投稿日:2025年9月24日

現場社員が納得できない「硬い資料」を渡すコンサルの問題

はじめに:現場が「納得しない」資料の正体

多くの製造業企業が、業務改革や効率化、コストダウンに取り組もうとコンサルタントを導入しています。
その際、現場社員に配布されるのが「コンサル作成の資料」です。
しかし、実際にその資料を見た現場の担当者や管理職からは、「正直、役に立たない」「現場の実情が全く反映されていない」と不満の声が聞かれることが多いのではないでしょうか。

一見、論理的で体系的に整った資料。
図表も多用され、どこかビシっとして見えますが、その中身をよく読むと、現場社員の実感とは乖離していることが多いのです。
現場からは「これじゃ、具体的にどう動けばいいのかわからない」という反応もよくあります。

なぜこうした「硬い資料」が量産されるのか。
そして、それがなぜ現場で機能しないのか。
本記事では、その問題の背景と、現場の視点に立った“真に生きた資料”への転換方法を掘り下げていきます。

なぜコンサルの資料は「硬い」のか?

理由1:トップダウン型のアプローチが基本だから

コンサル会社が作る資料は、多くの場合経営層や本社スタッフ向けです。
「この仕組みを導入しましょう」「全体最適を目指しましょう」と全社レベルでの改革案を提示します。
しかし、現場作業の一つひとつはきめ細かな積み重ねでできています。
トップダウンの指示では、日々現場で起こる微細な違和感や、目の細かい課題をすくい取れません。

理由2:現場の「暗黙知」にリーチできていないから

長年同じラインを守ってきた現場社員のノウハウや、工程ごとの癖、予期せぬトラブルへの対応力。
こうした現場独自の“知恵”は、マニュアル化されにくい「暗黙知」です。
コンサルの資料は一般理論や先進事例の踏襲が中心で、現場のこうした知見が反映されず、画一的な内容になりがちです。

理由3:KPI至上主義による現場乖離

コンサルはKPI(重要業績評価指標)を基準にプロジェクトを設計しがちです。
経営数値での評価は必須ですが、数値目標だけでは測れない「現場の温度感」や運用上の壁が見逃されます。
現場社員からすれば、「単なる数字遊び」に映り、納得感が持てません。

「昭和」的アナログ現場とのミスマッチ

製造業の多くの現場は、いまだにアナログ的文化が色濃く残っています。
実働ベースの熟練技能や、「阿吽の呼吸」が重要になる工程も多々あります。
現場側も「新しいシステムを入れられても現実はそんな簡単じゃない…」という声が多いものです。

コンサルや上流部門は、こうした現実に十分目を向けていません。
例えば、帳票の電子化を進めるシナリオばかりが資料では強調されますが、実態は「それを入力するPCがない」「担当者にITスキルがない」という場面も多いのです。
こうした背景を知らずに「DX推進せよ」とだけ示す資料が現場に受け入れられるわけがありません。

「納得感ない資料」がもたらす悪影響

現場のモチベーション低下

「また実情を知らない人が決めたのか」と現場に感じさせてしまうと、じわじわと協力意欲が低下します。
「言われたからやる」→「どうせ失敗する」→「知らん顔」という無関心が蔓延。
現場主導の改善が生まれず、形だけの施策ばかりになる悪循環です。

現場/管理職/経営層の溝の拡大

資料に示された“理想”と“現実”のギャップが伝わらず、互いの信頼感が薄れます。
現場の積み上げてきた工夫や経験を理解せず、数字やスローガンで指示するトップ。
「現場を見ない」上層部への反発心は拡大し、大きな会社病のもとになります。

改革プロジェクトの形骸化

特に品質管理、生産効率化、DX、原価低減といった分野では、上滑りのプロジェクトが乱立。
「動いたふり」「やったふり」になることで、社内に「結局何も変わらない」という諦めが生まれます。
本来は力を入れれば改善できるはずの現場力が眠ったままになります。

どうすれば「現場納得型」の資料になるのか

1. 現場ヒアリング・観察を徹底する

机上で資料を作るのではなく、実際に現場で働く人と膝を突き合わせたヒアリングや観察を何度も行うことが重要です。
現場の“困っていること”“うまく回っているコツ”“潜在的なリスク”まで丁寧に拾い上げることで、机上の空論ではないリアルな提言が可能になります。

2. スモールスタートで実証し、フィードバックを得る

いきなり社全体に理想論を流すのではなく、まずは一つのラインや部門で試行錯誤し、失敗や気づきを吸い上げてレポート化します。
生きた現場データと納得感を資料に盛り込むことで、「これならうちでもできる」と感じてもらえる内容になります。

3. 数値KPI+現場の“定性”指標で進捗を共有する

経営指標・KPI化は必須ですが、現場独自の“定性評価”も取り入れます。
例えば「作業の効率感」「現場の安心感」「自律的な改善が生まれているか」などを数値化・指標化し、双方向で進捗をレビューします。
現場の手ごたえを伝えることこそが「納得感」のカギです。

4. 資料は現場社員の“言葉”・“ストーリー”にする

専門用語や抽象的表現を避け、実際に担当者が語った言葉や、現場で起きたエピソードをドキュメントとして盛り込みます。
「●●さんはこう考えていた」「ある日、こんなトラブルが起きたが、こう解決した」といったストーリーを多用することで、現場の心に刺さる資料となります。

調達購買・サプライヤー視点で見る現場資料の課題

調達・購買の現場でも、コンサル資料の“硬さ”は大きな課題です。
サプライヤーにも資料や施策が伝達されますが、「結局は値下げ圧力だけじゃないの?」と警戒されるケースも多くあります。

調達現場では、仕入先の生産現場や物流工程に足を運び、サプライヤー担当者と細やかなディスカッションを重ねることが不可欠です。
一方的に「コストダウンすべき」とする資料ではなく、「どうやって両社の利益を最適化できるか」「現場力を活かす取引のあるべき姿は何か」といった協業型の資料にすることが、サプライヤーの納得感と協働姿勢を強化します。

「硬い」資料は、ともすればサプライチェーンの分断を招きます。
現場・現物・現実をよく知り、お互いの“苦労”と“知恵”を盛り込んだ資料が、これからの調達購買には求められています。

まとめ:現場が動く資料とは「納得感」と「共感」でできている

「硬い資料」は、経営システムや管理側には心地よいものです。
しかし、モノづくりの現場、人が主役の現場には、机上の論理だけでは通用しません。
これから製造業が本当に変わるには、現場社員や仕入先、関連部門の「手触り感」や「実現できそう」と思える納得感に基づいた資料作り、対話、巻き込みが絶対に必要です。

まずは、形だけのスライドや流行ワードに頼らず、現場とともに“汗をかいて”資料を作ること。
「作って終わり」ではなく、「繰り返し現場と議論し、ブラッシュアップし続けること」。
それが本当に強い現場の改革を生み、製造業の未来を切り拓いていきます。

製造業で働く皆さん、また、現場志向でバイヤーを目指す皆さん。
ぜひ、この「納得できる資料作り」のポイントを日々の改善やプロジェクトに活かしてください。
それが、現場力を高め、ひいては日本のものづくり全体を進化させる原動力になります。

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