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港湾スト・税関スト時の代替港・内陸通関スキームを即時組む手順

目次
はじめに ― 製造業におけるサプライチェーンリスクの現実
製造業に携わる皆様にとって、物流の混乱は決して他人事ではありません。
特に近年は港湾ストライキや税関職員のストライキが報道される機会が増え、サプライチェーンへの影響が極めて顕著になってきました。
部品や原材料の遅延は、即座に生産ライン停止や納期遅延へと直結します。
本記事では、港湾スト・税関スト発生時に、どのように「代替港」や「内陸通関スキーム」を即時に組み立てるか、製造業現場目線で徹底的に解説します。
なお、この記事はバイヤー(購買担当)、調達部門の方はもちろんですが、自社がサプライヤーの立場であってもバイヤー側の思考やニーズを理解し、競争力を増すヒントとなる内容です。
現状整理 ― 港湾・税関ストの本質的リスクを理解する
なぜ港湾・税関ストがサプライチェーンに深刻な影響を与えるのか
日本の製造業の多くは長らく、標準化された「港湾から港湾への物流フロー」、「主要港での通関・輸送」というプロセスを前提にサプライチェーン構築してきました。
しかし、港湾や税関がストップすると、貨物の荷揚げ自体が行えず、また輸出入許可も下りないため、物理的な荷動きが完全に停止します。
さらに、臨時対応は「港湾局・港運事業者・税関側の迅速な正常化作業が前提」となっており、現実には復旧まで数日~数週間かかることもあります。
その間、代替策を講じなければ、物流のボトルネックによって甚大な損失を被るリスクが高まります。
コスト・納期優先の“昭和モデル”の限界
日本の多くの産業は、依然として「現状維持=コスト最小化」が最善という考えに縛られています。
港が止まれば、復旧を“じっと待つ”しかない――そうした昭和的な対応では、サプライチェーン全体に与える影響を最小限にすることはもはや困難です。
輸送のリダンダンシー(冗長性)や即時機動力によって、“攻めのBCP(事業継続計画)”の必要性に迫られています。
代替港・内陸通関の即時切り替えが肝要な理由
製造業現場で起こりうる具体的な影響
港が止まれば、翌日に部品が入らない。
部品が入らなければ、その日の生産が止まる。
生産が遅れれば、納期遅延や顧客からのペナルティによる信用損失――。
特に自動車や精密機械、電子部品など、「JIT(ジャストインタイム)」生産を採用する企業では、時間的な猶予がほとんどありません。
サプライヤーにとっても、「今、港湾がストでも動く港に送ってよ」とのオーダーが出た場合、即座に代替案を提示できるか否かで受注の継続に大きな差が生じます。
「予備ルート」は“事後”ではなく“即時”が勝負
従来は事後的に「止まった港の荷物を振り替える」という発想が主流でしたが、ストの発生後に動き始めていては、他社・他工場に先を越されます。
重要なのは「リスク発生と同時に、細かい物流ルートの切り替え」を迅速に実行できる準備や手順が社内に埋め込まれているか、です。
代替港・内陸通関スキームを即時構築する具体的手順
1. サプライチェーン全体構造の棚卸し
まずは、自社の輸入・輸出貨物が「どの港経由」「どの品目」「どのサイズ/重量」「どのリードタイム」で動いているかを可視化しましょう。
現場の生産管理・調達担当者とともに「もし主要港湾・税関が止まった場合、どの到着貨物が業務にどう影響するか」を洗い出します。
港湾単位ではなく、貨物ごと・仕入れ先ごとのフローが非常に重要です。
2. 代替港リストアップと実運用性の確認
主要港湾(たとえば東京港、名古屋港、神戸港、横浜港)が使えない場合、どの港にどの程度“現実的な振替余地”があるか、事前にリストアップします。
例:東京港がストップ → 横浜港や千葉港を活用
