投稿日:2025年9月26日

製造現場で見落とされがちなセクハラ・マタハラの実態

はじめに:なぜ今、製造現場でセクハラ・マタハラを語るのか

近年、働き方改革やダイバーシティという言葉が広まり、あらゆる業界で多様な人材の活用や職場環境の改善が叫ばれています。
しかし一方で、私たち製造業の現場では、まだまだ昭和的な価値観やアナログな体質が根強く残り、セクシャルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)といった労働環境の課題が軽視される傾向があります。
特に現場作業員や工場スタッフ、調達購買・品質管理部門といった日々の業務に追われる方々は「自分たちの現場には無縁だ」「昔からこうだったから」と、問題を直視しない傾向が強いです。

しかし、実は “見えにくいだけ” で、製造業現場のセクハラ・マタハラは表面化せず潜行していることも多々あります。
本記事では、約20年以上にわたり製造業の第一線・管理職を歩いてきた私が、現場で実際に見聞きし、対応した事例や課題を元に、その実態・背景・対策を掘り下げます。

バイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの視点を理解したい方にも必見の現場目線で、今後の対策に役立つ指針をお届けします。

製造現場“あるある”の典型例 〜セクハラ・マタハラの種類〜

なぜ“うちの職場には関係ない”と考えるのか

工場や製造現場で働く方々の特徴として、ベテランの男性比率が高く、「黙って仕事をこなすことが美徳」「冗談や雑談、多少のからかいは当たり前」という昭和的な文化が根強く残っています。
また女性や若手社員がまだまだ少数派の現場では、“少しぐらいなら大目に見られる” “昔からある職場の雰囲気だし” という空気が蔓延しやすいです。

しかしながら、どんなに小規模であっても、パートや派遣社員、女性管理職の増加に伴い、見過ごされたセクハラ・マタハラは様々なトラブルの火種となります。

製造業現場で頻出するセクハラの例

– 身体的特徴や服装に対する不用意な発言・評価
– 女性従業員へのしつこい食事や飲み会への誘い
– 性的な冗談、下品な話題で盛り上がる
– パートや派遣女性への職場内での監視やプライバシー侵害
– “女性だから” “若いから” といった理由で仕事を制限・過小評価する

特に現場の休憩室や更衣室、作業前後の雑談タイム、飲み会の席などは注意が必要です。
トップダウン型の体質や派閥、現場の“親方・兄貴分文化”も、無意識の差別や強要につながりやすいテーマです。

実は多いマタハラの実態

マタニティハラスメント(マタハラ)の問題は、仕事柄「体力が重要」「急なシフト変更が難しい」などの事情も影響し、とかく“我慢すべきこと” “配慮すると現場が回らない”と片付けられがちです。

– 妊娠・出産を理由にした職務制限や不当な異動、評価の引き下げ
– 産休・育休取得の希望を伝えるだけで白い目で見られる
– 「迷惑をかけるな」「戻って来ても仕事はない」などの無言の圧力
– 子どもの体調不良などで早退を願い出ると嫌味・冷遇

これらは立派なマタハラです。
昭和から続く“家庭は女の仕事”といった無自覚なバイアスのもと、不利益が生じてしまう現場もまだまだ少なくありません。

セクハラ・マタハラがもたらす現場への深刻な影響

労働生産性・品質低下の隠れた要因となる

ハラスメントが生じている現場では、従業員が本来の力を十分に発揮できなくなります。
「辞めたいけど生活のため我慢している」「何かあっても相談できる雰囲気ではない」という職場ほど、隠れた離職希望者・精神的に疲弊した社員が蓄積しているケースが多いです。

結果、現場のモチベーションが下がり、品質トラブルや指示ミス、一時的な生産効率の低下が連鎖することも。
人手不足が招く慢性的な残業・貼り付け業務によって、さらにセクハラ・マタハラを見逃しやすい悪循環となります。

サプライチェーン全体へも影響を与える

調達・購買部門や、サプライヤー企業とのやり取りが日常的な現場では、外部からの監査や取引先からのイメージ・評価も重要です。
とくにグローバルなサプライチェーンを持つ大手企業では、コンプライアンス違反やハラスメントの発覚によって取引停止・損害賠償など、経営全体に損失が広がるリスクも否定できません。

