投稿日:2025年9月24日

現場で放置される「飲み会強制」が招くハラスメント問題

はじめに―製造業現場に根付く『飲み会文化』の実態

製造業の現場は、人と人とのつながりを非常に重視する業界です。
生産現場では「阿吽の呼吸」や「以心伝心」といった、日本的な価値観が色濃く残っています。
その中で、昭和の時代から受け継がれてきた『飲み会文化』は、今も多くの工場やオフィスで根強く残っています。

一方で、時代は大きく変わりました。
働き方改革やダイバーシティ推進の波が押し寄せ、価値観も多様化しています。
しかし現場では、「飲み会は職場の結束を固めるもの」という理由で、飲み会への参加がほぼ“強制”のような雰囲気になっている場合も珍しくありません。

本記事では、この“飲み会強制”という現象が現場でなぜ放置されてきたのか、そしてどんなハラスメントを引き起こしているのかを、製造業で20年以上現場を経験した筆者の視点から掘り下げます。
現場のリアルな声や、これからのバイヤーやサプライヤーが気を付けるべき点、実践的な改善策までをお伝えします。

なぜ飲み会強制が現場で根付くのか?

飲み会が果たす「現場コミュニケーション」の役割

製造業では、ラインを超えた連携や、現場同士の情報共有を重視する企業文化があります。
業務中はコミュニケーションが限られがちなため、「飲み会の場で日ごろ言えないことを言う」「本音をぶつける」という風土が未だ根強く残っています。

また、上下関係が厳しい業界だけに、部下から上司へ直接意見を言うのが難しい場面も多々あります。
こうした中、「飲み会で砕けた空気の中なら本音が言いやすい」「上司が部下の様子を理解できる」といった考えが、古参の管理職を中心に今なお受け入れられています。

“昭和的”な価値観が今なお残る背景

バブル期以前から続く、根強い『年功序列』『終身雇用』の影響も見逃せません。
長く同じ現場で働くことで醸成された「家族的な雰囲気」を重視するあまり、「みんなで飲み会に行くことが当たり前」「参加しないのは職場の和を乱す」という価値観が無批判に受け継がれてきました。

そのため、現場では「断る=空気を読まない人」と見なされ、不本意ながらも参加せざるを得ない、という事例が後を絶ちません。
管理職が無自覚のまま参加を“強制“してしまい、ハラスメントにつながるケースも珍しくありません。

飲み会強制の放置が招く“ハラスメント”とは

どんな行為がハラスメントに当たるのか

現在の労働環境では、いわゆる「アルハラ」(アルコール・ハラスメント)、「パワハラ」の認識が広がっています。
飲み会への出席を強要したり、飲酒を強要したりすることは明確なハラスメント行為です。
例えば以下のような場面が現場では多く見受けられます。

・参加しない社員を孤立させ、評価を下げる
・「これも仕事のうち」として飲酒や二次会を強要する
・酔った勢いで業務外のプライベートに干渉する
・参加を断った理由を根掘り葉掘り尋ねる

これらはすべて、現代の労働法や倫理観から大きく逸脱しています。

放置したままだとどうなるか―現場目線でみるリスク

飲み会ハラスメントが放置されると、次のような重大な弊害が生まれます。

・若手や女性、外国籍従業員の離職率が高まる
・“指示待ち社員”が増え、現場の活力低下
・職場への不信感や、直属上司への反発感情が強まる
・最悪の場合、メンタル不調者が続発し、休職・退職が相次ぐ

実際、筆者が工場長時代に見た例でも、飲み会に消極的だった新人が無理やり参加させられ、その後極度の人間関係不信に陥り早期退職してしまったことがありました。
企業全体から見ても、多様な人材活用や生産性向上を阻害する要因となるのは明らかです。

飲み会文化とどう付き合うべきか―脱・昭和的体質のヒント

現場管理職・工場長ができるハラスメント防止策

飲み会文化自体を否定するのではなく、「強制」を排除するスタンスが重要です。
以下、筆者の現場経験をもとにした実践策を紹介します。

・飲み会の案内文や口頭で「参加は任意です」「無理のない範囲で」と必ず明記する
・参加予定者をリスト化せず、誘う・誘わないによる“裏リスト”を作らない
・業務評価と飲み会参加は切り離すことを徹底する
・部署ごとに「ランチ会」や「コーヒーミーティング」などアルコール以外のコミュニケーション機会も設ける
・「翌日出勤」など業務都合も考慮し、遅い時間や長時間の開催を避ける

これらを人事部任せにせず、現場(リーダー層や班長、課長)が率先して実践することが肝です。

サプライヤー・バイヤーの立場で注意すべき“飲み会対応”とは

この問題は、社内だけでなくサプライヤーとバイヤーの間でも発生します。
接待の一環である懇親会を、「出なければ次の案件獲得に響く」と不安視するサプライヤーも多いです。

バイヤー側は以下を心がけましょう。

・定期的な会食を「業務の一環」として位置づけ、必ず事前に参加可否アンケートをとる
・「参加しない=関係悪化」にならないよう、日常の業務コミュニケーションを密に行う
・懇親会の回数や時間、費用面も含めてサプライヤーへの“負担”を見直す
・禁酒希望者や宗教上の理由、健康問題への配慮を怠らない

サプライヤー側も、無理して参加するのではなく、正直な意見や要望を伝える姿勢が、長い目でみて信頼構築につながります。

これからの現場、どうアップデートするか

多様性重視の職場環境づくりの重要性

飲み会強制をなくすと、ただ「冷たい職場」になるのでは?と懸念する方もいます。
しかし、現実には「自分の意思で選択できる」環境の方が、一人ひとりの満足度やモチベーションが向上します。

飲み会に代わるコミュニケーションの場として、現場でこんな工夫も増えています。

・昼休みにワークショップやボードゲーム大会
・オンラインミーティングやチャットでの定期的な交流
・地域活動や社内スポーツイベント
・職場単位の「推し活」や趣味共有サークル

“アルコール” “夜間” “個室” という制約から解放された新しい交流の形が、現場の結束や安全確保を次のステージへ押し上げています。

AIやデジタル化が変える現場コミュニケーション

生産管理や調達の現場でも、AIやIoTによる業務の可視化が進んでいます。
“現場の声”を上げにくいという課題も、チャットボットやWebアンケート、AIを活用したダイバーシティ診断システム導入で大きく改善されつつあります。
これにより、「飲み会でしか聞けない本音」が徐々に“見える化”されてきているのです。

まとめ―現場がアップデートされれば製造業ももっと強くなる

昭和から脈々と続く飲み会強制とハラスメントの問題は、現場で最も「見て見ぬフリ」が行われやすいテーマです。
一方で、これをアップデートすることが、これからの製造業の最大の成長カギとなります。
強制ではなく「選択」と「尊重」をベースにした職場環境づくり。
工場長や現場管理職こそが、その旗振り役となる時代です。

現場から始まる新しい働き方改革が、調達購買・生産管理・品質管理など、あらゆるセクションの連携力・現場力を底上げしてくれます。
バイヤーやサプライヤーのような“垣根”も再定義され、多様性あふれる製造現場に進化することでしょう。

読者の皆さまも、自身の現場で「これ、本当に必要?」と問い直すところから一歩を踏み出してください。
飲み会が“強制”でなくなったとき、現場の未来はきっと明るく開けていきます。

You cannot copy content of this page