投稿日:2025年9月8日

属人マクロを業務フローに置換する段階的リファクタリング戦略

はじめに:属人マクロと製造業の現実

製造業の現場において、「あの人にしか使いこなせないマクロ」や「前任者が作った謎のエクセルファイル」が数多く存在します。

これらの属人化したマクロは、日々の業務の効率化に大きな貢献をしてきた一方で、担当者の退職や異動、環境の変化によりブラックボックス化し、大きなリスクに転じることも少なくありません。

昭和時代から続くアナログ文化が残る製造業では、こうした属人マクロが根強く現場に根付いており、業務改革やDXの推進を大きく妨げる要因となっています。

そこで本記事では、長年現場で培った知見を活かし、属人マクロをプログラムから「業務フロー」という形に段階的にリファクタリング(再構築)するための戦略をご提案します。

なぜ属人マクロが生まれるのか?

現場の小さな課題解決から始まるマクロ化

マクロとは、本来は繰り返し作業を自動化するための便利なツールです。

多くの場合、現場スタッフが「この作業、毎回面倒だな」と感じたときに、自身の作業環境やノウハウに合わせて作られることから始まります。

そのため、作成者固有の思考ロジックや業務理解がそのまま反映されやすく、第三者にはわかりにくい「属人マクロ」が出来上がります。

アナログ文化の影

もう一つの要因として、紙や口伝による業務伝達が今なお当たり前のように残っている現場文化が挙げられます。

最新のITシステム導入より、エクセルやマクロといった「慣れ親しんだ道具」に頼る傾向が強いため、個人ベースでの工夫が積み重なりやすいのです。

属人マクロがもたらすリスク

ブラックボックス化による業務停滞

最も大きなリスクは、作成・管理できる人しか全体を把握できないブラックボックス化です。

担当者の急な退職や異動、病気によって「誰も使えなくなった」「修正ができなくなった」というケースは決して珍しくありません。

ミスや不具合の温床に

属人マクロは設計思想やドキュメントが乏しいことが多く、ちょっとした業務フロー変更や異常系のデータ対応に弱い傾向があります。

また、根本原因が追及しづらいため、ミスや品質不良を引き起こす火種になりかねません。

DX・自動化推進の壁に

本格的なシステム導入や業務全体の自動化を検討する際に、「現場のキーパーソンがマクロ使い」という状況は、プロジェクト推進の大きな障壁となります。

属人化のたびに個別対応やヒアリングが必要となり、工数やコストが膨れあがるリスクをはらんでいます。

属人マクロから業務フローへのリファクタリング戦略

それでは、こうした属人マクロをどのように「属人性のない業務フロー」に再構築していけばよいのでしょうか。

ここからは、実践的なリファクタリングプロセスを段階的に解説します。

1. 現状把握:属人マクロの実態調査と可視化

まずは、現場でどのようなマクロが使われているか、どの業務に組み込まれているかを棚卸ししましょう。

ポイントは、「誰が/どこで/何の目的で/どれだけ使っているか」をリスト化することです。

現場インタビューや業務フロー図との照合を通じて、ブラックボックスとなっているマクロも洗い出します。

2. マクロ利用の目的と本質を見極める

次のステップは、属人マクロが現場のどんな課題を解決してきたのか、その本質に迫ることです。

たとえば
– データ収集の集計
– 異常値の検出
– リストの自動整形
など、マクロの「目的」を明確化します。

現場担当者に「なぜこの動きなのか」「どんなとき不便か」と深掘りすることが、後の業務標準化に極めて重要です。

3. ドキュメント化・業務フローの見える化

属人マクロの「使い方」「アルゴリズム」「前提条件」など、仕様情報を徹底的にドキュメント化します。

この段階で、各プロセスを「業務フローチャート」という形で誰もが読める形に落とし込むことがリファクタリングの第一歩です。

現場でのマクロ実行手順や判断基準を網羅的に言語化・図式化し、共通言語にしましょう。

4. 段階的なリファクタリング計画の策定

一気に属人マクロを廃止するのは危険です。

まずはドキュメント化・可視化した情報をもとに、以下のステップで段階的なリファクタリングシナリオを設計しましょう。

1. 手順を標準化し、誰でも操作できるようにする
2. マクロを修正・簡素化し、属人性を低減する
3. より汎用的なシステム(RPA・ノーコードツール・ERP)に置換する計画を立案する
4. 新システム運用後も一定期間は旧マクロ併用でリスク緩和する

