デザイン不足でプロジェクトの一体感が生まれない問題

デザイン不足がもたらすプロジェクトの一体感喪失とは

製造業、とりわけ日本の重厚長大型の現場では、「デザイン」という言葉が軽視されがちです。
ここでいうデザインとは、見た目の美しさを指すだけではありません。
業務フローやコミュニケーション、そしてプロジェクト全体の設計思想までを含めた“広義のデザイン”を指します。

私は20年以上、調達購買・生産管理・品質管理・工場の自動化と、現場の最前線で仕事をしてきました。
数多くのプロジェクトに参画し、その度に“デザインの力”の有無がプロジェクトの成果、ひいては現場の雰囲気や一体感に強烈な影響をもたらすことを痛感しています。

本記事では、昭和のやり方から抜け出せない頑固さ、縦割り文化の中でなぜ一体感が生まれにくいのか、デザインの不足がどのようにプロジェクト推進の足かせになるのか、さらに実践的な解決アプローチまでを現場目線で解説します。

なぜ昭和的製造業ではデザインが軽視されがちなのか

プロダクトアウト思考の罠

日本の製造業は“良いモノさえ作れば売れる”という、プロダクトアウト型の考えに根強く支配されてきました。
この考えが、全社的な共通認識やチームワークよりも「設計」「製造」「購買」など各部門ごとの職人気質を重視させてきました。

大手自動車メーカー在籍時代、多くの現場で聞いたのが
「ウチは昔からこうやってやってる」
「とりあえず図面通りにつくっておけ」
という声です。
この姿勢は、一見堅実かつ効率的。
しかしながら、意思の統一やプロジェクトのゴールイメージが社内全体に明確に伝わらないという落とし穴があります。

サイロ化と縦割りの文化

技術・製造部門と購買部門、営業部門が“自分たちの役割”だけに注力してしまう。
昭和の成長を支えた合理主義は、やがて部門間の壁を厚くし、情報や意見の交換をしにくい環境を生み出しました。

現場から見ると「設計から真意が伝わってこない」、「購買はコストしか考えない」といった声が多く聞こえます。
部門を超えた全体像の“共通デザイン”が描かれていないため、各プレイヤーが各々の目的だけを追求し、大局観が失われる事態になります。

アナログな進行管理とコミュニケーションの限界

未だにFAXや電話が主役、エクセルでの手書き修正、打ち合わせ議事録も紙で回覧…。
最新のDXツールを導入している会社も、案外現場の運用までは浸透していません。
情報共有や意思決定のための“仕組み（デザイン）”不足が、プロジェクト推進力の低下に直結しています。

デザイン不足によりなぜ一体感が生まれないのか

プロジェクト全体像の『絵』が描けない現場

プロジェクトを成功させるためには、参加する全てのメンバーが同じゴールを共有し、道筋を体系的に理解する必要があります。

現場で起こりやすい典型例として、
– 「プロジェクトの目的が曖昧なまま始動」
– 「どんな成果物を目指すのか具体的なイメージが湧いていない」
– 「各部門がバラバラに動いてしまう」

こうした現象の根っこには、プロジェクト設計自体の“デザイン不足”があります。
共通言語や可視化されたプロジェクトマップがなく、ゴールイメージが現場関係者一人ひとりに浸透しません。

共感と納得感の希薄化

人は誰しも「自分がなぜその作業を任されているのか」「誰のためのアウトプットなのか」が明確でないと、やらされ感に支配されていきます。
つまり、プロジェクト全体のデザインが不足していると、工程ごとの担当者が“自分の役割の意味”に疑問を持ち、手抜きや責任転嫁、最悪モチベーションの著しい低下につながります。

一体感とは、単に会議を多く開けば出てくるものではありません。
「我々は一つのゴールを、同じ地図と方位磁針で目指している」
という意識が全体に行き渡ることが、実践的な意味でのチームワークなのです。

一体感を生み出すプロジェクトデザインの再構築

ビジュアルマネジメントの徹底

数十年前、あるライン新設プロジェクトを任された際、私は“全員が一目で全体像をイメージできる”ことを最優先と考えました。
ホワイトボード上に大きな工程マップを描き、各担当が自ら付箋で“自分の作業”を貼る。

