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知的財産権を侵害されないための海外取引における注意点

目次
はじめに:現場目線で考える知的財産権と海外取引の重要性
ものづくり大国日本で働く私たちにとって、技術と信用は企業価値の根幹です。
しかしグローバル化が一層進む今、未知の市場に技術や製品を持ち出すことは、知的財産権侵害という新たなリスクとも隣り合わせとなりました。
昭和の時代、海外進出といえばせいぜいアジアの一部かアメリカ程度。
多くは現地法人すら設立せず、商社頼みでお茶を濁してきた経緯があります。
ところが現代のサプライチェーンは時空を超えて複雑に絡み合い、一瞬で設計データやノウハウが流出する時代になりました。
本記事では、現場実務で培った視点をもとに、海外取引で自社の知的財産権を守るための実践的な注意点について深掘りします。
サプライヤー・バイヤー双方の立場から、あるいは今まさに生産管理や調達現場で悩んでいる方の具体的アクションにつながる情報を提供します。
知的財産権とは何か?現場で起きる「油断」が命取り
知的財産権の基本と工場現場が置かれる現実
知的財産権とは、特許権・実用新案権・意匠権・商標権などのことを指します。
一方で、現場で扱う図面や製造技術、金型、さらには生産のノウハウそのものも、工場にとっては重要な財産です。
現場でありがちな油断に、下請けとの間で交わすNDA(秘密保持契約)の形骸化や、「こんなローカルな治工具、外部に流れても大したことない」と軽視する風潮があります。
しかし、たった一枚の治具図面や使い方解説が海外に流出した結果、想像以上の模造品被害・価格競争に苦しんだ事例は枚挙に暇がありません。
意外と見落としやすい「技術の伝播経路」
知的財産権侵害の多くは、単なる不正競争行為だけでなく、思わぬ内部漏洩や取引先からの横流しが発端となります。
昭和的な「人間関係に甘える文化」や「あいつに限って悪用しないだろう」といったエモーショナルな信頼感覚は、グローバル時代にはむしろリスクになります。
実際、海外拠点で現地スタッフが図面やノウハウ、ダイの3DデータをSNS経由で外部へ送信していたという事案も増えています。
海外取引で特に注意したい知的財産リスクの特徴
地域別で異なる「知財」の扱われ方
海外と一口に言っても、知的財産の法制度や社会常識は国ごとに千差万別です。
たとえば、中国では特許や意匠の権利保護が立法上は厚い反面、実際の執行力にばらつきがあります。
インドや東南アジアでは、技術の「水平展開」を国家政策で推奨している場合もあり、「ローカル化」「現地技術移転」が求められる場面も出てきます。
自国よりはるかに甘い罰則しかない地域もあります。
現地パートナーとの関係性が生む「無自覚な漏洩」
海外に生産委託や部材調達を展開した際、想定外のパートナーやサプライヤーの下請け、さらなる孫請けへと再委託されるケースが多発しています。
従来、調達部門や設計部門では「主要取引先」しか把握していないことも多いですが、実態としては誰が製品に接しているか特定できないこともざらです。
生産現場での“型流し”や“リバースエンジニアリング”の温床にもなり、「うちは委託先をちゃんと監督している」と考えている企業ほど、情報漏洩に気づいたときには手遅れです。
現場で実践できる知的財産権保護のアプローチ
NDAだけで本当に大丈夫?契約の見直しのポイント
「とりあえずNDAを結んだから大丈夫」と思いがちですが、契約書は適切な運用と監督がなければ意味がありません。
特に、秘密情報の範囲(何を守るべきか)、再委託・下請け展開時の責任所在、侵害時の損害賠償請求や裁判地(どの国の法律で管轄するか)など、具体的な記載が必須です。
採用現場やバイヤー担当者は、サンプル図面や設計データの送付範囲、現地現物チェックの手続きについても現場任せにせず契約書内で規定することが肝要です。
技術移転・設計データの「分割管理」とアクセス制限
生産技術や設計データを丸ごと海外拠点や委託工場に伝えるのではなく、最小限の情報提供にとどめる「分割管理」が有効です。
例えば、金型や製造プログラムをパーツごと分割し、現地スタッフは全容を把握できないように設計する。
また、CNCやPLCのプログラムも暗号化ロックやIDアクセス制限を設ければ、技術流出リスクを大きく下げられます。
BOMや図面の一部を“ブラックボックス化”することも効果的です。
工程や生産指示を現地語で出すことも、無用なデータ流出の予防につながります。
現地監査・工場監督体制の構築
海外委託やサプライヤー展開時には、現地監査・サプライヤー監督体制が重要になります。
ISO9001やIATF16949などの第三者認証取得だけで満足せず、自社にとって重要な情報取り扱い規定を現場レベルまで浸透させましょう。
また、「現地工場のデータ持ち出し制限」「盗撮防止策」「USBメモリ禁止」なども現場ルールに位置づけて徹底指導します。
QC工程表や作業指示書一つ取っても、機密扱いの基準を再確認し、監査項目に加えることが推奨されます。
知的財産権侵害リスクを回避する最新の業界動向
デジタル化・DX化と知財リスクの新潮流
工場のIoT化やスマートファクトリー推進で、業界では「ソフトウェアとしてのノウハウ」や「デジタルツインデータ」など新しい知財が現場に溢れています。
これらは従来の“モノ”の流出だけでなく、“コト”(付加価値、運用ノウハウ、アルゴリズム)そのものの盗用にもつながります。
例えば、海外生産工場にIoTセンサーを導入した途端、現地ITベンダーや設備メーカとのやりとりが増え、思わぬAPIの穴やクラウド共有によるデータ漏洩が発生します。
昭和時代の“製品図面とカミの管理”から、“データと通信の管理”へと現場は進化しつつあるのです。
模倣品対策の業界標準化と連携の動き
業界団体や大手企業連携による、模倣品対策のグローバルネットワーク化も進んでいます。
たとえば、日本機械工業連合会などは模倣品発見時の通報システムを整備し、共有DB化しています。
個社だけで戦う時代から、業界横断型で知財を守る「共助」の時代に移りつつあります。
まとめ:令和の知的財産権対策と現場へのメッセージ
知的財産権は法務部や知財部だけの問題ではありません。
現場の作業者一人ひとり、サプライヤーの窓口となる購買担当、現地監査を担当する品質管理者、技術移管を進める生産技術者――すべての現業部門に密接にかかわっています。
昭和の現場力と信頼関係は、日本ものづくりの強みでした。
しかし、急速に進むグローバル化とデジタル化の波の中では、それだけではリスクマネジメントになりません。
「自社技術を守り、ブランド価値を高め、世界と戦っていく」ためには、ルールと仕組み、データと現場運用の合わせ技が求められます。
海外での取引や委託生産を進める中で、「今のやり方で本当に守れているのか?」
「自社の現場データ、ノウハウが外部に漏れる経路は本当にないのか?」
――常に批判的・俯瞰的に見直すことが、これからの現場力を高める第一歩です。
知的財産権を守ることは、未来の工場を守ることそのものです。
ぜひ記事を参考に、現場から新たなイノベーションと発展を生み出していってください。
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