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顧客クレーム対応に必要なデータを開示しないサプライヤー問題

目次
はじめに:製造業現場に根強く残る“壁”
製造業の現場では、数十年前からのやり方が色濃く残っている部分が少なくありません。
特に調達購買や品質管理の領域では、未だにアナログな仕組みが主流の現場も多く存在します。
その象徴ともいえるのが、顧客クレーム発生時における「データや情報の非開示」です。
本記事では、なぜ多くのサプライヤーが顧客からの正当な問い合わせに対して、自社内に存在する品質関連データや製造履歴を積極的に開示しないのか。
その背景と業界構造、そして解決策について、現場目線・実体験を交えて深掘りします。
なぜサプライヤーは必要なデータを開示しないのか
情報開示の重要性と、サプライヤーの躊躇
顧客クレーム、いわゆる品質不具合が生じた際、根本原因の究明と対策が最重要となります。
しかし、そのためには工程履歴や管理記録、使用原料ロット情報など詳細データの即時開示が不可欠です。
ところが、多くのサプライヤーでは下記の理由で開示をためらう傾向があります。
- 過去の慣習(情報は“内密”が当たり前だった)
- 自社の品質管理能力やミスが露呈するリスクへの恐怖
- データが正しく管理・保存されていない“恥”を見せたくない心理
- 開示した情報が二次クレーム、取引停止、損害賠償に発展する懸念
- 自社の製造ノウハウやプロセス流出への警戒感
特に中小規模のアナログ志向の強いサプライヤーほど、こうした心理的ハードルが高いのが現状です。
データを開示しないことで失っているもの
「開示したくない」気持ちが勝って、必要なデータを出し渋ると何が起きるのでしょうか。
- 顧客の信頼失墜
- 納期遅延(原因調査が遅れ、現場復旧も遅れる)
- 不具合の再発
- ビジネスチャンスの喪失(他社へのリプレース・取引縮小)
特に昨今はサプライチェーン全体で品質保証を強化する時代。
「隠し事」は、大手バイヤー(発注側メーカー)にとって致命的なリスクと映ります。
一回限りのトラブルであっても、データを迅速に開示し、事実を誠実に伝える。
その姿勢が取引継続の鍵となるのです。
昭和の悪しき“閉鎖性”、その源流とは
なぜ業界は“閉じた”ままなのか
昭和の時代、多くの日本企業では「下請けは上様に逆らえない」「余計なことは言わない・出さない」という体質がのさばっていました。
そのため“情報開示=自社の弱点をさらす行為”として、サプライヤーは極力閉じた姿勢を貫いてきました。
また、当時はITが未成熟で記録保存も紙ベース。
そもそも「データ・記録をすぐに取り出せる」仕組みすらなかったのです。
このような背景から、「困ったらまず黙る」「指摘されたら出せる範囲で最低限だけ出す」という処世術が長年受け継がれてきました。
時代が変わり、世界が変わった
しかし、21世紀を迎えグローバル化やデジタル化が進み、製造業の潮流は一変しました。
海外ではサプライヤーマネジメントシステム(SMS)、トレーサビリティ法規制などにより、「データ即時開示・双方向コミュニケーション」が常識になりつつあります。
国内でも自動車・電機・医療機器などの大手メーカーは、サプライヤーに「透明性」「データ即応」をより強く求め始めています。
「会社の身を守るためにデータを隠す」時代は、もはや昭和どころか“平成”ですら通用しなくなっているのです。
現場で実際に起きた典型的なトラブル事例
品質クレーム、迅速な開示の有無で明暗分かれる
例えば、私が工場長を務めていた時の話です。
取引先から「御社の納入品で異物混入が発生」と連絡を受けたことがありました。
即日で「どのロット、いつ、どのライン、どの原料を使用したか」の全履歴データを提出すると、先方企業の品質保証部長はこう言ってくれました。
「これだけ早く詳細データが出せるサプライヤーは少ない。今後も絶対に取引を継続したい」
一方、別の取引先では、同じような品質トラブルなのに当該ロットの製造記録が全く提出されませんでした。
数日後、当該サプライヤーのものはブラックリスト入り。
受注の大半が他社に切り替えられてしまいました。
この結果からも、サプライヤーにとって重要なのは“完璧な品質”よりも、“トラブル時の誠実な情報開示”なのです。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる意識変革
バイヤー:サプライヤー管理の徹底と共存への理解
調達購買の現場でバイヤーがまずやるべきこと。
それは、サプライヤーへ「隠すより開示した方が、あなたのリスクも最小化できる」ことを伝え続けることです。
例えば、
- 重大な事故や訴訟を防ぐための“Win-Win”意識の共有
- 開示した内容に不当な罰則は与えず、ポジティブな評価を実施
- サプライヤー教育(品質・トレーサビリティについての研修や対話促進)
このように「敵」ではなく「一緒により良くしよう」という姿勢が、サプライヤー側の安心感・協力意欲を引き出します。
サプライヤー:内部改革と現場デジタル化の推進
サプライヤーがまず取り組むべきことは、「まず出せるデータを持つ」ことです。
そのためには、品質記録・製造日報・設備点検記録などの
電子化・クラウド保存や定型フォーマット化が重要です。
現場でありがちな「誰々だけが知っている」「ノートに殴り書き」は最も危険です。
万が一クレームが発生しても、“数分でパソコンから履歴を出せる”体制を作っておくこと。
これは顧客からの信頼獲得だけでなく、自社を守る保険にもなります。
サプライヤーの選別基準:これからの時代の“勝ち残り”とは
サプライヤーに求められる新たな評価基準
従来の「品質・納期・コスト」の三大要素に加え、今や「トレーサビリティ(追跡性)」や「データ開示力」が最重要視されています。
欧米ではサプライヤーランク制度の中に「情報開示スコア」の項目が設けられる例も増えています。
国内メーカーでも、部品・製品ごとに「どこから、何を、どうやって調達し、何がどう加工されたか」をリアルタイムで開示できるかが、評価基準の一つになっています。
差別化ポイントは“開く勇気”
逆説的ですが、「ミスのない会社」よりも「ミスを隠さず、すぐに開示・改善できる会社」が今後の日本のモノづくり現場では選ばれる時代になっていきます。
“いい会社”とは、問題発生時に「わが社のプロセスはここまで見せられます」と言い切れる会社です。
製造現場のデジタル化、記録の標準化、現場従業員への情報共有文化。
この三位一体の“進化”こそが、サプライヤーとして生き残る切符となるでしょう。
まとめ:昭和型サプライヤーから、データドリブン型サプライヤーへ
アナログな業界体質に染まったサプライヤーが、顧客クレーム時にデータを開示しない問題は、未だに日本の製造業の根底に存在しています。
しかし、時代は確実に変わりつつあります。
“閉鎖”ではなく“開示”を当たり前に。
バイヤーとサプライヤーが本当の意味で“パートナー”となれる製造業の未来を――
現場目線で、一歩ずつ創っていきたいものです。
これからの製造業に関わる全ての方へ、「開く勇気」が最大の武器となることを、ぜひ忘れないでください。
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