投稿日:2025年9月25日

業務効率化が進んでも収益性が改善しない課題

はじめに:現場で叫ばれる「効率化=収益向上」への違和感

製造業の現場では、AIやIoT、RPAといったキーワードが飛び交い、「効率化」「自動化」が合言葉のように語られています。

しかし、20年以上工場の現場に携わり、調達、購買、生産管理、品質管理、さらには自動化プロジェクトも幾度となく経験してきた私の目線から見ると、「業務効率化=即・収益改善」ではない現実が浮かび上がります。

なぜ、業務をどれほど効率化しても、企業の収益性は劇的に改善しないのでしょうか。
本記事では、昭和的なアナログ体質が根強く残る製造業の現場に潜む収益性向上の本当の壁について、実体験と最新動向を交えながら、ラテラルシンキングの視点で深掘りします。

製造業で働く方はもちろん、バイヤーを目指す方やサプライヤーとしてバイヤーの思考を知りたい方に、必ず役立つ情報となるはずです。

効率化の落とし穴:現場でよくある勘違い

システム導入で現場がほんとうに変わるのか?

新しいシステム導入や自動化機器の設置というと、経営層は「人件費削減」「工数圧縮」「働き方改革」など、メリットばかりに目を向けがちです。

現場も一時的には作業負担が軽減し、「新しい時代の働き方が実現できる」とポジティブな空気になります。

しかし、実際にプロジェクトを回した経験がある方ならご存知の通り、効率化=直接のコストダウンではありません。
ワークフローが一新される場合は、既存設備・業務スキルとのミスマッチや、慣れない運用によるロス、想定外のトラブル増加などの現象が現場で頻発します。

短期的にはむしろコストや工数が膨らみ、「なぜ効率化したのに売上や利益が改善しないのか」と現場が悩むケースが増えています。

「やること自体は同じ」の本質に気付けているか

昭和から続く製造業の多くは、「人手による作業」をデジタルに置き換えただけで、本質的な工程が変わっていないパターンがほとんどです。

たとえば、紙の受発注をEDIにしたり、手作業の検品を画像認識システムに変更しても、「間違いを発見→再チェック→報告→再発防止」といった意思決定プロセスや考え方自体は、昔のままです。

効率化によって「何をなくすべきか」「どこをゼロベースで見直すべきか」を考えず、単に表面を変えただけでは、収益構造へのインパクトは限定的です。

製造業が直面する収益性の壁:根深い3つの要因

1.原価構造の硬直化

多くの製造業の収益性が上がらない最大の理由は、「固定的な原価構造」が挙げられます。

すなわち、大規模な工場投資や自動機の導入、専門人員の確保など「一度作った枠組み」を変えづらい体質に陥ることです。

設備減価償却費や工場維持費、巧緻な全体最適を図った結果としての複雑なサプライチェーンなどが、可変費化しにくく、「効率化が進んでも赤字化リスクは消えない」状況を作っています。

