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一方的な責任転嫁をする顧客が壊す信頼関係

目次
はじめに ― 製造業の現場で頻発する「責任転嫁」問題
突然ですが、みなさんは「何かトラブルが発生したとき、なぜかいつも“相手のせい”にされて納得できなかった」という経験はありませんか?
このような“責任転嫁”は、製造業のサプライチェーン全体で根強く繰り返されている現象です。
とりわけ、取引先の顧客(バイヤー)が一方的に責任を追及し、サプライヤーに過度な負担やペナルティを押しつけてくるケースは後を絶ちません。
この記事では、20年以上現場に身を置いてきた立場から、
「一方的な責任転嫁がなぜバイヤー・サプライヤー間の信頼関係を壊すのか」
「なぜ昭和的な“強者の論理”が今なおはびこるのか」
「これからの業界人が知っておくべき考え方と実践的な対応策」 について
最新の業界動向も視野に入れて、深堀りします。
責任転嫁が蔓延る原因 ― 業界の歴史と構造的な背景
昭和的商慣習に根ざした“強いバイヤー・弱いサプライヤー”構図
製造業―特に日本のものづくり現場では、「お客様(バイヤー)は絶対」という精神が色濃く残っています。
これは「昭和時代」に築かれた、一種の上下関係をベースとした商慣習からきています。
・納期遅延や品質トラブルが発生した場合、まず“サプライヤー側が悪い前提”で議論が始まる
・いかなる理由があっても、「お客様が困るのは話にならない」と結論づけられる
・サプライヤーは対等なパートナーではなく、「言うことを聞く下請け」という認識が強い
こうした文化的土壌により、“責任の所在”を冷静に分析せず、感情や立場をもとに相手に押しつける風潮が根づいています。
「ゼロリスク要求」と“担当者保身”の台頭
近年、コンプライアンス強化やリスク管理の厳格化が進む中、
・「一切のトラブルを起こさないように求める(ゼロリスク)」圧力
・担当者自らの評価や立場を守るため“他責”にする行動
が顕著になっています。
失敗やトラブルを素直に共有し、全体で再発防止に取り組むのではなく、
「とにかく現場やサプライヤーに押しつけて自分は安全圏にいたい」
「形式的な是正報告書を書かせれば十分」という風潮が強まっているのです。
DX化の進展不足 ― アナログ体質が残す“あいまいさ”
IT化・自動化へ大きく舵を切る現代にあっても、
・電話やFAXでのやり取りが今なお主流
・「言った」「言わない」の水掛け論
・記録や証跡が不十分で、責任の切り分けができない
こうした現場のアナログ体質も、「とりあえずサプライヤーのせい」にしやすい土壌になっています。
一方的な責任転嫁が招く3つの重大リスク
1. バイヤー・サプライヤー間の信頼損失
最大の懸念は、「信頼残高の激減」です。
本来は、一度築いた信頼関係により、イレギュラー発生時も協力して解決できるのが理想です。
しかし、一方的な責任追及を受け続けるうちに
「どうせまた全部押しつけられる」
「本当のことを言っても無意味だ」
と相手への不信感が蓄積。
誤魔化しや隠蔽、表面的な対応が増え、根本的な改善も進まなくなります。
2. 長期的な競争力の喪失
信頼関係が壊れると、「協業による改善余地」や「新しいチャレンジ」も奪われます。
サプライヤーは“守り”に走り、最低限の対応しかしなくなります。
本来なら、工程・技術上の知恵出しやコストダウン提案、異常の早期共有といった“攻めのサポート”が得られる関係が理想です。
責任転嫁型のバイヤーのもとには、形式的なYESマンや受け身のサプライヤーしか残りません。
それどころか、本当に実力のあるパートナーは離れていき、
サプライチェーン全体が“弱体化”していくリスクが高まります。
3. 業界全体のイノベーション停滞
責任転嫁による「失敗=絶対悪」という雰囲気は、チャレンジ精神の大敵です。
品質問題や納期遅延の原因追及、本質的な改善、現場視点での智慧の共有が難しくなります。
結果として「現状維持・事なかれ主義」が蔓延し、業界変革やDX化のスピードも鈍化。
グローバル競争の中で、日本のものづくりが“後手に回る”土壌になりかねません。
サプライヤーから見た「バイヤーに知ってほしいリアル」
「責任の共有」と「納得感ある原因究明」が信頼を生む
製造現場で真剣に品質改善や生産性向上に取り組んできた立場から言えるのは、
“100%ノーミス”も “ゼロトラブル”も、決して簡単ではないというリアルです。
むしろ、
・納期急減/急増や無理なコストダウン
・早すぎる図面変更
・お客様側の業務指示ミスや受け入れ体制の不備
