投稿日:2025年9月27日

女性社員に偏る雑務の押し付けがハラスメントになる理由

はじめに ― 製造業現場で根強く残る「女性=雑務」意識

日本の製造業界の現場では、いまだに「雑務は女性がやるもの」といった固定観念が根強く残っています。
会議の議事録作成や来客対応、資料整理、さらには備品の管理やお茶出しといった業務を、女性社員に当然のように割り振ってしまうケースは少なくありません。

これは、昭和の高度経済成長期に根付いた「女性=サポート役」「男性=主軸プレイヤー」といった性別役割分担の名残とも言えるでしょう。
しかし、現代社会では男女平等が法律でも謳われており、ダイバーシティ経営が製造業でも進められています。
にもかかわらず、こうした旧態依然とした雑務の押し付けが現場で続けば、それは立派なハラスメント(職場いじめ)となりうるのです。

本記事では、なぜ女性社員への雑務の押し付けがハラスメントになるのか、その背景やメカニズム、現場で起きやすいパターン、そして解決のための具体的アプローチを現場目線で掘り下げます。
また、調達購買、生産管理、品質管理の各部門がどんな影響を受けるか、バイヤー志望者やサプライヤーの皆様にも有用な知見を提供します。

なぜ「雑務の押し付け」がハラスメントとみなされるのか

雑務=重要な業務という誤解と現場の実態

まず前提として、会議の議事録作成や備品の管理、来客対応といった「雑務」が不要な仕事であるとは言えません。
むしろ工場の生産現場や管理職の立場を経験してきた筆者としては、こうした業務が正しく行われることで、現場がスムーズに回る基盤が整うと実感しています。
ですが、問題となるのは「誰がどのような基準で割り当てられるか」です。
職務として明確に定義され、ジョブディスクリプションに記載されているならば、偏りは生じません。
しかし現場では「女性だから」「新人だから」と曖昧な基準で仕事が振られるケースが散見されます。

このような属人的かつ無意識な押し付けがハラスメントになりやすいのです。

ジェンダーバイアスによる職業差別

女性社員に対し「やっておいて」「悪いけど頼むね」と日常的に指示される光景。
これは単なる気遣いや善意の範囲を大きく逸脱しています。
本人の適性や意欲を考慮せず、性別だけで役割を決めつけてしまうのは、ジェンダーバイアス(性別による無意識の偏見)に他なりません。

日本の労働基準法や男女雇用機会均等法においても、性別で業務内容に差を設けた場合は明確な違法となります。
近年、企業のハラスメント相談窓口に「女性だけが雑務係扱いされている」「上司が当たり前と思っている」などの声が多く寄せられており、企業に厳しい指導が入る事例も出てきました。

本人の成長機会・キャリアアップを奪うリスク

雑務の多くは、昇進やスキルアップに直結しづらい側面があります。
調達購買や品質管理、生産管理など、より専門的な経験と知識を積むべき時期に雑務に時間を取られ続けてしまえば、自身のキャリア形成に大きな壁となります。

実際、現場データでは「雑務に従事する時間が多い女性社員ほど管理職昇進が遠のきやすい」という傾向が見て取れます。
こうした機会損失もまた、間接的に女性のキャリアを制限する、職業差別型ハラスメントの一種なのです。

現場で頻発する「雑務押し付け」パターンとその影響

1. 部署内ルーチン雑務の女性社員固定化

製造業の現場では、部署内で毎日発生する備品管理や作業記録、帳票整理、取引先への資料送付といった「ルーチン化された雑務」がしばしば発生します。
「去年もその前も女性社員がやっていた。だから今回も…」という前例主義で、業務分担をアップデートしないまま慣習が続いていることが多いです。

これには深刻な弊害があります。
本来、雑務の効率化や自動化を目指すべき現場が、役割分担を見直さないことで人的リソースの無駄遣いとなり、コストパフォーマンス低下や業務改善の遅れにつながるのです。

2. 緊急時対応・イレギュラー対応の「とりあえず女性に頼む」構造

納期直前の書類修正や大口案件時のサプライヤー連絡、工場見学時のお茶出しなど、イレギュラーな業務も女性社員に集中しやすい傾向があります。
男性社員が技術的な対応や交渉、判断の場面へ優先され、女性社員がいわゆる「裏方業務」を担わされてしまう。
本来であれば、緊急性や専門性で正当に割り振るべき仕事です。
それを固定化するのは組織として大きな損失です。

