投稿日:2025年9月29日

現場における「理不尽な叱責」が若手社員を潰す実態

はじめに:昭和的価値観と現代のギャップ

製造業の現場では、今もなお「理不尽な叱責」が日常的に行われている現実があります。

私が20年以上、現場で身を置いて感じたことは、技術や設備がどれほど進化しても、人の意識はそう簡単には変わらないということです。

特に、昭和から続く「根性論」や「厳しさこそが成長の近道」という価値観は、アナログ主体の業界に色濃く残っています。

それにより、若手社員が理不尽な仕打ちを受けたり、心が折れるケースが現場では後を絶ちません。

この記事では、現場目線で「理不尽な叱責」が若手社員に与える影響、その背景、そして変化の必要性について掘り下げていきます。

なぜ理不尽な叱責が製造業で蔓延するのか

根性論の呪縛

製造業の多くの現場では、「失敗は許されない」「できて当たり前」とする風土が根付いています。

これは、ミスが製品品質や納期遅延に直結しやすい、という産業構造上の理由もあります。

しかし、その結果として、「怒鳴る」「人格を否定する」「質問することすら叱る」といった理不尽な叱責が容認されがちになっています。

教育コストの無自覚な転嫁

製造現場では、目の前の生産を止められないため、丁寧な教育や説明の時間が惜しまれる傾向にあります。

そのため、若手が理解できないことやミスをしたとき、「なぜできないのか」と強く問い詰める風土が生まれやすいのです。

本来であれば、分かりやすく教える側の責任があるはずですが、そのコストを理不尽な叱責でごまかしてしまうケースも多く見られます。

上司もまた被害者である現実

特筆すべきは、上司自身も過去に同じような厳しさを受けて育成されてきた点です。

結果として、「これが普通」「これが現場だ」という思い込みが世代を越えて引き継がれ、「楽して仕事を覚えるな」と新たな理不尽が連鎖するのです。

理不尽な叱責が若手社員に与える影響

自信の喪失と意欲の低下

現場で日常的に理不尽な叱責を受けた若手社員は、自信を失うだけでなく、「何をしても無駄」「いくら頑張ってもどうせ怒られる」と自己肯定感が下がります。

その結果、挑戦や成長に対する意欲が低下し、「言われたことしかしない」「最低限の仕事しかしない」人材になってしまいます。

情報共有・問題提起の停滞

何か問題を見つけても「また怒鳴られるのでは」と委縮してしまい、報告・連絡・相談が滞ります。

それにより、小さなミスが大きな品質事故につながるリスクも高まります。

現場力こそが製造業の生命線であるはずが、こうした雰囲気の蔓延により逆に現場が弱体化しているのが実態です。

離職率の上昇と人材難

今や若手社員が最初に現場でぶつかる壁が「理不尽な叱責」です。

一度心が折れると、忍耐よりも「転職」や「他業種へのチャレンジ」にシフトする人材が増えます。

これにより、20代や30代の定着率がどんどん下がり、人手不足に拍車がかかる悪循環が続いています。

サプライヤーやバイヤーから見た現場の叱責文化

バイヤーから見た供給側の人材育成リスク

バイヤーの立場では、サプライヤーの「現場力」は品質・納期・コストなどすべての基盤です。

もしサプライヤーが若手社員を活かせない現場であれば、いずれ技術継承が進まず、その影響は取引先である自社にも跳ね返ってきます。

「なぜ若手がすぐ辞めるのか」「現場の雰囲気は健全か」といった観点は、近年の調達監査やサプライチェーン全体のリスクマネジメントで注目されています。

サプライヤーから見たバイヤー現場の厳しさ

サプライヤーの立場でも、バイヤー(購買担当)の「強い叱責」や「過剰な要求」に悩まされています。

これは「毛細血管のような現場」の積み重ねが上流でプレッシャーとなり、それがサプライヤーにも連鎖してきます。

すなわち、「理不尽な叱責」は自社の若手に留まらず、サプライチェーン全体で悪影響を広げているのです。

理不尽な叱責から現場を守る、具体的な打ち手

感情ではなく事実と論理をベースに

まず大切なのは、失敗に対して感情的な責任追及ではなく、「なぜ起きたのか」「どうすれば防げたか」と事実に基づき論理的に分析する姿勢です。

これにより、若手社員が納得し、次の成長のために前向きに行動しやすくなります。

OJTだけに頼らない教育設計

現場任せのOJTだけでは教育内容や品質にばらつきが出ます。

「仕事の標準化」「教育担当者の指名」「マニュアルや動画による補足」など体系だった教育設計が不可欠です。

これは昭和的な現場では敬遠されがちですが、いまこそ若手育成の仕組み改革が求められています。

「叱責」より「気づき」を促すフィードバック

ミスや課題を責めるだけでなく、「なぜそうしたのか」「どこが難しかったのか」を一緒に考え、その中から学びを引き出す問いかけが効果的です。

たとえば「何があればもっとやりやすくなった?」「どうしたら再発防止できそう?」と問い、現場社員の主体性を育てましょう。

それでも現場が変わるためには何が必要か

経営トップや工場長の意思表示

「理不尽な叱責」を否定し、「事実ベースの成長支援こそが競争力強化」と明言する責任者の覚悟が必要です。

人材育成への本音と本気が現場全体を変えていきます。

昭和体質の中堅・ベテラン社員へのアプローチ

彼らへの「否定」や「排除」ではなく、「自身の経験をどんな形で若手に橋渡しできるか」を一緒に考える機会を作りましょう。

たとえば「ベテランの知恵を若手が引き出すインタビュー制度」や「叱責ゼロの模範ライン長制度」など、多様な成功体験を現場で可視化することが有効です。

評価制度や現場KPIの刷新

教育熱心な社員や現場改善に貢献した社員をしっかり評価できる人事制度も必要です。

また、現場KPIとして「離職率の低減」「育成スピードの向上」も盛り込み、「定量的な成果」として現場活動を評価しましょう。

まとめ:脱・昭和、未来型現場のために

「理不尽な叱責」は、現場力という名のもとに今日まで許容されてきました。

ですが、それが若手社員を潰し、人材難と現場力低下の一因となっているのは、データでも現場肌感でも明らかです。

購買や調達を目指す皆さんや、サプライヤーとして現場目線を知りたい方にとっても、いま現場で何が起きているのか、どうすれば未来につなげるかを共有することは極めて重要です。

大切なのは、厳しさの中にも根拠と人へのリスペクトがあること。

現場力の再定義、そして「人」「モノ」「カネ」だけでなく「心」と「未来」を育む現場への進化を、今こそ本気で考えていきましょう。

You cannot copy content of this page