開始前に「このプロジェクトはなぜ必要か」「どんな未来を描くのか」を視覚化した資料を用いて全員でディスカッション。
イラストやカラフルなチャートで“ビジュアル化”することで、現場のパートスタッフまでが自分ごととして認識してくれるようになりました。

情報や設計思想を「伝える」のではなく「見える化」して皆に“理解してもらう”。
ビジュアルマネジメントは、現場の暗黙知・属人化を乗り越える有効なアプローチです。

巻き込み型のプロジェクト設計

部門横断でプロジェクトが進む際には、従来の“指示待ち”スタイルから、「早い段階でできるだけ多くの関係者を巻き込む」ことが重要です。

生産現場の作業リーダー、購買担当、品質管理、場合によってはサプライヤーも加え、計画段階から一緒に“プロジェクトの設計図”を練り上げる。

このやり方は一見非効率ですが、途中での変更対応や「現場でしか分からない問題」の予防につながります。
関係者間で意見の相違が起きても「自分が決めたことだから」と責任感も生まれ、強固な一体感に結実します。

コミュニケーション設計というデザイン思考

プロジェクト推進の本質は“どれだけ良質なコミュニケーションが取れるか”に尽きます。
昭和的な「口をはさむな」「言われた通り動け」の空気を変え、PDCAを回すサイクルの中に“定期的なフィードバック会議”や“社内SNS、掲示板”などの工夫を投入しましょう。

情報を一元管理し、リアルな声を収集・即時反映できる環境を構築することは、“プロジェクトを設計する＝デザインする”という観点からも必須です。

調達購買やサプライヤーの視点から考えるプロジェクト一体感

バイヤー目線：コストダウン至上主義からの脱却

調達購買は「いかに安く仕入れるか」だけに目が行きがちです。
しかし本来は、仕入れ先と恊働して最適なサプライチェーンを構築し、“プロジェクト目標を共有”することがバイヤーの使命です。

もし調達がサプライヤーに“なぜこの要件が必要か”や“最終製品にどんな意義があるのか”を伝えられる環境があれば、価格交渉だけでなく、品質や納期・技術面でも協力が得やすくなります。
これもまた、“関係性のデザイン”といえるでしょう。

サプライヤー目線：顧客の一体感を観察せよ

サプライヤーである立場においては、
「顧客がバラバラなことを言ってくる」
「A部門とB部門で要求仕様が違う」
「誰に承認を取れば正しいのかわからない」
といった混乱に直面した経験があるはずです。

これは、発注側の組織内部で“プロジェクトデザイン”が欠けている典型例です。
サプライヤーは、ただ言われた通り作るのではなく、「プロジェクトの最終目的」「バイヤーの真意」を常に意識し、場合によっては主体的に提案をしていく姿勢が求められます。
“顧客の一体感の有無”はサプライヤーのビジネスチャンスにも密接にリンクします。

昭和的価値観からの脱却と未来志向のデザイン

昭和の成功体験に固執している間は、プロジェクトに一体感や新しい風は生まれません。
本当の意味でのデザインとは、「全体最適を志向する設計思想」「全員が目指すべきゴールの“見える化”」「役割と意味に納得感を持つこと」です。

現場やサプライヤー、バイヤーといった立場は違えども、ゴールへの道筋がデザインされ、一人ひとりが“自分の仕事の意義”を理解できたとき、製造業の現場に真の一体感はもたらされます。

まとめ：新たな地平線を切り開くための実践的アクション

– プロジェクト全体像を見える化し、現場の隅々まで浸透させる
– 早い段階で関係部門・外部パートナーも巻き込む共創型プロジェクトを設計する
– コミュニケーションの仕組みをデザインし、情報・意見がオープンに流れる文化を醸成する
– バイヤーもサプライヤーも“ゴールの意味”を共有し、ともに最適解を探る

この4点を軸に、一人ひとりが“現場目線のデザイン意識”を持つこと。
アナログからデジタルへの過渡期にある今こそ、ラテラルシンキング＝既存の枠組みを横断し、新たな地平線を開拓する心構えが不可欠です。

プロジェクトの一体感は、与えられるものではなく、全員で設計し創り出すもの。
現場出身者だからこそ伝えたい、実践的でリアルな「デザイン発のものづくり改革」を、今一度皆さんと一緒に進めていきましょう。