投稿日:2025年9月29日

提案資料が見にくく社員の信頼を失うコンサルタントの事例

はじめに

製造業の現場では、「提案資料」はプロジェクトの成否を大きく左右するものです。
特にサプライヤーやバイヤー、コンサルタントなど立場が異なる複数の関係者が関わる場合、資料を通じてスムーズなコミュニケーションが求められます。
しかし現実には、外部コンサルタントが作成した提案資料が見にくい、分かりにくいといった声が現場サイドから多く上がります。
その結果、資料を作成した本人がどれだけ優れた知見を持っていたとしても、現場の社員からの信頼を失うケースも少なくありません。
本記事では、20年以上の現場経験を持つ筆者が、実例と共に「なぜ資料が見にくいと信頼を失うのか」「昭和から続くアナログ体質が陥るワナ」「これから目指すべき資料作成とは何か」を掘り下げて解説します。

なぜコンサルの提案資料は見にくくなるのか

現場目線が抜け落ちている

コンサルタントは経営戦略や改善提案に関わるプロフェッショナルです。
その一方で、現場独自の業務プロセス・言語・文化を把握しきれていない場合が多くあります。
このギャップは、資料作成の段階で如実に現れます。
専門用語やITツール、抽象的な図表が多用されるのは、経営陣には通じても、現場担当者には「何が言いたいのか分からない」と受け取られがちです。
また、頻繁に使われる横文字やカタカナのビジネス用語も、製造現場ではかえって理解の妨げになっています。

情報の優先順位が曖昧

資料の見にくさは、情報の整理不足によるものが大半です。
どの数字が重要か、どの工程が転換点なのか、何をアクションとして現場が取ればよいのか、これらが明瞭に示されていないと、閲覧者は混乱します。
コンサルタントは多くの情報を盛り込みたがる傾向にありますが、現場では「結局、何が問題でどうすればよいのか」を最短で知りたいのが実態です。

視覚的な配慮の欠如

資料のフォントサイズ、色使い、図表の配置がバラバラだったり、1枚のスライドに情報を詰め込みすぎたりするケースも問題です。
これは、伝えたい熱意が空回りしているよくあるパターンです。
忙しい現場社員には「5秒で何が書いてあるか分かる」くらいのシンプルさこそが必要なのです。

事例紹介:見にくい提案資料が招いた失敗

ケース1:カイゼンプランの却下

ある工場の生産ライン効率化プロジェクトでの出来事です。
大手コンサルファームが導入した提案資料は、約60ページにおよび、工程ごとのスループットや稼働率の概念を英語表記のフローチャートやグラフで細かく解説していました。
しかし現場リーダーは、肝心の「自分たちに何を求めているのか」が理解できず、最終的に「実際に使えない」として却下されてしまいました。
背景には、「改善の絶対値」ではなく「現状との差分と具体的なアクション」を表現する現場流の資料構成がなかったことが挙げられます。

ケース2:品質向上PJでの混乱

品質管理のプロジェクトチームを対象とした資料が、「PPAP」や「APQP」など、自動車業界でしか使われない専門用語を見出しごとに多用していました。
一方で、日常的に品質異常対応を担っていたスタッフからは「用語が難しくて理解できない」「読み進める気が失せる」という不満が噴出。
機械操作や実際の作業へ具体的に落としこめないまま、プロジェクトは形骸化してしまいました。

昭和流・アナログ現場に根付く「本当に優れた資料」とは

「手書き」や「白黒」の説得力

1970〜80年代の日本の製造現場では、ホワイトボードや模造紙に手書きした進捗表・山積み表が大活躍していました。
一見すると時代遅れに見えるこの手法ですが、「誰が見ても分かりやすい」「現場で即反応・修正できる」という点で、今なお支持されています。
背景には「その場で説明・討議ができる」「自分たちの声をすぐ資料に反映させられる」といった双方向性があります。
最新のデジタルツールに比べて、アナログならではの「合意形成しやすさ」、そして「属人化しにくい分かりやすさ」が現場には重宝されているのです。

一目で分かる要点整理

現場たたき上げの管理者に共通する資料作成の特徴は、「1ページ1メッセージ」。
主要な指標や取組みアクションを、大きな数字と見やすい配色・アイコンで明確に整理します。
加えて、現場に刺さる言い回し(例:「今月のX値をあとY上げることが現場の目標」)を使い、ストレートに伝える工夫をしています。

リアルタイムな更新・アクションが組み込まれる

ただ発表・配布して終わるのではなく、「誰が・いつまでに・どう行動するか」を明文化し、進捗が可視化されていきます。
これが「現場で生きた資料」です。
カスタマイズ可能で、現場と経営層の両方にバランスよく伝わる仕組みが長く根付いている理由といえます。

デジタル時代でも現場目線を失わない資料作成のポイント

読み手のリテラシーレベルで資料を設計する

自分が伝えたい軸ではなく、「資料を受け取る側の理解度」「日々の業務で使われている言葉や表現」に合わせることが重要です。
例えば、現場員と経営層の両方が参加する会議用であれば、「図やグラフ+簡潔な説明文」「要点を赤字・太字、もしくはふきだしなどで強調」といった工夫が効果的です。
ITツールを活用する場合も、「スマホでも見やすいレイアウト」「最低限の操作だけで必要データへ即アクセスできる」仕組みに配慮しましょう。

数字や工程はシンプルかつ具体的に

複雑な分析や過去データを細かく並べるのは専門家のためであり、現場の実行部隊には響きません。
「A工程の稼働時間を10分短縮で、月間生産量が500個増」といった、具体的な効果の数値化を必ず提示します。
また、実際に現場担当者が「今週中にできる改善」など、直近のアクションに直結するように意識しましょう。

「なぜこの資料なのか?」の目的共有

提案資料の冒頭、あるいは発表時に「この取り組みが現場や事業全体にどんな価値をもたらすのか」を必ず明文化しましょう。
「何のための取り組みか」「自分たちが資料を通じてどこに参加できるのか」が明確になることで、現場の納得感と主体性が格段に高まります。

まとめ:信頼される資料とは、「現場と未来をつなぐ橋」

製造業における資料づくりは、単なる見せ方ではありません。
最前線で働く人たちに「自分ごと」として腹に落ちる提案でなければ、いかに優れた戦略も受け入れられません。
コンサルタントもサプライヤーも、バイヤーも、資料を通じて現場との信頼構築を第一優先にしなければなりません。
昭和のアナログ流に学びつつ、現代のデジタルツールを「現場のわかりやすさ」で使いこなすことこそ、業界発展のカギといえます。
最後に、「社員の信頼を失う資料」と「信頼を勝ち取る資料」の違いを意識し、ぜひ現場目線の「生きた提案資料」づくりに取り組んでみてください。

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