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支払いトラブルを起こす顧客のカラクリ

目次
支払いトラブルを起こす顧客のカラクリとは
製造業にとって「売掛金回収」、すなわち商品の納品後の正当な対価をいかに確実に受け取るかは、経営の生命線です。
長年調達・購買、生産管理に携わり、現場で多くの支払いトラブルを経験してきた私が、なぜ特定の顧客がトラブルを起こすのか、その“カラクリ”に迫ります。
昭和の「阿吽の呼吸」が支払いトラブルを招く
過去の常識が現代のリスクに変わる理由
日本の製造業の多くは、昭和からの「阿吽の呼吸」や「長い付き合い」といった暗黙の了解に頼った取引を続けてきました。
書面も簡素、契約内容も口頭ですませることが多く、特に中小企業間の取り引きでは「信用第一」が美徳とされてきました。
しかし、バブル崩壊やリーマン・ショック以降、このような同調圧力とアナログなやり取りが、現代では大きなリスクに変わりました。
「払いたいけど、ちょっと待ってくれ」と言われれば、帳簿上での売上計上を優先し、回収遅延を容認してしまう。
これが慢性化すれば、回収不能のリスクが一気に高まります。
「取引口座を開く」だけで安心していませんか?
昔からの慣習で、新規取引先についても、最低限の与信調査だけで「取引開始」してしまう現場を数多く見てきました。
決算書や登記簿のコピー、取引先リストのチェック程度で済まされていませんか。
現代の巧妙な支払いトラブルを防ぐには、もっと深い観察眼が必要です。
支払いトラブルを起こす顧客の“兆し”に気付く方法
サプライヤーを「資金調達手段」として見る企業
真っ当なバイヤー(購買担当者)は、サプライヤーを大切なパートナーと捉えています。
しかし、中には「支払いサイト(例:末締翌々月末払)」を最大限活用し、実質的な運転資金の調達手段として悪用する企業も存在します。
この手の顧客は、常に支払いサイトの更なる遅延交渉や、「個別対応」の名のもとに例外扱いを求めてきます。
また、取引額が増加するタイミングで突然支払い遅延が発生した場合、資金繰りに難がある証拠です。
「支払いはしているが工夫している」タイプのケース
支払いをしないのではなく、一時的に支払い条件の延長や分割払いを要求してくる顧客もいます。
例えば「今月は半分だけ先に」「残りは来月」など、巧みに資金ショートのツケをサプライヤーに肩代わりさせるのです。
これが慢性化すると、最終的には全額未収となるリスクがあります。
複雑契約・追加依頼で「チャージ」できない構造を作る顧客
取引条件や仕様変更を多発させる顧客も、支払いトラブルの温床となります。
「この条件も後で精算します」「追加工事分も合算で」など、実態の分からない支払いが後回しにされた経験はないでしょうか。
こうしたケースは特に自動化・カスタム案件に多いです。
最終的に請求段階で揉め、回収が立ち消えになるのが典型パターンです。
支払いトラブルを防ぐための「現場的」実践策
契約=形式・ルールで自社を守る
どれだけ長い付き合いがあろうと、契約内容は細部まで明文化し、合意書や注文書のやり取りを必ず残すことが基本です。
特に分納や追加工事、条件変更のたびに書面を交わします。
紙でも電子でも、「これは万が一の武器になる」という意識が重要です。
支払いサイトの厳守&例外は記録に残す
期日に厳格な管理システムを導入し、例外処置(延長・分割払いなど)は全件記録します。
業界全体で「阿吽の呼吸」ではなく、「データによる客観的与信」と「例外の可視化」にシフトすべきです。
現場レベルの「ヒアリング」でリアルを掴む
取引先の購買担当者だけでなく、現場責任者や経理にも「日ごろの悩み」「資金繰りの状況」を自然な雑談の中で探りましょう。
人間関係が密な製造業だからこそ、些細な不安や社内の空気感から危険な兆候を掴めることがあります。
これがアナログ業界流の「インテリジェンス」です。
バイヤー側から見た「支払い遅延」の真意
バイヤーであっても、実は支払いサイトや取引条件は上層部や財務の指示で、現場ではコントロールしきれない場合があります。
特に上場企業や外資系は全社的なキャッシュフロー管理に敏感です。
あくまでビジネスとして割り切りつつも、現場同士の信頼関係で「これだけは守ってほしい」ラインを共有できると、未然にトラブルを予防できます。
業界全体で「支払いトラブル体質」を脱却するには
従来型バイヤーの意識改革
従来は「いくら値切れるか」「納期をどこまで延ばせるか」が評価指標とされがちでした。
しかし、これではサプライヤー側の資金繰りが持ちません。
これからのバイヤーは、「健全なサプライチェーンの維持」が成果として問われます。
ぶっちゃければ、「サプライヤー潰し」は、将来自分の調達力低下や新製品開発の遅れとなって跳ね返ってきます。
IT・デジタル化による透明性の確保
請求書発行や入金管理をデジタル化し、「未回収リスト」「支払い遅延ランキング」などを見える化することが、業界全体の健全化に有効です。
製造業の現場はまだまだ紙、FAX、電話文化が根強いですが、ここをどうアップデートしていくかが次世代へのカギとなります。
現場体験を次世代へ伝えることの重要性
私は経営層と現場の間で、支払いトラブルの板挟みになった経験が何度もあります。
そのたびに、「むしろ下請け・サプライヤーが泣きを見る構造こそ異常だ」と痛感してきました。
この知恵や教訓を、現役世代やこれからバイヤーを目指す人、サプライヤーになろうと考えている人に伝えることが、日本の製造業が一皮むけてグローバルで戦う条件になると確信します。
まとめ 〜支払いトラブルの本質と向き合おう〜
支払いトラブルは単なる「顧客の不誠実さ」や「信用問題」だけで片付けられるものではありません。
むしろ業界全体の慣習や、バイヤー・サプライヤー双方の意識差、アナログな現場運営から生まれる構造的な問題です。
支払いトラブルのカラクリを理解し、真のリスクを可視化し、契約・現場ヒアリング・IT化で自社を守ること。
その上で、業界全体で意識と慣習をアップデートすること。
これは日本の製造業がこれからも世界で強くあり続けるための、根本的な下地になるでしょう。
製造業の現場から発信するリアルな知恵と経験を、ぜひ日々の業務や今後のキャリア形成に活かしてください。
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