5. 小さな成功・現場巻き込み型アプローチ

属人マクロ改革は現場の納得が極めて重要です。

「小さな成功事例」を重ねながら、現場の意見を尊重しつつ、現状維持バイアスを超える動機付けを行いましょう。

例えば、業務フローの一部だけをまずRPA化し、「こんなに楽になった」という利用者の声を可視化・共有します。

現場での地道な説明会開催、フィードバック会議を重ね、属人技術から「みんなで使う業務資産」に意識変革を促進します。

バイヤー・サプライヤー双方から見た属人マクロの影響

バイヤー(調達担当者)視点

製造業のバイヤーは、調達情報やサプライヤーとの交渉履歴、納期管理、原価対比といったデータをしばしば個人マクロで管理しています。

こうした情報は本来組織の財産ですが、担当者しか使えないマクロ形式だと異動や応援体制時の引継ぎが極めて困難です。

属人マクロをリファクタリングし、組織全体で一元管理できる環境に置換することで、調達業務の効率性・透明性・コンプライアンス対応力が飛躍的に向上します。

サプライヤー視点:信頼構築と取引拡大のカギ

サプライヤー側から見ても、属人マクロによる品質データ管理や出荷判定などが多い工場は、取引上の信頼性が疑問視される傾向があります。

また、マクロ担当者がいないとデータ証跡やトレーサビリティ対応ができず、取引先拡大や国際認証への対応で足かせになることがあります。

業務フロー型の標準化・電子化に取り組むことで、「安定供給・品質保証」が保証できるサプライヤーとしての評価を高めることができます。

具体例:段階的リファクタリングの現場実践

ここで、筆者が実際に経験した段階的リファクタリング事例をご紹介します。

事例1:エクセルマクロで管理していた購買リストの標準化

ある電機メーカーの調達部門では、担当者ごとにフォームやマクロの仕様が微妙に異なっていました。

リファクタリングプロセスとして、
– すべての購買リストマクロの仕様・項目・異常系処理を洗い出し
– 共通の業務ルール・手順にドキュメント置換
– 影響範囲の広い使い方のみRPA化し、移行期間を設けて運用

こうした段階的移行により、「誰でも同じ操作で購買情報を管理できる」状態が達成できました。

事例2:属人マクロ依存の品質管理から工場全体標準化へ

生産現場でQC工程表管理に用いていた複雑な属人マクロを、
– 入力データと出力仕様を可視化
– マクロでチェックしていた不具合パターンを業務フローチャート化
– 最終的に工場標準の品質管理システムへ段階的に統合

引継ぎや教育コスト・工場監査対応を大幅に効率化することに成功しました。

今後の製造業界動向と最新トレンド

属人マクロ脱却は、単なるシステム入れ替えではありません。

「個人のノウハウ」から「組織の知財資産」への転換として、工場DXや自動化、品質保証強化を支える基盤となります。

最近では、ノーコード/ローコードツールやRPAの活用が広がってきています。

属人マクロをいきなり100%廃止するのではなく、「現場の知恵」を分解して業務フロー化し、新旧ツールを併用しながら移行する「段階的リファクタリング」こそが失敗しない現実路線です。

また、chatGPTや生成AIを活用して現場担当者ヒアリングも効率化できる時代となり、今後は「人のスキル+業務フロー資産」が更に強い武器となります。

まとめ:ラテラル思考で属人マクロから未来の業務フローへ

属人マクロからの脱却は、単なるIT化・自動化の話にとどまりません。

現場で培われた知恵と工夫を「業務フロー」という形で組織資産化する。

そのプロセスこそが、激変する製造業界で真の競争力を生みます。

段階的なリファクタリングでリスクを抑え、「できる人頼み」から「みんなで使える業務フロー」への移行を実践していきましょう。

この変革は、バイヤーにもサプライヤーにも、そしてすべての現場で働く人たちにとって、よりよい未来を切り拓く新たな地平線になるはずです。

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