投稿日:2025年9月10日

水資源の有効活用で製造業が果たすSDGs目標達成の役割

はじめに:水資源と製造業の密接な関係

製造業は、社会の発展や人々の豊かな暮らしを支える基幹産業として欠かせない存在です。
しかし、その一方で膨大な資源を消費し、環境負荷を生み出していることも事実です。
とりわけ「水」は、製品の洗浄や冷却、反応溶媒、排水処理など、あらゆるプロセスで活用されている重要な資源です。

地球温暖化や人口増加による水不足が顕在化する今、持続可能な開発目標(SDGs)と歩調を合わせながら、水資源活用の在り方を再設計することが、製造業が社会的責任と競争力を両立させる上で避けて通れない課題です。

本記事では、長年製造業で現場管理・運営を担った立場から、水資源の有効活用がなぜ今求められているのか、その具体的な実践例や最新動向、業界が直面するアナログな制約をどのように突破するかについて、現場目線で深掘りしていきます。

SDGsと製造業における水資源の位置づけ

SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」へのインパクト

SDGs(持続可能な開発目標)の中でも、目標6は「すべての人に水と衛生へのアクセスを確保する」ことを掲げています。
一見、生活用水や上下水道の問題のように感じがちですが、実は製造業が消費する工業用水の量は、世界全体の消費水量の約20%にも及ぶと言われています。
日本でも工業用水の需要は高く、とくに多くの工場が集中する都市部や水源の限られる地域では、ますます水ストレスが顕著になっています。

製造業現場での水の使い方ひとつが、社会全体の持続可能性に直結しているのです。

なぜ今、製造業に水資源活用が問われるのか

製造業がSDGsで求められている水資源対策は、単なるCSRの一環ではありません。
世界中のブランドメーカーやバイヤーが、調達する部材や資材の環境配慮に厳しい基準を設けはじめており、海外顧客やグローバルサプライチェーンでは、すでに「どの程度環境に負荷をかけていないか」というウォーターフットプリントの提出が求められるケースも珍しくありません。

つまり、水資源の有効活用はサステナブルな成長戦略であり、新たなビジネスチャンスの扉でもあるのです。

現場で考える、水資源の有効活用の実践的アプローチ

1. 再利用・リサイクルの推進

最も基本となる取り組みは、「使った水を再び使う」サイクルの確立です。
例えば、洗浄水や冷却水をろ過・処理し、再び工場内の他用途に回すことで、水の使用総量を大きく削減できます。

紙・パルプや化学、食品、鉄鋼などの多量の水を使う業種では、こうした設備投資のリターンが特に大きくなります。
現場の工夫としては、以下のようなアクションがあります。

・複数工程での水の共用(例:最終洗浄で使った水を一次洗浄に回す)
・排水の再循環・ろ過(膜処理、活性炭ろ過など)
・冷却水のクローズドループ化(密閉式冷却塔の導入)

現場目線で重要なのは、単に設備を入れるだけでなく、「どうやって運用・維持管理するか」という点です。
例えば一度導入しても、「メンテナンスに手間がかかる」「水質が下がって歩留まりが落ちる」と現場が感じてしまえば、結局使われず形骸化してしまいます。
現場担当者やオペレーターの合意形成と綿密なフォローが成功のカギを握ります。

2. 少水化プロセスへの置き換え

近年は、もともと水を多く使う工程自体をドライ化・省水化する技術開発も進んでいます。

・冷却方式の工夫:空冷式チラーの導入、熱交換器の高効率化
・洗浄工程の見直し:二段・三段階洗浄で最適な水量に削減
・切削・研磨でのミスト冷却、エアブロー化

現場でありがちなのは、「昔からこうやってきたから」と古い機器や工程を惰性的に使い続けてしまうことです。
技術進化によって「水をたくさん使って当たり前」の工程が、今では半分以下の水消費で同じ性能が得られる場合も珍しくありません。

現場担当者自身が各社の技術ショーや展示会、業界誌で情報収集することも重要です。
たとえば定期的な現場カイゼン活動で、工程ごとに「なぜこの水量が必要なのか?」をゼロベースで議論すると、思わぬ発見やコスト削減案につながるケースも多くあります。

3. 排水処理の高度化と資源回収

水資源の有効活用というと使用量削減に目が向きがちですが、「出した水をどれだけきれいに、次に活かせる形で戻せるか」も極めて重要なテーマです。
高度な排水処理設備や、排水中の有価物回収技術(重金属、希少金属、溶剤回収など)を導入することで、企業価値向上と環境負荷低減の両立が期待できます。

