投稿日:2025年9月3日

需要の読み違いで発生する消耗品の廃棄ロスを防ぐ仕組みづくり

はじめに ― 製造業における消耗品廃棄ロスという問題

製造業の現場で絶えることのない課題の一つが「消耗品の廃棄ロス」です。
ネジやOリング、グリス、パッキン、フィルターなど、生産過程に必要な数多の消耗品は日々消費されますが、実際には「多すぎた発注」や「不要な在庫の山」が頻繁に発生しています。
特に昭和から続くアナログな体質の工場では、需要予測の精度が低く、使用期限切れや経年劣化による廃棄が後を絶ちません。
この問題は単なるコスト増に留まらず、省資源といった視点やカーボンニュートラルへの流れにも逆行しています。

本記事では、現場目線で消耗品の廃棄ロスがなぜ起こるのか、その背景から、本質的な解決に向けてどのような仕組みづくりが必要かを掘り下げて解説します。
また、バイヤーを目指す方やサプライヤーとして顧客(バイヤー)の悩みを知りたい方にも、役立つ着眼点をご紹介します。

現場で起きている需要の読み違いのリアル

“経験と勘”に頼った発注の限界

多くの工場では、現場担当者の「去年もこれくらい使った」「万が一を考えて少し多めに」など、属人的な判断に基づき発注量が決められてきました。
中には“余るくらいなら安心”という意識が根付いており、毎年在庫が積み上がる企業も珍しくありません。

こういった背景には、システムによる需要予測の導入が進まない、あるいは「現場作業が忙しいから細かい在庫管理は後回し」という風土も根深く存在しています。
また、数十年前に比べて部品の寿命が延びても、現場では“昔の感覚”のまま予備品を発注してしまうケースも多いのです。

需要の“揺れ”と消耗品リードタイムのアンバランス

生産ラインは計画どおりに稼働することの方が珍しく、納期の変更や設計変更、急なライン停止などの“揺れ”が常に発生します。
そのため消耗品の消費も大きく変動しますが、調達リードタイムが長い部品の場合、早め早めの多め発注がクセになり“無駄な在庫”が発生します。

月末が近づくと“今月の消耗品消費数を急いで確定しろ”と現場から声が上がり、帳尻合わせの発注が繰り返されることで、さらにロスは蓄積していきます。

廃棄という“見えにくい損失” ― 経済的・社会的インパクト

消耗品ロスの本当のコスト

消耗品コストは一般的に原材料費や人件費に比べれば小さい存在ですが、製造現場の隅々まで目を向けると、ロスの積み重ねは年々大きな金額を生んでいます。
例えば、年間100万円の消耗品コストが10%無駄になれば10万円の損失です。
10工場、10年とスケールすれば、1,000万円以上が“捨てられて”いる計算になります。

加えて、廃棄物の処理コストや、廃棄の手続きにかかる現場内の手間も無視できません。
特に化学薬品やオイル類など環境負荷の高い廃棄物の場合は、ESGやSDGsの観点からも企業価値を低下させかねません。

人・組織・社会への影響

現場で“在庫ロスは仕方がないもの”とされる企業文化が続けば、改善への意識は芽生えません。
人材の育成や組織の成長、サプライヤーとの信頼関係にも悪影響を与えます。
また、近年は顧客や社会から“サステナビリティ対応”が強く求められる時代です。
無駄な在庫や廃棄は、企業イメージやサプライヤーの選定に直結する重要な課題へと変化しています。

需要を正しく“読む”ための実践的アプローチ

1. データによる需要の“見える化”

まず着手すべきは、消耗品の出入りと消費実績の可視化です。
エクセルなどシンプルな管理表でも構いません。
「何を」「いつ」「どれだけ使ったか」を月単位、ライン単位、設備単位で記録します。
この作業の中で、想定通り使われていないロットや、毎回発注が余剰に終わっている消耗品が明るみに出るでしょう。

可能であれば現場でバーコード管理や簡易な電子棚札を導入し、棚から出した瞬間に消費記録できる仕組みを作ると理想的です。
重要なのは、“見たり書いたりするだけ”で集計ができるよう形式を統一し、誰でも簡単に運用できるようにすることです。