が起因してトラブルが発生することも決して珍しくありません。
矛盾ですが、「自分たちも原因の一部」である可能性を認め、“どうすれば再発しないか”をパートナーとして一緒に考える姿勢が大切です。
原因究明や対策の議論の場を「犯人捜し」ではなく「改善の機会」に変えるべきです。
真のパートナーから得られる“現場智”の価値
現場のサプライヤーは、納入先が知らない「課題の芽」や「改善のタネ」をたくさんもっています。
たとえば、
・工程改善によるコストセーブ提案
・新品種対応時の失敗ノウハウ共有
・不良の兆しを早期察知するための生産管理ノウハウ
・半導体や資材調達の“危機対応”アイデア
これらは「対等な信頼関係」でのみ、積極的かつタイムリーに引き出せる価値です。
一方的な責任転嫁が常態化すると、こうした智慧が黙殺・隠蔽されます。
長い目で見れば、企業の競争力を著しく損ないます。
バイヤー側に必要なマインドセットと実践術
“強者”の論理から“共創パートナー”への転換
まずは、調達購買担当者自身がもつ
・「顧客=上、サプライヤー=下」という意識
・すべてを“価格・条件”でコントロールしようとする姿勢
を見直すことが重要です。
パートナー(サプライヤー)も「同じ目的を持って走る戦友」であると再認識しましょう。
問題が起きた際は、
「責任を分担し、ともに原因究明・解決にあたる」
という共創型姿勢に変革することが、今後のカギです。
可視化/証跡の重視、新しい監査のスタイル
曖昧さが責任転嫁の温床にならないために、
・業務指示、品質検査、納品指示などのやり取りを「デジタル」で可視化
・「言った」「言わない」争いからの脱却
・事実ベースで是正を議論
DXやWeb商談ツールの導入で記録を残す/関係者でリアルタイム共有するなど、“攻めの可視化”はバイヤー自身の保身・証拠にもなります。
また、現地立ち会い監査や“現場Gemba目線”のヒアリングを増やし、
「実際にどんな工夫や課題があるのか」
「責任の所在はどうあるべきか」
を現物・現実で確認する姿勢も、これからの必須スキルです。
評価軸の再設計 ― “協働姿勢”にも点をつける
これからのバイヤーに求められるのは、単なる「品質・納期・コスト」の評価で相手を選ぶのではなく、
・問題共有・改善提案への積極性
・現場同士の交流推進
・データや実績のオープンストレートな開示
などの“信頼スコア”を含む評価軸の再設計です。
「苦しいときにいちばん寄り添ってくれたサプライヤー」
「トラブル時に一緒に汗をかいてくれた現場」
を長い目で高く評価するシグナルを発信することが、必ず次の競争優位につながります。
サプライヤー側ができる「対処」と「攻めの姿勢」
可視化と記録で“巻き込まれリスク”を抑える
サプライヤーの皆さんには、「とばっちり型責任転嫁」への自衛策として
・納品物/設定条件/変更指示の記録を必ず残す
・合意メモ、チャット記録、定期的なレビュー資料を用意
・不明点・不安点は必ず事前にエビデンス付きで確認
など、可視化と記録習慣の徹底をおすすめします。
“言い訳”ではなく、“事実をともに確認する姿勢”が、誤解防止や信頼構築に有効です。
受け身からの脱却―現場主導での発信と提案
トラブル時は“お客様からの連絡待ち”にならずに
「事実・経緯・現状」「今後起こりうるリスク」を先回りして報告しましょう。
また、日常的に
・改善案や工程見直し案
・工場の生産管理DXの進捗
・業界の動向(半導体不足等)の共有
を積極的に共創パートナーへ発信することが大切です。
「現場からの発信=リスクヘッジ」という攻めの意識が、結果として“責任転嫁慣れ”バイヤーの意識改革につながるはずです。
これからの製造業―「信頼」と「協業」で強い現場をつくるために
一方的な責任転嫁は、一時的な“形の上での問題解決”に見えても、必ず信頼関係の大きな損失になります。
これからの製造業は
・サプライチェーンのグローバル化
・複雑化する製品設計や短納期化
・人手不足とDXの加速
など刻々と変わる環境に適応し続ける必要があります。
そのためには、バイヤーもサプライヤーも「攻めのパートナー」へと進化し、
責任をなすり合うのではなく、「共創」「協業」に本気で取り組むべきです。
エビデンスに基づく対話、現場Gemba発の情報共有、トラブルを「知恵の源泉」とし合う文化――
これこそが、次代のものづくり現場に必要な信頼のカタチです。
古い体質から一歩抜け出し、日本の製造業をもっと強く、もっと世界に誇れる組織へ。
そのための「新しい信頼関係づくり」の一助になれば幸いです。
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