バイヤーとして取引先の労務管理状況を正しく把握しておくことが、今後はさらに“必須スキル”となっていきます。

なぜ昭和的・アナログな現場に根付くのか?課題の本質を考える

“育ってきた現場文化”の壁

管理職やベテラン従業員の多くは、「自分たちも同じようにされてきた」「むしろ厳しい上司が部下を一人前にする」といった成功体験を持っています。
このため、「変わる必要がない」「若手に甘すぎる」と抵抗感を持ちやすいです。
同時に、現場はベテランが中心で管理部門との距離があるため、ハラスメント相談窓口の設置や企業の“お題目”としての制度導入だけでは、現場に浸透しづらい現実もあります。

マニュアルや研修の限界

一度だけの研修、形式的な社内通達やポスター掲示程度で“外圧”による改善を図っても、日々の忙しさや忖度・同調圧力で形骸化しやすいのが「現場」です。
実際に行動変容を促すには、具体的な事例に基づく研修、現場リーダーの本気のメッセージ、職場ミーティングでの定期的な振り返りなど“納得”と“共感”を生み出す工夫が欠かせません。

改善への道:現場が主体となる具体的なアクション

トップダウンとボトムアップの両輪で推進する

会社として規則や指針を明確に示す“トップダウン”の強制力も必要ですが、“現場をよく知る担当者” “同じラインで働く班長”など、日々の顔触れによる“ボトムアップ”の気付きと提言が本当の意味での改革となります。
たとえば、

– 月に一度、現場ミーティングで困りごとや職場環境の気付き・匿名アンケートを実施する
– 管理職・リーダー向けに、具体的なハラスメント事例(事実ベース、他社で実際に起きた例も含む)を共有する
– 派遣・パート社員含め多様なメンバーから現場レポートを募り、環境改善案へ活かす

などが有効です。

現場リーダーが“語る”ことの効果

私自身の経験から強く感じているのは、「現場リーダーが自分の言葉で語る」ことの圧倒的な影響力です。
管理部門から一方的にレクチャーするのではなく、現場を預かる班長やリーダーが「自分も最初はこうだった」「こんな失敗があったけれど、今はこう考える」と経験や気持ちを共有すると、現場の空気は確実に変わります。

ときにはリーダー自らが「わからないことは一緒に考えたい」「気になることがあれば自分にも教えてほしい」と宣言することで、相談しやすい風土が生まれます。

“見える化”の力を活用する

改善のポイントは、“誰が、いつ、どんな点を気にしているか”を可視化することです。
たとえば、

– ハラスメント相談窓口や対応の流れを現場にも掲示
– 相談があった例の一部(守秘義務に配慮した形で)を現場向けに共有
– 改善策やトラブル再発防止策を、週報や社内ニュースとして定期配信

など、“本当にやっているんだ”という雰囲気が自然と拡がっていきます。

バイヤー・サプライヤーの立場で考えるべきこと

バイヤーには現場観察力・質問力が求められる

調達購買やバイヤーが現場パートナー・サプライヤーと信頼関係を築く上でも、単なる価格交渉だけでなく、
「この工場は本当に従業員が安心して働けているか?」
「女性や若手の声が現場に届いているか」
という”現場観察力”が問われます。

また、監査や現場訪問時には“働きやすさ”や“職場環境”についてもきちんと質問し、万一のトラブル時には迅速に協力できる体制作りが欠かせません。

サプライヤーも“自社のブランド”を守る意識を

一方、サプライヤーの立場としては、自社の労務管理・ハラスメント対策が信頼度やブランド価値に直結する時代です。
「人材が安心して働ける職場」「何かあれば相談できる仕組みがある現場」として、取引先・バイヤーから積極的に評価されるポイントを明確にしていく必要があります。

具体的には、

– コンプライアンス研修の実施・記録
– ハラスメント撲滅に向けた具体的な取り組み事例
– 多様性のある現場運営の“数字”や“声”をデータや事例として蓄積・可視化

など、外部に対しても“見せる化”することが、今や新たな競争力となり得ます。

まとめ:今こそ、現場から製造業の“新しい常識”を発信しよう

製造業の現場が持つ力は、日本のものづくりを支えてきた誇りそのものです。
だからこそ、従来の“あたりまえ”に疑問を持ち、時代に即した働き方・環境にアップデートしていく責任があります。

セクハラ・マタハラは「うちには関係ない」「一部の人の問題」と片付けるのではなく、誰しもが“当事者”になりうるテーマです。
特に、ベテラン職人の知恵や現場リーダーの人間力、バイヤーやサプライヤーとしての現場観察力を次世代に受け継いでいくためにも、今こそ“新しい常識”を発信する力が問われています。

現場を第一に考える皆さんの“気付き”と“行動”が、製造業の未来、そして働くすべての人の安全と誇りにつながると信じて、現場の仲間とともに一歩踏み出してみませんか。

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