投稿日:2025年9月10日

カーボンフットプリントを算出する製造業の実務プロセス

はじめに:カーボンフットプリントの重要性と製造業の責任

近年、世界的に環境問題への関心が急速に高まっています。
その中心的なキーワードが「カーボンフットプリント(CFP)」です。
とくに製造業は、社会インフラや生活用品の基盤である一方、大量の原材料消費やエネルギー使用によるCO2排出の責務も持ちます。
カーボンニュートラル社会の実現にむけ、製造業の現場こそが、具体的なアクションを示し、変革をリードするべき存在です。

この記事では、昭和的な慣習も色濃く残る製造業の現場実務に即し、カーボンフットプリント算出の具体的な流れや、購買・調達現場での課題、そして進化を続ける最新トレンドについてわかりやすく解説していきます。

カーボンフットプリントとはなにか

カーボンフットプリントは、原材料調達から生産、物流、製品の使用や廃棄まで、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(主にCO2)の総量を、CO2換算で可視化した指標です。

なぜ製造業が注目しているのか

理由は大きく3つあります。

  • 顧客・社会からの監視やサプライチェーン全体の説明責任強化
  • 脱炭素経営の競争力強化(グリーン調達、CSR、国際認証取得など)
  • 法令対応(例:欧州グリーンディール、国内排出量規制の強化)

たとえ業界内でDX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れていても、購買先企業や消費者への説明責任から逃げられません。
今は「カーボンフットプリントを正確に示せない企業=選ばれない企業」という時代になりつつあります。

カーボンフットプリント算出の基本プロセス

カーボンフットプリントの算出には国際標準規格(ISO14067やGHGプロトコル)をベースに、共通の手順があります。
実際の現場目線で、その流れを追っていきましょう。

1. 対象範囲(バウンダリー)の設定

まずどこまで算出の対象とするのかを決めます。
典型的には以下の三つです。

  • スコープ1:自社で燃焼・化学反応等により直接発生するCO2
  • スコープ2:購入した電力・熱の使用による間接的CO2
  • スコープ3:原材料調達・物流・販売・廃棄まで第三者経由で発生するすべてのCO2

まずはスコープ1/2を着実に押さえ、ゆくゆくはスコープ3まで拡張するのが多くの現場での現実的なアプローチです。

2. データ収集と入力値の明確化

最も手間がかかる部分がここです。
昭和時代からのアナログ体質ゆえ、原材料マスター・生産日報・エネルギー使用量をすぐに一元化できる製造現場は稀です。
多くの企業でExcelベースに頼った手集計、帳票の転記、ときに紙伝票の山から探し出す、といった泥臭い作業が今も現実です。

調達購買部門では原材料・部品ごと、仕入先ごとの納入スペックや輸送手段データを収集し、生産管理部門では工場ごとのエネルギー消費、工程ごとの副資材投入量を把握します。
データ不備を確認しながら、現場担当者の「肌感覚」や「定性的な補正」も必要になることもあります。

3. 排出係数の設定

各活動や原材料ごとに、どれだけ温室効果ガスが発生したのかをCO2換算(排出係数)に直します。
これは各国・業界の標準係数や、取引先が発行する環境データシートを使うのが一般的です。

例えば「A樹脂1kgあたりCO2排出量=2.8kg」「国内トラック輸送1t・100kmあたりのCO2=21kg」などです。
国際取引が多い企業ほど、輸入元の係数や欧州の基準を求められる場面も増えています。

4. 集計・演算・分析

収集したデータに排出係数を掛け算し、製品1単位あたり、ライン1シフトあたり、全工場合計など、様々な切り口で総排出量を集計します。
ここでもクロス集計やシミュレーション(「代替原材料ならCO2は何%減るか」など)ができると、現場改善や調達先交渉に実践的な武器となります。

5. レポート・外部監査・顧客or規制当局への提出

算出結果レポートは、内部の経営会議や、取引先(バイヤー)、行政監督機関への提出資料としても利用されます。
ISO認証やカーボンニュートラル推進の第三者認証機関による監査も増えています。

現場目線での「アナログ」な課題と、DXによる解決策

カーボンフットプリント算出が浸透しない現場には、典型的なアナログな課題が潜んでいます。

  • 伝票や報告書、エクセルファイルが乱立し、転記ミスや数値精度のバラツキが発生
  • 原材料ごとの排出係数がブラックボックス化、またはデータが古いまま使い回される
  • ラインごと現場リーダーの勘と経験だけに依存した「非定量的なCO2評価」
  • 人的ミスや担当異動でノウハウが継承されず、「属人化」が進行

そのため、今やDX(デジタルトランスフォーメーション)が急務です。
MES(生産実行システム)やIoTを活用したリアルタイムなエネルギー監視、調達・購買システムの自動化、クラウド型LCA(ライフサイクルアセスメント)ツールの導入が、業界全体で拡大しています。
また実務者教育も不可欠です。
現場の「気合」や「慣習」だけに頼るのではなく、ロジカルな根拠にもとづくCO2可視化が求められています。

バイヤーが求める「カーボンフットプリント」とサプライヤー視点の着眼点

バイヤー(調達購買部門)がサプライヤーを選定する際、「当社のサステナビリティ方針に沿ったCO2排出量の見える化」が強調される時代です。

バイヤーが気にするポイントは主に以下の通りです。

  • カーボンフットプリント算出の根拠(データや係数の信頼性、更新性)
  • ライフサイクル全部をカバーしているか(Scope3対応)
  • 外部監査・国際認証(ISO14067/LCA認証など)が取得されているか
  • 改善サイクル(定期的な見直し/削減トレンドの提示など)が組織的であるか

サプライヤーの立場でバイヤーの視線を意識するなら、
「自社はなぜその排出量なのか?」「今後どこまで削減できるか?」を論理的に説明できるように、日ごろから正確なデータ整備・仕組み作りが肝となります。

現場から見た、これからの実務トレンドと意識の変化

昭和的な組織文化や「しきたり」が残る企業ほど、「環境対応=負担増=コストアップ」という旧来感覚が根強いです。
しかし、グローバル市場での競争力、若手人材の獲得・維持、取引継続の条件として、カーボンフットプリント対応は“生き残り”の必須要件です。
現場力とサステナビリティ力を両立する時代へ、いま業界は変わり始めています。

今後の現場実務トレンドとして注目される動きもご紹介します。

  • 「カーボンニュートラルQCD」…従来のQCDに環境価値(Zero Emission)を加えた発想
  • 調達先変更・原材料切り替えに際し、「CO2排出量」を重視した新たな選定軸の増加
  • 全社横断的なCO2データプラットフォーム構築の加速
  • 熟練技能者の勘・経験を数値化する「現場発・カーボン削減カイゼン活動」

まとめ:まずは気づきと小さな一歩から、現場が動けば業界が変わる

カーボンフットプリント算出は、決して一部の大手企業や一流バイヤーだけの話ではありません。
むしろ、日々の現場のコツコツしたデータ記録や、購買部門の地味な集約作業、一人ひとりの“アナログだけど誠実な取り組み”が、結果として大きな責任を果たします。

「うちの工場では来月どれだけCO2が出るのか?」
「代替素材でどのくらい環境負荷が減らせるのか?」
こうした具体的な視座をもち、協力し合う職場風土にこそ、昭和から令和への分水嶺が見えてきます。

最後に。
製造業の未来は、現場ひとりひとりの実践にかかっています。
環境問題への責任と成長を両立するため、まずは自社のカーボンフットプリントの算出、小さな改善へのチャレンジから始めてみませんか。
その先にこそ、新しい業界の価値と可能性がひらけていくはずです。

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