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内製外注の境界をTCOで見える化するメイクオアバイ判断

目次
はじめに:製造業における内製と外注の境界線
製造業において、「内製」と「外注」の選択は経営の根幹に関わる重要な判断事項です。
かつては品質や納期を守るために“すべてを自社で完結させる”時代もありました。
しかしグローバル競争や人手不足、設備投資コストの高騰など多くの要因を背景に、今や最適な選択に向けた仕組みが強く求められています。
その中で注目されるのが、TCO(Total Cost of Ownership: 総保有コスト)です。
単なる価格比較を超えて、調達や生産にかかるあらゆるコストを多角的に見える化し、合理的な判断を行うための手法です。
本記事では、製造現場20年以上の経験を踏まえ、アナログな体質が根強く残る日本の製造業ならではのリアルと実践的TCOアプローチを掘り下げていきます。
内製と外注、それぞれのメリット・デメリット
内製のメリット
内製は、自社工場で部品や製品を生産するスタイルです。
最大の強みは、品質や納期のコントロール性です。
設計やノウハウが直接現場に共有できるため、急な仕様変更やトラブルにも柔軟に対応できます。
また、技能伝承や人材育成の場として機能することも大きな価値となります。
内製のデメリット
一方、コスト競争力やキャパシティに限界が生じがちです。
生産量の変動に追従できず、閑散期には余剰人員や遊休設備の問題につながります。
投資リスクや固定費高止まりも無視できません。
また、多品種少量生産時代になるほど、非効率領域が増幅します。
外注のメリット
外注=アウトソーシングでは、外部のサプライヤーに生産業務を委託します。
変動費化しやすいため、経営資源の効率化や固定費圧縮が可能になります。
特に第三者のノウハウや最新設備を活用できることで、新技術へのキャッチアップも加速します。
自社では生産困難な特殊加工も外注調達で補うことができます。
外注のデメリット
反面、仕様伝達ミスや品質・納期トラブル、コミュニケーションコストなどマネジメント難易度が上がります。
情報漏洩やコスト構造の不透明化、依存度の上昇によるリスク(外注先倒産、値上げ要請等)も要注意ポイントです。
昭和型判断の限界 「安いモノ」だけで選ぶ危うさ
日本の製造業は長らく「製品価格」や単純な人件費比較で内製・外注を決めてきました。
特に購買部門では“より安い調達価格の実現”が最優先されがちです。
しかし、グローバルサプライチェーン全体でリスクやコストが複雑化した今、目先の価格だけでは最適な判断はできません。
昭和時代の成功体験が足かせとなり、遊休設備や品質事故、外注先管理の肥大化など「隠れたコスト」が膨らむ事例は枚挙にいとまがありません。
属人的な“勘と経験”では、急速なイノベーションへの対応力も削がれるのです。
TCO(総保有コスト)で考えるメイクオアバイ判断
TCOとは何か
TCO(Total Cost of Ownership)とは、単純な調達価格や製造原価だけでなく、そのプロセス全体で発生するすべてのコストを洗い出す考え方です。
調達、物流、管理、品質保証、リスク対応、廃棄やリサイクルにいたるまで、多面的にコストを見える化します。
これにより、見せかけの「安さ」ではなく、本当の最適解が見えてきます。
メイクオアバイ(Make or Buy)の実践的フロー
1. 内製と外注の候補品番・品目を整理する
2. TCOを構成する要素ごとに、現状データや見積り、過去実績などをもとにコスト積み上げを行う
- 直接製造費(材料費、加工費、人件費、設備減価償却など)
- 間接費(品質管理、物流、管理工数、教育、予備品、保全、間接部門人件費)
- 潜在的コスト(納期遅延リスク、外注先事故対応、サプライチェーン中断時の影響度)
3. 変動・固定費、イニシャル・ランニングコスト、潜在リスクも定量化する
4. 複数年視点でシナリオ(需要変動、技術更新、外注先事情変化など)ごとのTCOを比較する