特に近年注目されているのが、「ゼロエミッション水処理」。
排水をほぼゼロに近づけ、工場外へ排出しない水循環をめざす最新の取り組みです。

4. 水リスク管理とBCP(事業継続計画)の観点

水資源の課題は、単なる環境先進企業“アピール”の範疇を大きく超えています。
集中豪雨や渇水、大規模災害時には給水制限や停水リスクが現実に降りかかります。

多くの工場では情報インフラ・電力確保のみならず、「水もBCPの中心に据える」ことが急務となっています。
バックアップ水源や井戸水利用、防災タンク設置など初期投資をどう合理的に進めるか、現場の調達購買や総務部門、工場長など横断的な意思決定がカギです。

アナログな業界慣習と現場の現実

昭和時代から残る「水はタダ」という発想

製造業、とくに中小企業や老舗工場では、「水なんて自然の恵み、ほぼ無料で当然」という考え方がいまだ根強く残っています。
小規模工場では自治体からの水道水に頼らず、敷地内の井戸水や河川取水で事足りてきた歴史が長いのです。

ですが、地下水・表流水の利用規制強化や使用料金の値上げ、気候変動による渇水リスクで「これまで通り」はもはや通用しません。
いざ取水規制で水使用量が制限されても「何をどう削減すればよいか分からない」という現場が大半です。

現場主導のDX(デジタルトランスフォーメーション)導入の難しさ

水資源活用を抜本的に改善しようとすると、IoTセンサーやクラウド解析による水使用量の“見える化”など、DX領域との連携が欠かせません。
しかし、古い工場ほど現場にデジタル人材が不足し、「機械の制御や現場の勝手な改善はトラブルのもと」と敬遠されがちです。

ここを突破するには、現場で働くベテラン社員や技能職の「体感」や「勘」と、データドリブンな改善を両立させる“現場共創型”の取り組みが重要です。
日々の取水量や排水量をKPIに設定し、小さな変化や違和感を現場で議論・フィードバックする仕組み作りが好循環を生み出します。

グローバルバイヤーとサプライヤーにとっての水資源活用のインパクト

調達購買における「水リスク評価」

外資系バイヤーやグローバルブランドは、新たなサプライヤー選定時に「ウォーターフットプリント」や「BCP(事業継続計画)」を必ず確認するようになっています。
製造業サプライヤーが水資源活用の取り組みを明文化し、具体的な数字で説明できるか否かは、実は取引の成否を大きく左右します。

たとえば「本社方針でエコ活動推進」といった抽象的な説明ではなく、「●●年に再利用水率80%を達成済」「●●工程の水消費を2018年比●%削減」など、説得力あるデータが求められています。

バイヤーを目指す人・サプライヤーへの示唆

これからバイヤーを目指す方にとって、水資源活用をはじめとするSDGs関連のリスク評価は必須の知識になります。
水リスクマップの作成、現地工場視察時のチェックポイント設定、突発的な水不足時のサプライプランB構築など、社内外のステークホルダーを巻き込んだ調整力が求められます。

一方、サプライヤー側にとっても「水を制する者はサプライチェーンを制する」というくらい、調達競争力の源泉です。
現場での水資源活用の実践を進めることで、「他社との差別化」「バイヤーからの信頼性向上」「新興国・新市場への進出リスク低減」など多くの恩恵があります。

未来志向の水資源活用へ――現場発・現場起点のイノベーションを

製造業の水資源問題は決して“グローバル企業だけの特別な課題”ではありません。
むしろ、現場の最前線で働く技能職、管理職、調達担当すべての一人ひとりが「水をどう守り、賢く使うか」に責任を持つことこそ、持続可能な社会への第一歩です。

そして昭和からのアナログな慣習を否定するのではなく、現場に根付いた知恵とエンジニアリング、さらにデータ活用や新技術を融合する――そんな“ラテラルシンキング”が未来を切り開きます。

今、まさに一人ひとりの現場目線の改善提案が、日本の製造業全体、ひいては世界の水資源を守る大きなうねりとなっていくのです。

まとめ

水資源の継続的な有効活用は、製造業のSDGs目標達成の重要な柱です。
現場視点でいえば、カイゼン活動や工程見直し、デジタル技術との融合、業界のアナログな制約の突破など、着実な一歩から全社的なイノベーションまで幅広いアプローチが求められます。

バイヤー・サプライヤーの双方が水資源を戦略テーマとして捉え、現場と経営層が連携して「水から考えるものづくり」に挑戦することこそ、持続可能な社会と企業の新たな価値創造につながるはずです。

ぜひ日常の工場運営や、購買・調達活動の中で、「水を守る」視点を一歩踏み込んで考え、現場からの小さな行動改革を始めてみてください。

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