投稿日:2025年9月28日

社員教育を軽視して新システムが活用されなかった事例

はじめに:新システム導入と社員教育の本当の価値

製造業の現場では、近年多くの企業が生産性向上や省力化、品質改善を狙いとして、新しいシステムやITツール、機械の導入に積極的です。
しかし、現場で実際にこういった新システムを活用できず、期待した効果がまったく得られない事例をしばしば目にします。
その原因の多くは「社員教育の軽視」にあります。

本記事では、現場目線での失敗事例と要因の分析、さらにアナログ志向が残る製造現場での新しい教育の在り方まで、これまで現場で試行錯誤してきた経験を交えて、深掘りしてご紹介します。
バイヤーやサプライヤー、製造業従事者の皆様にとって、現場改善のヒントとなれば幸いです。

社員教育を軽視した結果もたらされた“宝の持ち腐れ”

導入にかけた莫大なコスト、なのに使われない新システム

ある中堅メーカーでの事例を紹介します。
この企業では、業務効率化を目的に、最新の生産管理システム(MES:Manufacturing Execution System)を数千万円かけて導入しました。
導入の理由は明確で、「現場作業の進捗や不良率などをリアルタイムで可視化し、迅速かつ柔軟な生産計画を遂行できる体制」にしたいという経営トップの強い意向がありました。

しかし、導入から1年が経った現在、現場では紙の工程表が相変わらず貼り出され、口頭や手書きメモ中心の運用が続いていました。
理由を聞いてみると、「画面がたくさんあって正直よく分からん」「入力に時間がかかる」「やらなくてもいいと言われた」といった声が目立ちました。

現場の“負のマインドセット”が生まれるまで

この企業では、システム導入時の説明を2回(各1時間ほど)実施しただけで、特にフォローアップも行われていませんでした。
また、「新しいことを覚えるのは大変」「元の方法で十分仕事ができていた」という昭和的な現場文化も根強く、システムを使った人がトラブルを起こすと誰かが「だから余計なことはやめろ」と言い出す始末でした。
システムに事実上“フタ”がされ、誰も活用しない状態に陥ったのです。

これは「現場は変化を嫌う」という単純な話ではありません。
新しいシステム導入によって現場の人たちは、これまで自分なりの工夫で守ってきた業務スタイルを否定されたように感じてしまう場合があります。
また、「教えられたことの繰り返し」だけで新システムを運用しようとしても、トラブルが起きた時に対処できないため、結局“使えば使うほど現場に負担”となり、負のマインドセットが醸成されます。

なぜ製造業では「社員教育」がおろそかになるのか

教育=コスト、という思い込みが根強い

筆者が管理職として経営層と現場の両方を経験する中で痛感したのは「教育投資の捉え方」の違いです。
経営層は新システムを「一度設定すれば自動的に効果が出る省力化ツール」として捉えがちです。
それに対して現場は、目の前の仕事を止めて研修や学習にリソースを割くことに現実的な抵抗感を持っています。
「現場抜けたら誰が作業するの?」「生産止めるのか?」といった声が上がり、つい教育が後回しになります。
また、現場のノウハウや勘どころは“背中を見て覚えろ”という空気が色濃く、マニュアルや体系的な教育が未整備な企業も多いのが実情です。

アナログ文化の影響と“自分ごと化”の欠如

昭和から続く“現場主義、現物主義”の文化は、ある種のものづくり現場の強みでもあります。
しかし、急速な自動化やIT化の波に乗り遅れる要因にもなっています。
現場担当者は新システムを単なる「業務負担」と感じがちで、「自分たちの働き方がどう変わるか、良くなるのか」に納得しないまま教育を受けさせられるため、本質的な活用には至りません。

また、営業や調達、バイヤー、サプライヤーといった部門間の“壁”も新システム定着を阻む一因です。
例えばサプライヤー目線から見れば、バイヤーがどんな課題意識で新しいシステムや運用を望んでいるのか、なかなか情報が降りてこない現実も多いものです。
部門を超えたコミュニケーションロスが、往々にして新システムの“宝の持ち腐れ”につながっています。