5. 企業戦略・方針(コア技術保持、バリューチェーン強化、技術伝承、防衛的観点など)も加味して総合判断する
現場でよくある「落とし穴」とその対策
現場経験上、TCOは理想論だけでは定着しません。
以下のような“見逃されがち”なポイントには特に注意が必要です。
– 見積りに現れない間接コスト(調整・受入検査・仕様説明・図面修正など)が外注時代に増幅
– 内製品目を安易に外注化し、余った現場人員や設備の“隠れた負担”が減らせず固定費圧縮に失敗
– 外注先依存度が高まり、技術流出や価格交渉力の低下、サプライチェーン断絶リスクが増大
– 製品開発や設計変更時のフレキシビリティが損なわれ、市場対応スピードが低下
これらを回避するには、「実際に現場で何が起きているのか」を地道に可視化・数値化し、“定量的な議論”ができるカルチャー作りが不可欠です。
生産現場・購買・サプライヤー、それぞれのキモとなる視点
現場管理者・生産技術者に必要な視点
生産現場でMake or Buyを進める際、最大の課題は「本当に内製すべき領域(コア)と、そうでない周辺領域(ノンコア)の峻別」です。
凡庸なラインオペレーションや単純工程にこだわりすぎると、技術革新やAI/自動化への乗り遅れにもつながります。
TCOを武器に現状を俯瞰し、社内の常識や“昔からこうしてきた”を一度外部の視点で問い直すことが重要です。
また、外注先との技術連携や共同改善の機会を創出し、“外の知見をいかに取り込むか”という積極的な姿勢も不可欠です。
購買・調達部門の視点
購買バイヤーは“単なる価格交渉屋”ではありません。
サプライヤーマネジメントのプロとして、現場と二人三脚でTCOを構築していく役割を担っています。
外注先依存度やサプライチェーンリスク、品質保証コスト等、多面的データにもとづく提案型購買が今後ますます求められます。
特に新規サプライヤーとの関係性構築では、単なるコストダウン先ではなく“パートナー化”の意識が不可欠です。
サプライヤー(外注先)の視点
バイヤー側がTCO重視で“内外製判断”を進める中、サプライヤーの立場も変化しつつあります。
受注加工業から“技術提供型アウトソーサー”へ進化するためには、コストだけでなく提案力・技術力・安定調達力で自己アピールが必須です。
どうしたらバイヤーの内製外注プロセスの裏側や課題を理解し、その期待値を超える付加価値を提供できるか—市場変化に対して主体的に打って出る姿勢が求められます。
AI・自動化×TCOで新時代の判断軸へ
製造業の内製外注プロセスにも、AIや自動化技術の活用が急速に進みつつあります。
例えば、部品の設計データや実際の生産実績から、TCOの積み上げを自動化するツールも登場しています。
また、需要予測・在庫最適化・マーケット分析などもAIが強力な武器となります。
こうしたデジタル時代の「内外製最適化」には、古い“勘と経験”だけでは対応しきれません。
TCOの全体設計と現場の知見をうまく組み合わせてデジタルトランスフォーメーションを推進していくことが、新たな競争力へ直結します。
まとめ:進化する製造現場でTCOを武器に戦う
「内製か外注か」はもはや単なる価格勝負ではなく、長期的な経営戦略と密接に結びついた重要な経営判断です。
TCOによる多面的な見える化を進めることで、“昭和の内外製常識”から抜け出し、現場と経営が一体となった意思決定が実現できます。
そのためには既存プロセスやカルチャーの変革、“見えないコスト”への徹底的な眼差しが欠かせません。
製造現場で培われた知恵やノウハウ、最新テクノロジーを掛け合わせ、「最適なMake or Buy」を追求し続ける。
それが、日本のモノづくりを世界で戦えるものとするための、一つの大きなカギになると確信しています。
現場で悩み、バイヤー・サプライヤーとして日々選択を迫られている皆さんと共に、これからも「製造業の未来」を切り開いていきたいと思います。
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