経営が不安定になると、「余剰設備・人員削減」「拠点統廃合」などの大ナタしか打てず、柔軟な経営ができません。

2. サプライチェーンの昭和的発想

例えば「協力会社との長期契約」「系列取引の温存」「価格よりも顔見知り重視」という、いわゆる“昭和の徒弟制”的なサプライチェーンが、今もなお根付いています。

バイヤーの方は「コストダウンしろ」と言われても、実質は既存系列を崩せず値下げ交渉が形骸化していることが多いです。

逆にサプライヤー側も「一度切られたら二度と戻れない」と戦々恐々としながらも、本音では「多少の無駄や非効率があっても付き合い重視」という文化が残っています。

こうした“構造的なムダ”を内包したまま効率化を推進しても、収益構造は大きく変わりません。

3. 顧客単価下落という現実

グローバルで価格競争が激化する今日の製造業市場では、どれほど効率化しても「単価下落」や「受注減」が避けられない状況です。

むしろ「効率化した分、価格を下げろ」と顧客から要求されるシーンさえあり、「コストダウン=利益確保」という等式では立ち行かなくなっています。

閾値未満の利益率で受注を積み重ねても、じりじりと従業員の給与や外注費、研究開発予算が削られる負のスパイラルが起こっています。

「部分最適」から「全体最適」へ:本質的な収益向上のカギ

現場管理者がやるべき3つの処方箋

効率化のジレンマを突破し、収益性を本当に改善するには、以下3つの視点が不可欠です。

1. プロセスそのものの再定義
単なる部分的な自動化やIT化ではなく、「プロセスの断捨離」を検討します。

例えば、工程・部品数そのものを削減するVA/VE活動や、リードタイム・在庫の根本見直しなどです。

「本当に必要な作業・工程はどこか」「なくせる・統合できる作業はないか」。構造的コストの解体と再設計が不可欠です。

2. サプライチェーンのフラット化
慣習的な取引関係を一度白紙に戻し、「最も価値を生み出せるパートナーは誰か」「共に成長できる関係性を構築できるか」を再考します。

パートナーシップ型バイヤーへの進化や、オープンでフラットな取引関係の構築が、ムダや非効率を徹底排除し収益性改善につながります。

3. 価値基準の転換と高付加価値化
単価下落に左右されない事業体質を目指すためには、「効率化」から「顧客への新規価値創造=高付加価値化」へのシフトが求められます。

例えば、IoT活用による遠隔メンテナンス、データ提供型のサービスモデル、またはカスタマイズ小ロット生産やサーキュラーエコノミー型事業など、“売り方や収益源そのもの”を再設計しましょう。

バイヤー・サプライヤーの本音と現場目線

バイヤー視点:「コスト削減=信頼構築」の時代へ

バイヤー職経験者として言えるのは、「価格交渉の限界」を感じている現場担当者が多いことです。

求められるのは単なる「安いサプライヤー探し」ではなく、協業による新価値創出や、共創関係でしか得られない技術・品質・柔軟性です。

現場力や提案力に優れたサプライヤーと組むことで、単なるコスト削減では得られない中長期的な競争力確保につながります。

サプライヤー視点:「バイヤーの思考」を読む時代

サプライヤーは「バイヤーが本当に求めているもの」を冷静に読まなければなりません。

形だけの見積競争や値下げ要請に盲従するのでなく、
「自社ならどう貢献できるか」
「どのような情報を提供すればバイヤーが意思決定しやすくなるか」
「共に収益性向上に取り組めるパートナー」として信頼されるかが重要です。

バイヤーと共にプロセス革新に取り組んだり、作業プロセスを可視化・標準化し、余計な工程や品質トラブルを根絶するアプローチが効果的です。

昭和から未来へ:ラテラルシンキングで“新しい工場像”を描く

“効率化”の再定義から始める

「業務効率化とは、単に作業時間や人員を減らすこと」―― この思い込みから脱却しましょう。

本質的な効率化とは、
「価値を生まない業務・フロー・製品そのものを見直す」
「変化を素早く吸収できる柔軟な組織・収益構造を創る」
この二点に尽きます。

また、AI・自動化に過剰な期待を持つのでなく、「人間しかできない強み(創意工夫・改善活動・現場力)」を最大限に活かす、“人×デジタル”の相乗効果を目指すことも重要です。

“バリューチェーン再設計”という挑戦

自社だけで収益性向上を完結させるのは今や時代遅れです。
サプライチェーン全体を“共創の場”へと転換し、「一社」から「現場チーム全体」で最適化を図る必要があります。

新しい購買スタイル・共創モデルを模索し、バイヤー・サプライヤー・現場管理者が垣根を超えて課題解決に取り組みましょう。

まとめ:真の収益向上とは「新しい価値提供業」への変革

業務効率化は、収益性改善の一つのツールに過ぎません。

「なぜ効率化を目指すのか」
「本当に収益構造を変える抜本的な改革になっているか」

現場目線で問い直し、「新しい価値提供業=真に選ばれる工場」への進化を目指すことが、“昭和の常識”から脱却し、強い製造業へと変革するカギです。

現場でしか得られない知見・改善力を最大限に活かし、業界の発展に寄与していきましょう。

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