現場発・実践的な「使える」教育の仕組みとは

教育のゴールは「自分ごと化」~現場が主役の設計~

製造現場での社員教育をただの「座学」「説明会」で終わらせないためには、“現場自身が自分ごと化”できる仕掛けが不可欠です。
成功している企業ほど、システムの設計段階から現場リーダーやキーパーソンを巻き込みます。
たとえば、実際にどの画面が分かりにくいか、現作業との違いは何かを「見える化」し、現場からの改善提案を出しやすい雰囲気を作ります。
その上で「トレーナー制度」「現場OJT+伴走フォロー」を組み合わせて運用推進役を設けるのが効果的です。

アナログ現場でも即効性のある教育手法

アナログ度合いが特に高い現場では、以下のような教育方法が実践的で即効性があります。

ピアラーニング(相互指導)
新人や“IT慣れしていない”ベテランがペアで小さなタスクを分担しながら、自然に新しいシステムの使い方を身につける

現場eラーニング+オンサイトハンズオン
短時間の動画・簡単なチェックリストなどを活用し、現場作業の合間に新システム利用を反復練習

「困りごと相談会」実施
定期的に現場で気軽に課題を話せる場を設け、システム担当者も参加して「現場のリアルなつまずき」を即時解決する

こうした“現場主義の教育プログラム”は決して贅沢品ではありません。
「新システムを導入したら、まず使う側である現場社員が主役」という価値観の転換が効果発現の第一歩です。

バイヤー・サプライヤーの立場から見た「社員教育」

バイヤーが重視する“協働パートナーとしての成長”

調達部門やバイヤーの立場からみても、サプライヤーが新たな生産管理システムや品質管理ツールを「本当に使いこなしているか」という観点は非常に重要です。
システム未活用による納期遅延や品質偏差は直接的な取引コスト増を招きます。
また、教育投資を惜しんでいる企業は「改革マインドが弱い」あるいは「持続的成長への投資意思が乏しい」とみなされ、サプライヤー選定の際に不利になるリスクがあります。

サプライヤーが知っておきたいバイヤーの本音

バイヤーが新システムを求める裏には、「正確な納期回答を得たい」「不具合の未然防止を徹底したい」「コスト管理を透明化したい」といったリアルな現場課題があります。
教育や運用の“詰めが甘い”と、せっかく受注した案件で「データが見られない」「現場が言葉だけでごまかす」状況となり、信頼に大きな亀裂が入りかねません。

逆に、現場主義の工夫を積み重ね“社員教育に本腰を入れているサプライヤー”はバイヤーからの評価が一気に高まります。
定着した教育プログラムやフォロー体制こそが、「選ばれるサプライヤー」への近道です。

今後の製造業に求められる社員教育の新たな地平線

「変化する現場力」を身につけた組織は強い

さらにラテラル(水平的)な視点で考えると、今の製造業現場は“ITリテラシー”や“自動化技術”だけでなく、「未知の課題に現場が自ら考え、解決していく力」が強く問われています。
社員教育は単なるマニュアルの伝達ではなく、「変化を前向きに受容する現場文化=学習する現場」づくりの重要な一歩です。
このフィールドで機能する新しい教育とは、誰かが与えるものではなく、「現場が先生・現場が生徒」となるような、双方向性・主体性が鍵となります。

教育を「守り」ではなく「攻め」の経営資源へ

最後に強調したいのは、社員教育を「現状維持のため」ではなく、「より強い現場力・競争力進化のための攻めの投資」として位置付け直すことの重要性です。
新しいシステムを単なるコストダウンや自動化の道具扱いするだけでは、他社と同じ道を歩むだけです。
社員一人ひとりが新たなシステムを正しく使いこなせる現場づくりこそ、今後の製造業の競争力の本質です。
現場の声に耳を傾け、教育プログラムを都度ブラッシュアップしながら、現場目線での価値創造を実現していきましょう。

まとめ:人とITの融合が製造業の未来を切り拓く

製造業の今後を見据える上で、“新システムの活用”と“社員教育の重視”は切っても切れません。
そのポイントは「現場が主役」である教育の場をつくること、そして部門を超えたコミュニケーションを強化していくことにあります。

教育をおろそかにした宝の持ち腐れを繰り返さないために、現場・バイヤー・サプライヤーが一体となった新しい学びの文化を築いていく必要があります。
これからの時代を生き抜くため、今まさに現場の一人ひとりが“自分ごと”としてシステムに向き合う、その最初の一歩を大切にしていきましょう。

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