輸送距離や港湾での取り扱いキャパ、税関対応、トラック手配の現実性(特車の許可可否や繁忙期の運送手配)も事前に調査しておきます。
重要なのは、「リストアップしただけで満足しないこと」。
各代替港の“現場ベースでの疑似シミュレーション”を、実際に社内でロールプレイングしておくことが不可欠です。
3. 内陸通関(インランドデポ・ボンド保税倉庫)スキームの準備
もし沿岸部の港湾税関が完全機能停止した場合、「一時的な保税機能」として内陸地のインランドデポやボンド倉庫を活用する手法が有効です。
全国には「保税運送制度」を利用して、港湾から内陸に設置された保税倉庫・物流センターで通関・引き取りが可能な仕組みがあります。
主要な内陸通関拠点例:成田空港近辺(成田ICD)、名古屋市港区コンテナデポ、関西ICD など
これらのスキームについて、物流会社・通関業者・倉庫会社と事前に打ち合わせし「どのライン・貨物なら、どういうフローで即時移行可能か」まで具体策を決めておきます。
4. 運送会社・通関業者との緊急ルート確保契約
いざという時に「トラックや内陸輸送車両が確保できない」「通常ルートが従来優先される」といったことにならないよう、運送会社やフォワーダーと『緊急時の優先手配契約』や『臨時契約プラン』を事前に結んでおくことが大切です。
また、通関業者にも「臨機応変な通関先変更や書類電子化対応」を依頼し、BCP対応体制を構築してください。
5. 社内・グループ内リアルタイム情報共有体制の確立
現場購買、生産管理、物流、IT、経営層が“同時並行”で状況把握・判断できる情報共有チャネル(例:グループウェアでの緊急ルーム設置、チャットツール運用)を強化しましょう。
“アナログ業務が根付く製造業”ほど連絡がFAXや電話に頼りがちですが、緊急時こそデジタルツールでの情報即時共有が有効です。
6. サプライヤー・顧客とのBCPスキーム相互認識の徹底
自社だけが動けても、サプライヤーや最終顧客が「そんなこと急に言われても…」と対応不能では意味がありません。
定期的に「緊急時の物流切り替え打診」や「代替案受け入れ可否」「連絡・意思決定の権限者確認」といったBCP演習を合同で実施し、相互に即時対応できる関係性を醸成してください。
昭和型業界が「変われない理由」と突破策
なぜ業界は柔軟になれないのか?
多くの製造業は属人的ノウハウ、慣例重視、現場への裁量不足、取引先との上下関係等――「変化を嫌う空気」が根強く残っています。
特に港湾や通関業務は、“あの人でないと動かない”“先例がないとNG”というケースが多く、現場では変革が進みにくい傾向があります。
現場から始める脱・昭和の突破策
まずは現場リーダーや購買・生産管理担当が「臨機応変な判断・決断」「現場同士のつながり強化」を担ってください。
要点は――
– 上層部承認○日待ちNG、現場裁量で即対応可なルール制定
– 自分たちで物流業者・通関業者・港湾事業者と横断的につながる
– BCPの机上論で満足せず「現場でロールプレイ&実践訓練」
– 保守的サプライヤーや顧客も巻き込む“実務型協議体”の創設
です。
まとめ ― モノづくり復権への「ラテラルシンキング」
これから日本の製造業は、脆弱なサプライチェーンでは生き残れません。
港湾スト・税関ストは、必ずまた起きます。
現場主導で「常に複数の物流ルート・内陸通関スキームを持ち、その切り替えを即時実行する」ことは、もはや競争力維持の大前提です。
昭和的思考に留まらず、次の時代を拓く「横断的思考(ラテラルシンキング)」「現場主義」「スピード重視」で、モノづくりの基盤をさらに強化していきましょう。
製造現場・バイヤー・サプライヤーの皆様が、それぞれの知恵・経験を持ち寄ることで、日本のものづくりが再び世界に誇る地位を手にすることができると、私は信じています。
今こそ、現場発の変革を――。
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