3. 若手社員・パート社員(特に女性)への過剰集中

「若いから覚えやすいでしょ」「パートさんだからこのぐらいで…」と、女性の若手社員やパート社員に細々とした雑務を丸投げしてしまうケースも。

こうした押し付けは、現場のモチベーション低下を招きます。
また、将来的にその社員が「この会社では女性は評価されない」と見限ってしまい、優秀な人材流出に直結しかねません。

なぜ「雑務のジェンダー固定」は製造業の未来に悪影響なのか

現場改善と自動化推進のブレーキに

熟練の工場長として実感するのは、現場雑務を特定の役割に固定してしまうと新しい改善案や自動化の発想が鈍ることです。
「このまま女性社員が担当して回っているからいいや」となってしまい、備品管理や記録作業などのルーチンワークへの投資や効率化が置き去りにされがちです。

実際、工場のDXプロジェクトや自動化推進では、「誰がどの業務を担っているか」のタスク見直しが最初の一歩となります。
ジェンダーによる雑務担当の固定化は、変革への障害であり、事業の持続的成長に対して大きなリスクとなってきます。

調達・サプライチェーン全体のコミュニケーションロス

バイヤーやサプライヤーの方々が現場を訪れる際、「女性は雑務係」とのイメージが残ったままだと、本来コミュニケーションすべきキーパーソンとの議論が希薄になります。
サプライヤー側から見れば、「担当女性が本来持つ技術知識や購買知見を評価せず、事務連絡的な使い方しかしない」など、パートナーシップの構築に大きな損失を生みます。

調達購買部門としても、現場で誰が何を担っているのか公正に可視化し、多様な視点をビジネス価値に活かすことが不可欠です。

ダイバーシティ経営、人的資本経営の機会損失

いまや世界的にダイバーシティ経営や人的資本経営が標準となる中、性別や年齢による無自覚な役割分担は企業イメージを大きく損ないます。
人的資本経営の観点からも、「誰もが専門性を磨きプロ意識を高める」ことが企業の競争力向上の源泉です。
雑務押し付けのような慣習が残っていては、多様な社員の能力発揮が不当に妨げられます。

現場での解消に向けて ― 実践的アプローチ

1. 全業務タスクの「棚卸し」から始める

まず、部署や工場単位で全ての業務タスクを洗い出してください。
定期的に担当者、頻度、工数、専門性の有無をリストアップしましょう。

そして「なぜその人がやっているのか」「他のメンバーでも担当できないか」をゼロベースで見直します。
このプロセスは自動化推進や業務改善にも直結します。

2. 持ち回り・ローテーションを徹底

「会議の議事録は女性」「お茶出しは新入社員」などの固定をやめ、チーム全体で持ち回りやローテーションを徹底しましょう。
1ヵ月ごと、プロジェクト単位など期間を決めて担当することで、属人的な固定化が避けられます。
この仕組みは、若手育成や業務理解促進、人間関係の活性化にもつながります。

3. 雑務の「自動化・システム化」を現場発で推進

日常的な備品発注や郵送依頼、回覧・通知といった作業は、IT化やシステムツール導入、RPA活用で効率化できるものが多数あります。
現場メンバーから業務改善提案を積極的に募り、「どうすれば雑務が減るか」を全員で考えましょう。

工場内におけるIT推進プロジェクトのリーダーを、女性社員が担うのも有効です。
「雑務の押し付けられる側」から「業務設計する側」への主役交代は、本人のモチベーション向上と社内イノベーション加速に非常に効果的です。

4. 評価制度の見直しと経営層メッセージ

人事評価制度においても「雑務」や「サポート役」は本来等しく正当に評価されるべき項目です。
ただし、その担当者を性別や属性で固定しないことが重要です。
また、経営層は「性別での担当分けはやめよう」と明確なメッセージを現場に発信しなければなりません。

まとめ ― 製造業の進化のために、アナログの殻を壊す

女性社員に偏る雑務の押し付けは、すでに時代錯誤的なハラスメント行為です。
しかし、その背景には日本製造業独自のアナログな慣習や、「現場はこういうものだ」と思い込む人間心理も複雑に絡んでいます。

まず現場でできることは、「当たり前」と思っていた雑務担当の仕組みを一度白紙に戻すことです。
全てのメンバーが自分ごととして問題意識を持ち、効率化や公正な業務分担を推進するとともに、人的資本の活用・現場力の向上へと進んでいきましょう。

バイヤー志望者やサプライヤーの方にとっても、公正で効率的な現場は信頼につながり、長期的なパートナーシップの礎になるはずです。

昭和のアナログから脱皮し、ジェンダー問わず多様な社員ひとりひとりの可能性を最大化する。
それこそが、製造業が次の地平線へ進むための「現場発ラテラルシンキング」だと私は確信しています。

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