設計できます。
例えば、サプライヤー側が経験・コネクション豊富なら通関リスクまで任せる、逆にバイヤー側が現地事情に詳しければ通関以降をバイヤー主導に切り替えるなど、合理的なリスク配分が実現できます。

3. 契約交渉力の強化・競争力アップ

インコタームズの再配分提案は、単なる「コスト削減」だけでなく、「積極的に自社に有利な条件を取りに行く」ための第一歩です。
競合バイヤーが標準契約でしか交渉していない部分で、「うちならこの条件でコストも納期リスクも最適化できます」と差別化できます。

実践事例:インコタームズの再配分はこうやって進める

事例1:バイヤー主導で配送料と保険を最適化したケース

ある自動車部品メーカーでは、従来CIF(運賃・保険込み)で部品を仕入れていました。
しかし近年の海上保険料値上げで「契約時の保険コストがバイヤーに不明瞭」「現状に合っていない保険内容になりやすい」という課題が浮き彫りになりました。

そこで、FOB(運賃・保険抜き)契約に変更し、バイヤーが信頼できる海上保険会社と直接交渉。
運送会社も現地日系物流業者を起用することで、トータルコストは下がり、保険内容のアップグレードも実現しました。
リスク分散とコスト削減を同時に実現した好例と言えます。

事例2:サプライヤー主導で通関業務まで担わせることで遅延ゼロ

ラテンアメリカの電機部品メーカーとの取引で、バイヤーがEXW(工場渡し)を基本にしていましたが、現地港の通関プロセスが煩雑で遅延リスクが高いという問題がありました。
現地サプライヤーは通関ルートと経験が豊富であったため、DDP(関税込み持込渡し)へ切り替え、サプライヤー責任で通関から納入まで一括してもらう方式に変更。
これにより納期遅延が解消され、在庫圧縮と生産計画の精度向上に大きく寄与しました。

バイヤー(調達担当者)が押さえるべきインコタームズの再配分ポイント

1. 「誰が得意で、何を調整すべきか」を現場レベルで洗い出す

・自社が物流・保険・通関のどこに強みを持つか
・サプライヤーが通関や輸送インフラをどう扱っているか
この棚卸しが再配分交渉の全ての基礎です。

2. 「最悪の事態」が起きたときのリスク・責任の所在をチェック

・輸送途上で事故や遅延…誰がどこまで責任を負うか
・追加コストや損失補填の負担者はどちらか
事前に欠陥明確化しておくことで、紛争発生時の混乱や損失拡大を防ぐことができます。

3. 契約内容の明文化・合意形成を徹底する

再配分の自由度が高まる分、「口頭での行き違い」がトラブルの温床になりやすいため、契約書・発注書への明記・合意のプロセスを抜かりなく進めましょう。

サプライヤーが知るべきバイヤー視点のインコタームズ交渉術

「全部込み」ではなく「付加価値」で単価アップ提案を

バイヤーがコストダウン交渉を仕掛けてくる中、サプライヤー側も「保険・通関・配送料はおまかせ」一辺倒ではなく、「当社なら現地通関も迅速」「特別ルートで納期短縮」など、付加価値サービスを明確に示すことで単価防衛・値上げ交渉がやりやすくなります。
「何ができて何が他社と違う強みなのか」をインコタームズの観点から棚卸しましょう。

損得だけでなく、中長期視点のリスクヘッジも一緒に提案

例えば、世界的な物流混乱時には「当社責任で納入するので安定調達できます」といった中長期的メリットを追加し、コスト以外の価値観でバイヤーを説得することも大切です。

まとめ:インコタームズ見直しは昭和からの脱却と次世代競争力の鍵

インコタームズを「教科書通り」で使い続ける時代は終わりを迎え、いまや売買双方がコスト・リスク・競争力の最適化を目指すため「戦略的に活用・交渉・カスタマイズする」ことが必要不可欠となっています。

現場や実務担当者こそ、インコタームズの細部に積極的に踏み込み、保険・通関・配送料といった各コストの意思決定権を自社に引き寄せていくこと――。
それが、これからの製造業バイヤー・サプライヤーの「一歩先を行く競争力」を生み出す最大の武器となります。
自社の強み・弱みを現場レベルで分析し、昭和的慣習から脱却する取組みをぜひ始めましょう。

補足ですが、ISO規格や米中貿易摩擦など世界動向もキャッチアップしながら、「グローバル最適」のインコタームズ再配分を継続的に模索する視野の広さが今後の切り札です。
本記事が皆さまの現場での新たなアイデア・提案の一助となれば幸いです。

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