投稿日:2025年9月15日

製造業における二重課税を避けるための国際税務の基礎

はじめに:製造業と国際課税の現実

製造業に携わる現場サイドで長年働いていて感じることの一つは、グローバル化による複雑な税務リスクが年々増しているということです。

とりわけ、調達・購買、生産管理、品質管理などの部門を経験してきた中で、取引先やグループ会社が海外にも広がる今日、「税金を二重に取られるリスク(二重課税)」は決して他人事ではありません。

この記事では、現場目線から見た製造業の国際課税の基本や、二重課税をどう回避すべきか、アナログな業界の風土に根付いた注意点とともに、分かりやすく解説していきます。

製造業における「二重課税」とは何か?

二重課税のメカニズム

そもそも「二重課税」とは、同じ所得や取引に対して、複数の国で課税される状態のことを指します。

例えば、日本の製造業メーカーがタイの子会社に部品を販売した場合、日本側でもタイ側でも、同じ利益に対してそれぞれ法人税が課されてしまうことがあります。

このようなケースは、グローバル調達や現地生産が常態化している今、ますます一般的です。

なぜ二重課税が起こるのか

理由は複数ありますが、代表的なものは以下2つです。

1.各国が自国内の経済活動に対して独自の課税権を主張するため
2.利益配分(移転価格)の認識が国ごとにズレやすい構造があるため

また、製造メーカーでは中間財や部品、技術サービスなど、取引内容が多岐にわたり、実態の正確な把握が難しい点も、結果的に二重課税を招きやすい土壌となっています。

製造業が直面しやすい具体的な二重課税リスク

移転価格税制のポイント

現場で最大の関心事は「移転価格」です。

親子会社間やグループ会社間で取引が発生する際、「市場の時価(独立企業間価格)で取引されていますか?」と、各国税務当局は厳しく目を光らせます。

もし現地の経営実態や市況を見誤り、価格が「安すぎ・高すぎ」と判断されれば、どの国でもその差額分を利益認定され、追加で法人税が課される(二重課税が発生する)リスクがあります。

常設施設(PE)課税にも注意

もう一つ、工場を海外に設置した際や、現地プロジェクトに技術者を長期派遣した際、「常設施設認定(Permanent Establishment、通称PE課税)」の懸念も忘れてはなりません。

たとえば、日本の技術者をベトナムの新工場立ち上げのため常駐させていた場合、ベトナム側から「あなたの会社はベトナム国内に事業拠点(PE)がある」と見なされ、ベトナム法人税を徴収される事態も起こりえます。

製造業が二重課税を避けるための国際税務の基礎知識

租税条約の理解は必須

実務上、二重課税を最小限に抑えるために「日○○租税条約」のチェックが必須です。

多くの国際間取引では、互いの国で二重取りされるのを防ぐ条約が締結されています。

ここでは「一方の国で事業所得と認定されない場合は、課税もしない」といったPE認定基準、「源泉地課税と居住地課税の調整方法」なども決まっています。

自社が取引相手国とどのような条約を結んでいるか、必ず自社の総務・経理部門や専門家に確認しましょう。

移転価格文書の整備=海外展開のライフライン

アナログ志向の強い製造業の現場では、「まあ大丈夫だろう」と取引データや価格算定の根拠を疎かにしがちですが、ここを怠ると本当に痛い目に遭います。

移転価格文書は、「なぜこの価格設定になったのか」を示す合理的な証拠です。

・機能・リスク分担の明確化
・現地市場の類似取引や相場の調査
・親子間契約内容の明文化

これらを整理し、何年も保管できる体制を作ってください。

外国税額控除(FTC)をもっと賢く活用する

仮に二重課税が発生しても、一定の範囲なら「外国税額控除」という調整仕組みがあります。

進出先で現地法人税を支払った分、日本での法人税から控除できるため、完全な“二重”は防ぐことができます。

しかし、控除適用手続きには煩雑な書類・証明資料が必要です。

調達部門や現地の財務チームにも、早くから書類整備の重要性を啓蒙しましょう。

現場視点で見る「昭和」から抜け出せないリスク

担当者依存のナレッジの断絶

製造業は熟練者や担当者の経験・勘に頼りがちで、「税務の話は経理に一任」という職場風土が今も色濃く残っています。

しかし、グローバル調達や生産管理、現地立ち上げのプロジェクトリーダー自身が国際税務のリスクと要点を理解していないと、不意打ちで多額の追徴課税や業務停止を招きかねません。

「自部門は関係ない」ではなく、プロジェクト横断でナレッジ共有を続けることが重要です。

アナログ資料と電子データ管理体制の不備

紙での見積・契約・請求は今も多いですが、税務調査はますますデジタル化が要求されます。

証憑・契約書がバラバラ、年度ごとに担当替えで引継ぎ不十分、これでは移転価格調査への備えが不十分です。

IT化やシステムの更新投資は、「現場には関係ない」では済みません。

クラウド管理・証憑連携・ワークフローの徹底化は、国際税務対応の必須インフラとなっています。

サプライヤー/バイヤー目線で知っておきたいこと

サプライヤー側が絶対知るべき国際税務の視点

サプライヤーの場合、輸出業務においてバイヤーがどこまで租税条約や二重課税防止措置を気にしているかを正しく理解しておくべきです。

とくに「部品の原価低減や値下げ交渉」を安易に受け入れると、グループ全体の利益配分ルールとのバランスを崩し、税務当局の指摘リスクが高まります。

海外現地法人と直接取引する場合、納品後の税金や関税構造についても自社で学ぶ姿勢が大事です。

バイヤー視点での税務リスク管理のコツ

バイヤー部門には「コストを下げつつコンプラ順守」というプレッシャーが常につきまといます。

安易な一括購買や、グレーな業者に依存することで、後々「移転価格が不合理だった」という指摘や、源泉税控除の漏れに泣かされる事例も跡を絶ちません。

バイヤー自ら「この契約で税務問題はないか」を現場段階から意識する。それが、長期的なコスト競争力の維持にも直結します。

まとめ:現場発想で「国際税務」を武器に

製造業は今、かつてないほど国境をまたぐ事業遂行と税務リスクのバランスが求められています。

国際税務や二重課税問題は、経理だけの責任ではありません。

調達・購買、生産管理、サプライヤー管理など現場プロジェクトリーダーが早い段階から正しい知識を持ち、部門横断・業務横断でリスクを察知・共有していくこと。

そして、「租税条約」「移転価格文書」「税額控除」といった基礎知識を現場で活かすことで、昭和的属人的運営から一歩抜け出し、真に強靭な国際競争力を育てていきましょう。

製造業の成長と安全を守るうえで、国際税務の理解と実践は今後さらに欠かせない武器となるはずです。

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