2. 小ロット・高頻度発注への転換

「いっぱい一度に頼んだ方が安い」「運賃がもったいない」と一回のオーダーで大量購入しがちですが、廃棄ロスがコストを上回る場合は、サプライヤーと交渉して小ロット・高頻度発注へ切り替えましょう。
近年は物流のデジタル化も進み、最適ロットの見直しに柔軟に応じてくれる協力会社も増えています。

小まめに発注することで使用状況の変化にも追従しやすくなり、在庫を肥大化させずに済みます。
また、調達データのトレース性向上や納期短縮にもつながります。

3. バイヤーとサプライヤーが“情報”をシェアする

バイヤー(調達担当)はサプライヤーと“実際の消費データ”や“計画変更”の情報を早めに共有しましょう。
一方、サプライヤー側も、過去の納品傾向や他社工場での需要事例から適正在庫や最適なパッケージング提案を行うことで、Win-Winの関係が築けます。

また、余剰在庫になりそうな新品消耗品を再利用できる仕組みや共同購入・横持ちサービスを整備できれば、グループ工場全体で廃棄圧縮を目指せる可能性さえもあります。

アナログ現場で強く根付く「ムダ」の背景と打破のヒント

“仕方がない文化”を壊すには管理職の意識改革から

製造業では“何十年もこれでやってきた”という本音と、“手間は増やしたくない”という現場の事情が足かせになりがちです。
変革の一歩はまず、工場長や調達部門長など管理職が「このままでいいのか?」と自問自答し、現場の課題“見える化”を旗振りすることです。

経営陣には「捨てる在庫分のお金があれば、新たな設備や人材育成へ回せる」など、具体的なメリットを数字で伝え、現場には“今の業務を楽にする仕組み”であることを丁寧に説明しましょう。

現場の声をヒアリング、改善策のアイデアを募る

消耗品の余剰や廃棄ロスは、実は現場作業者が日常的に“不満”を持っている部分でもあります。
“あの部品、いつも余ってもったいない”“使いにくいセットでしか届かない”といったリアルな声を吸い上げることで、改善へのヒントを得られるはずです。
その際、「言ったことがすぐ反映されるしくみ」と「誰も責任を問わない雰囲気づくり」が大切になります。

現場実践からの“気づき”と今後の展望

見落としがちな“棚卸し”の重要性

棚卸しは一見手間のかかる作業ですが、“使っていない消耗品”を事実として洗い出す絶好の機会です。
「〇〇年前にまとめ買いしたまま手付かず」「使わなくなった設備専用のパーツが山積み」といった気づきから、発注ルールや設備引退時の在庫処分ルールの見直しにつながることも多々あります。

新たな視点 ― “環境価値”と廃棄ロス削減

今後は単なるコスト削減だけでなく、廃棄ロス削減を「環境に配慮した企業経営の証明」として活用する企業が増えるでしょう。
省資源やカーボンニュートラルの視点で、消耗品のリサイクルやリユースの仕組みづくり、環境配慮型パッケージへの転換もバイヤーの“選択条件”になっていきます。
取引先選定の評価ポイントに“廃棄物削減努力”を加える動きも強まっています。

まとめ ― 需要予測精度アップこそが廃棄ロス対策の近道

消耗品の廃棄ロス問題は古くて新しい、製造業ならではの根深いテーマです。
しかし今こそ、データの力、現場とバイヤー・サプライヤーの情報共有、そして“ムダは悪”という意識転換によって、抜本的に見直せる時代となりました。

需要予測を「現場や管理職の感覚」から「データ主導」へ進化させ、業界全体が環境負荷も意識したサプライチェーンへと成長していくことが、製造業の未来にとって不可欠です。
廃棄ロスを減らす取り組みはコスト削減に留まらず、企業価値そのものを押し上げる投資へと変わっていくでしょう。

今日からできる棚卸し・見える化・サプライヤーとの対話から、ぜひ第一歩を踏み出してみてください。

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